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第五章 「友と敵」(78)
ラジオ体操が終わると、ようやくプールに入れるようになった。とはいっても、レーン毎に初心者用、ウォーキング用、巡航用、と使い方が定められている。子供用の浅いプールは大人用のものとは別にあり、三人と浅黄はそっちに向かった。そっちのほうはレーン毎に細かい決まりがあるわけではなく、小学生前後の子供たちが賑やかに水遊びをしている。茅もそちらのほうに行きたそうな顔をしていたが、柏あんなは大人用のプールの、初心者用のレーンに茅を連れていき、水に顔をつけられるかどうか、という所から確認しつつ、丁寧に教えはじめた。茅は、泳ぐのは初めてとはいえ、水に対する過剰な恐怖心は持ち合わせていないようで、顔をつける、そのまま、顔を下にして全身を水面に浮かべる……など、柏あんなの指示することを無難にこなした。
すると、柏あんなは、プールサイドに置いてあったビート板を借りてきて茅に渡し、使い方とばた足のやり方、それに息継ぎの仕方を簡単に教えると、すぐに実地にやらせてはじめた……。
しばらく様子を伺っていた荒野は、「どうやら問題はないらしい」と判断し、その初心者用のレーンから離れる。
そのすぐ隣りのレーンは、ウォーキング用のレーンになっていて、体型からしても明らかに生活習慣病候補者と思われる男女が自分の贅肉をたぷたぷと揺らしながらゆっくりと歩いていた。
そちらのレーンには用はなく、さらにその隣りの、普通に泳げる人たちのためのレーンに向かうと、まだ朝も早いというのに、そこは結構込み合っていた。
泳げることは泳げるが、前後に常時別の人間が泳いでいる状態で、前後の人の速度にあわせなければならず、自分のペースで泳げないようだった。
『……イモ洗いの一歩手前、って感じだな……』
と、荒野は思った。
日本人口の局地集中的な傾向を今までの経験から体感してきたので、さして不思議には思わなかったが。
……あの二人も、このような状態なら張り合いようがない……。
そんな理由で、荒野としてはどちらかというと有り難い状態だった。
これだけ込み合っていると、二レーンを占有しての競泳、など、できよう筈もなかった。
その二人、楓と孫子は、あるスタート台の下で、つまらなそうな顔をして水に浸かっている。荒野は二人に近づいて、
「お前ら、泳がないか?」
と尋ねてみた。
「……泳ぎたいのは、山々なのですけど……」
「……こんなにゆっくりは、かえって泳ぎにくく……」
そんな所だろうな、と、荒野は思った。
この二人が全力で泳がせるのなら、レーンを完全に空けなければ、危なくてしかたがない。そして、この二人は、揃ってその手のことで手を抜くのを嫌がっていた。
「……そっか……。
おれは、泳がせて貰おう……」
飛び込みも禁止されているので、荒野は二人の近くで、足から静かに水の中に入っていく。
「……そういや、ほかの連中は?」
首から下を水につけた荒野が、二人に尋ねる。
「あっちこっちに」
ということで、あんまり固まっているのも周囲の邪魔だから、適当にレーンを別れたらしい。特に飯島舞花と栗田精一などは、できるだけ二人きりになりたいことだろう。そういえば、堺雅史も、それなりに泳げる様子だったのんい、初心者用のレーンで柏あんなの回りをうろろしていた。
「……香也くんは?」
二人は、自分たちがいるレーンの先の方を指さした。
考えてみれば、この二人が、香也の側から離れたがるわけはないのであった。
『……あー。……香也君が泳いでいるのを邪魔しないために……』
自分たちはここにいるのか、と、香也はようやく思い当たった。
そういえば……左右のレーンに比べ、このレーンだけなんっとなく人口密度が薄い。
二人がここで睨みを効かせて、なんとなく他人が入りにくい雰囲気を作っているらしかった。
『……なんだかなぁ……』
と、思いながら、荒野は壁面を蹴って泳ぎはじめる。
『実力行使とか、はっきりと脅しつけて人払いしていないだけマシか……』
他のレーンと比較するれば、確かに多少は人は少ないとはいえ、このレーンもやはりそれなりに泳いでいる人はいる。
泳ぎ初めてすぐ、荒野は前を泳ぐ人に追いつき、その人のペースに合わせてかなりゆっくりとした速度で泳がなければならなかった。
そんなに遅い速度で泳ぐのは初めてのような気がしたが……あえて悠々と泳ぐのも、なかなか気持ちがいい。
ゆっくりとしたぺースで五十メートルを泳ぎきると、楓や孫子たちがいる場所の対面で、香也が休憩しているのをみつけた。四、五人ほどの人々が、首だけをだして香也と同じように休憩している。
「……や」
荒野は、香也に声をかけた。
「楽しんでる? あの二人、迷惑かけていない?」
香也は、
「……んー……」
と、例によってどううとでもとれるような唸りを発し、その後、
「……泳ぐのも、久しぶりだから……」
といって、額に押し上げていたゴーグルをかけ直し、荒野が来た側に向かって泳ぎはじめる。
さして速くもないし、力強くもなかったが……無駄な動作がない、なかなか端正なフォームだと思った。
『……別に、運動が苦手、というわけでもないのか……』
普段、プレハブに籠もって絵ばかり描いている、というイメージが先行していたため、香也が割とまともに泳いでみせたのが、なんとなく意外だった。
荒野は水からあがり、他の連中を捜してみる。
飯島舞花と栗田精一は、やはり一緒にいた。同じレーンを前後して泳いでは、岸に度に小休止してあにやら談笑している。
羽生譲は、プールサイドで数人の男性に囲まれていた。荒野が通りかかったのに気づくと、
「荒野君!」
と小さく叫んで男たちの輪を強引にかき分けて、荒野の腕をとった。
「……ナンパ」
と、荒野の耳元で、小声で囁いた。
事情を察した荒野が、ほんの少し殺気を込めて一睨みする。
すると、大学生らしい、筋肉質の二十歳前後の男たちは、少し青ざめた顔をして二、三歩後退し、荒野と羽生譲に背を向けた。
「……助かったよー、カッコいい荒野君」
そいつらの姿が完全に遠ざかると、羽生譲は明らかに安堵の表情になった。
[
つづき]
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