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髪長姫は最後に笑う。第五章(79)

第五章 「友と敵」(79)

「いやぁ……こういうところだし、いきなり囲まれた時はちょっくら焦っちゃたよ……」
 羽生譲は、すぐにいつも通りの快活さを取り戻した。
「こういうひと目が多いところでも、ああいう真似するの、いるんだなぁ……」
「確かに、あいつら頭悪そうですが……」
 荒野は苦笑いを浮かべた。
「羽生さんも、そんな、他人ごとみたいに……」
 二人は、一面ガラス張りになっているプールの南側に置かれているベンチに座っている。
 冬ではあるが、室内はプールの湿気が充満しており、外からは意外に強い日差しが差し込み、で、じっとしていても肌に汗が浮かぶ。
 羽生譲は、
「でも、ああいうのは、こっちでは避けようがないからなぁ」
 といって、ははは、と笑った。
「……まあ、こういう場所だし、ついていってもそんなたいした事はなかったと思うけど……ありがとな、カッコいいこーや君」
 茅がビート板から顔を上げて立ち上がり、手を振ってきたので、荒野と羽生譲は手を振り替えした。茅と柏あんながいる初心者用のレーンは、荒野たちのいる南側の端にある。そんなこともあって、荒野は今のベンチを休憩場所に選んだ。
「たまたま通りかかっただけですから、礼なんて別にいいんですけど……」
 荒野は、羽生に聞いた。
「あいつらが誰か、心当たりあります?」
 羽生は、腕を組んでうーん……と唸った。
「……たぶん、近くの大学の、サークル……だと、思う。確証とか根拠があるわけではないけど……全員、それなりに鍛えた体してたし、声かけてきた時もどもってたから、あれ、本気でナンパ、っていうより、そういうのに慣れていない体育会系の学生が、度胸試しなんだか、それとも、人数多いんで気が大きくなったのか知らないけど……」
 ……なるほど……と、荒野は心中で頷く。
 そういえば、水着姿になっていてさえ、よく言えば木訥、悪く言えば垢抜けない雰囲気を漂わせていたような気も、する……。
 少なくとも、荒んだような気配は漂わせていなかった。
 案外、普段はそれなりに気のいい奴らなのかも知れないな……と、荒野は思った。

「なあ、かのうこうや……」
 ベンチで休んでいると、いつの間にか三人組と徳川浅黄が傍に来ていた。
「……なんだ、お前ら……もう泳がないのか?」
「プールの水って、変な味と臭いすんのな! 水道水の味と臭いも最初はアレだったけど、プールの水は、そっちとはまた別で、なんかよりキツイ感じで……」
「それ、塩素……消毒薬のせいだ。多少は入れ替えて、浄化をしているんだろうが……基本的に、同じ水、ぐるぐる廻して使っているから、消毒くらいしないと衛生的に危ない……」
「ふーん……そういうもんなのか、プールって……あ。そうじゃなくてな。
 ボクたち、こっちの深いほうのプールで泳ぎたいんだけど、あっちの人たちが駄目だっていうんだ! かのうこうや、なんとかならないか!」
 そういってガクは、バイザーをかぶり、拡張期をもって監視台の上に座っていた係員を指さした。
「……ここでは、泳げるとか泳げないとかに関係なく、子供はあっちのプールしか入れない規則なの……。
 あの人も仕事で規則を守らせようとしているだけなんだから、駄々こねてあんまり困らせるな……」
 ガクは、「つまんないのー……」といって、口を尖らせた。
「ねね。かのうこうや……」
 ノリが、ちょいちょいと、手首だけで荒野を手招きした。
「さっき、にゅうたんにいいところ見せてたでしょ?
 この、知能犯!」
 荒野が顔を近づけると、耳元でノリはそんなことをくっちゃべった。
「にゅうたん」というのは、羽生譲の事、なのだろうが……なんなんだ、その知能犯、っていうのは……。まるでこちらが仕組んだようないいかたではないか。
 第一、どこでそんな語彙と用法を仕入れてくるのか……。
「……スケベ!」
 テンは、上目遣いに荒野の目を見据えて、ふん、と鼻を鳴らして顔を背けた。
「……はいはい。
 もうどうでもいいから、お前らは浅黄ちゃんと一緒に向こうのプールで遊んでこいって……」
 荒野が適当にいなすと、三人組はトコトコと元の子供用プールのほうに戻ってくる。浅黄も、大人しくその後をついていった。
「……なんか、すっかりいいおにーさんだなぁ、カッコいいこーや君……」
 振り返ると、そんな荒野の様子を、羽生が面白そうな顔をしてみていた。
「いや……あの程度のことに、本気で怒るまでもないかなー……ってだけのことなんですけど……」
「でも、カッコいいこーや君のこういう所をみれるとは、思っていなかったよ……。
 最初の、知り合った頃のカッコいいこーや君からは、さっきみたいなカッコいいこーや君は想像できない……」
 どうやら、羽生譲は笑いをかみ殺しているようだった。
「……おれ、もうちょっと泳いできます……」
 そういって、荒野はその場を離れた。

 時間がたつにつれて、人が増え始めたようだ。
 レーンにはさっきよりも人が増えていて、どうせ思うように泳げないのならば、と、荒野はプールの底に潜水したまま、どこまでもどこまでも泳いでいく。監視員にみつかれば注意されるかも知れないが、急に浮上したりしなければ、危なくもないし見つかりもしない筈だった。
 無音の世界で、手足を使って水を掻いて進んでいると、水面上で泳いでいる人やプールの外の世界を、ことさら意識しないようになる。
 おそらく……酸素が不足し、思考能力が落ちる分、想像力が欠落するだけ、なのだろうが。
 荒野は、そうした、「自分以外の存在を意識しないで済む時間」が、けっして嫌いではない。
 レーンに沿って五十メーメートルを泳ぎ切り、水のそこで壁を蹴ってターンをして、そのままさらに泳ぐ。
 苦しいことは苦しいが、限界はまだまだ先にあった。出発した場所に戻るまでは、十分に息が持つだろう……。
 そんなことを漠然と考えながら泳ぎ続けると、右隣のレーンで泳いでいた男が、途中から深度を下げて潜水し始め、ほぼ、プールの底すれすれの、荒野と同じくらいの場所を、荒野と平行して泳ぎはじめる。
 左隣のレーンを泳いでいた者も、右隣のレーンの男にならって、潜水して荒野と並んで泳ぎはじめた。
 確認すると……右隣の男は香也、左隣の女は飯島舞花らしかった。

[つづき]
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