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彼女はくノ一! 第五話 (36)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(36)

 ライフルを分解し、テーブル一面に部品を終わると、篤朗は、
「ふむ」
 と頷いた。
 いつの間にか、篤朗の後ろにテンが立っていて、テーブルの上にぶちまけられた部品をじっと見つめている。
「さっきの話しでは、これらの寸法、全て覚えているということだったな?」
 篤朗が背後のテンに確認すると、テンは黙って頷いた。
「……それを、忘れないように。
 ちょっと、これを持って……重さ、形……この、内側の溝の深さまで……しっかり覚えるのだ……」
 テンは、篤朗から渡された、鉄パイプに見える銃身部分をしげしげと眺め、内側を覗きこんだりしていったが、「わかった」というように頷いて、すぐに篤朗の手に銃身を戻した。
「もういいのか? 
 では、見ているのだ。今から組み立て直すのだ……」
 分解した時とは比較にならない早さで、篤朗の腕が動く。
 作業に慣れた孫子の半分くらいの時間で、篤朗は元通りにライフルを組み上げた。
「……ちょうどいいのだ……」
 篤朗は、組み上げたライフルを孫子に渡し、テンの頭の上に掌を乗せ、強引にテンの体を自分のほうに引き寄せた。
「この子に、君のライフルのコピーを作らせるのだ。
 新入りの実習に、ちょうどいい課題なのだ……」
 篤朗は、「テンに自分の設備と材料を与え、実技指導を行い、テンに孫子のライフルのコピーを作らせる」と宣言した。
「……この子がどの程度使えるのかわかるし、一石二鳥なのだ……」
 呆気にとられている孫子とテンをよそに、篤朗はそんなことをうそぶいた。
 テンのほうは、篤朗がいったことを理解して、だんだんと顔を輝かせてくる。
 孫子のほうは、最初呆れ顔だったが、しまいには「やれやれ」といった感じで肩をすくめた。
「……確かに、そちらの作業が終わるまで、この子を貸し出したままにしておく……というのも、不用心ですわね……」
 無理に、納得した表情を作った。
 孫子にしてみれば、篤朗の思惑が不首尾に終わっても、実家から新しいライフルを取り寄せればそれで済む話しで……任せても、なんら、不都合はないのであった。
 孫子は篤朗から返却されたライフルをゴルフバックをしまい、自分の元に引き寄せた。
 細かな部品まで含めて、テンの頭の中に入っている……というのであれば、見本品は、しばらく必要ないのだ。
『……後は、……』
 彼らの複製が、ある程度、実物通りの形になっているのを確認したら……素材などの「詰め」は、その後に、行えば良い。
 銃器に使用される金属類には、精度、硬度、耐熱性……など、特殊な条件が要求される。多少の技術力があったとしても、見よう見真似で複製できる代物ではなかった……。
「……最初は、銃身……それをクリアしたら、他の細かい部品も、一つ一つ作らせるのだ」
 孫子の考えていることを見透かしたような口調で、篤朗はそういった。

 しばらくして、食料品の詰まったビニール袋をぶら下げた荒野が帰宅したのを潮に、孫子はマンションを辞した。

「……じゃあ、徳川君の所で孫子ちゃんの鉄砲、作らせることになったんか?」
「試しにやらせてみる、といった感じですわね……」
 三人がいない食卓は、やけに静かに感じた。
 そんな中で、羽生譲一人が快活で、なにかと他の住人たちに話しかけている。
「……そんなに簡単にできる代物ではございませんので、実際に言ったとおりのものができるのかどうかは……しばらく、様子をみてみないことには……」
 孫子のライフルは、簡易な設備で複製できることを前提とした、量産品前提の安物のハンドガンではない。電装品類を除いたとしても、部品一つ一つが寸分の狂いもなくぴったりと組みあわされる事で初めて満足に機能する……精密機械だ。
「……そういいながらも……孫子ちゃん、案外やれると思っているんだろ?」
「わたくしがどう思うとも……豪語した通りのことが実際にできなければ、意味がありません……」
 孫子は澄ました顔をしてそういい、食事を続ける。

 食後、一息ついてから、楓と孫子は一時間前後、香也の勉強を見る。これはもはや、完全に日課となっていた。
 その後、寝るまでの時間、香也は庭のプレハブに入って絵を描くことになる。
 この時の楓と孫子の行動は日によって異なる。自分の勉強のために、あるいは他の用事にあてることもあれば、別の用事をしていることもあり、あるいは、庭のプレハブにいって香也の背中を黙って眺めていることもある。
 楓と孫子の間では、いつの間にか、「絵を描いている時、香也の邪魔はしない」というような不文律が、暗黙のうちに成立していた。
 だから、プレハブで香也と二人のうちどちらかが二人っきりになっても、とりたてて問題視することはなかった。
 この日の場合は、香也と一緒にプレハブについていいったのは楓だけで、孫子のほうは自室に引きこもった。
 孫子は、それから寝るまで間、明日、着る予定の水着を選び続けることになる。
 孫子は、楓とは違い、何着かの水着を所有している。そのうち、どの水着を着用するのか、まだ決定していなかった。
 鏡の前でそれらをとっかえひっかえして自分の体の前にあててポーズを取ったり、かと思えば、ポーズを取ったり、急に赤面して顔を伏せたり、また別の水着を手に取ったり……と、なかなかに忙しかった。
 普段の、冷静沈着を絵に描いたような孫子しか知らないクラスメイトたちが今の孫子をみたら……かなり、違和感を覚えたことだろう。

 翌日、学校は休みだったが、狩野家の人々は、だいたい平日と同じ時刻に起き出していた。楓や孫子が来てからというもの、香也の生活も、学校に行くか行かないかにかかわらず、かなり規則正しいものになっている。以前のように、休みだから……といって朝寝を愉しんでいると、二人が競うようにしてたたき起こしに来るので、自然と規則正しい生活態度になってしまう。
 根本的な部分で放任主義の真理も、どちらかというとこの傾向は歓迎している。香也の生活が健康的になっったから、ではなくて、朝御飯の準備と片づけが一回で済む、という極めて即物的な理由からだったが。
 この日、隣りにある荒野たちのマンションに泊まりに行った三人は、朝早くに帰ってきて、風呂場でざっと汗を流した後、自分たちの部屋に戻って着替え、真理と一緒に朝食作りの手伝いをしている。
 三人は毎朝ジョギングでもしているらしく、毎朝、朝早くから外出していた。狩野家の中で一番の早起きは、間違いなくこの三人だろう。

[つづき]
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