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髪長姫は最後に笑う。第五章(80)

第五章 「友と敵」(80)

 潜水して並んで泳いでいた荒野、香也、舞花は、ほとんど同時にゴールに近づいた。とはいっても、ゴール近くの壁には数名の人たちが立って休んでおり、上を泳いでいる人とぶつからないように注意しつつ、ゆっくりと浮上していく感じだったから、順位は特定できない。いや、そもそも、マイペースで長距離を泳いでいいて途中から潜水に切り替えた香也、香也ほど続けて泳いでいたわけではないが、やはり途中から潜水の舞花、百メートルを潜水し続けた荒野では、条件が違いすぎて競争は成立しないわけだが。
 ともかく、ほぼ同時に浮上した三人は、人を掻き分けるようにしてプール際の壁に取り付き、香也の近くに集まる。香也は、壁に肩を預けて忙しく空中から酸素を取り込んでいる。
「……いやあ、すごいな、絵描きさん……」
「うん。意外と……といっては失礼か……とにかく、やるななぁ……」
「今からでも、水泳部にスカウトしたいくらいだ……」
「……それ、実際にやったら樋口に恨まれるぞ、かなり……」
「ほ、本当にはやらないよ……いくらなんでも……」
 香也のもとに近づいてきた舞花と荒野は、交互にそんなことを言い合った。
「……なんか……泳ぎだしたら……途中から、楽しくなってきて……止まらなくなっちゃって……」
 香也は、ゴーグルも外さずに喘いでいたが、忙しい呼吸の合間にそんなことをいう。
「……ああ……そう、だな……」
 香也の言葉を聞いた途端、荒野は、何故か切ない気持ちになった。
「……楽しい……よな……こういうの……」
 言われてみて初めて気づく、というのもなんだが……確かに、舞花や香也と並んで泳いでいる時……。
「うん。楽しい……な……」
 たしかに、無性に、楽しかった。
 一体なにがおかしいのか、舞花が声を立てて笑いはじめる。一往復泳いで帰ってきた栗田精一が、笑っている舞花を怪訝な顔をして見つめる。
 荒野も、何故だか笑いたい気分になった。
 三人組と徳川浅黄が香也を子供用プールに誘いにきて、それを追って楓と孫子もプールサイドに上がる。
 入れ替わりに、茅と柏あんな、堺雅史がこっちのレーンに移ってくる。
 柏あんなはしきりに茅の覚えの良さに感心していて、茅が一時間もかからずに自由形のフォームをマスターしたと聞いて、飯島舞花と栗田精一も、かなり驚いていた。
 茅が実際に泳いでいるのを見て、水泳部の三人は呆れたような関心したような、なんともない表情をしている。
「正確なフォームって……実は、難しいんだよ……水泳部のヤツでも、ずっと下手なまんまのヤツもいるし……」
 舞花がそういうのを聞いて、荒野はなんとなく納得する。
『……フィジカルな学習能力、か……』
 いわれてみれば……「頭では理解していても、想定していた通りに体が動かない」というのは、よくあることで……というか、スポーツの難しさはそのあたりに起因しているわけで……そういうのは、記憶力とは、あまり関係ない……。
『見たものを、即座に真似することができる、というのも……』
 ……今まであまり深く考えたことがなかったが……確かに、かなり特殊な能力だ……と、荒野は思い当たる。
 ……一族の者の中にも……そんな、便利かつ都合の良すぎる特技をもつ者がいる……とは、聞いたためしがない。一族の技は、先天的な資質持った者が、中い年月を修練して、初めて体得できるものだ……。
『そう考えると……たしかに凄いよなぁ……茅って……』
 荒野はぱちゃぱちゃと水飛沫をあげて泳ぎ続ける茅を見つめながら、そんなことを考えている。

 結局プールには二時間ほどいた。
 例のラジオ体操は一時間に一回の割合であって、その前に十分間、プールの点検を兼ねた休憩時間がある。ラジオ体操、四十五分のプール開放時間、十分間の休憩、のローテーションを二回転ほど繰り返したところで、三人組と荒野、楓、孫子以外の面子に、目に見えて疲労の色が濃くなった。特に四歳の徳川浅黄はかなり疲れている様子で、にも関わらず自分の体力を顧みずにさらに遊ぼうとしたので、周りの人たちが慌てて押しとどめて帰り支度をすることになった。
 帰りの車の中で、浅黄と茅はすでに寝息をたてていたが、狩野家の居間に入ってからもその様子は変わらず、むしろ即座に炬燵に潜り込んで熟睡し始めた。
 他の連中は、「疲れたー」、「腹減ったー」とか言いながら庭に出て、バーベキューの用意をしていた真理や三島百合香、樋口明日樹、大樹、玉木珠美や有働勇作と合流する。玉木珠美は「こっちに知らせずにプールいったんだって?」と口を尖らせた。
「なんだ。お前も行きたかったのか?
 なに分、昨日急に決まったことだし……それに、プールっていっても、あの市民プールだぞ。ほとんど運動不足のおじさんおばさんしかいないような……」
 荒野はそういって玉木いなしたが、玉木のほうは、
「こんだけ人数いて誰ひとりこっちに知らせてくれないとは友達甲斐のない奴らだ嘆かわしい」
 とか、芝居がかった大げさなジェスチャーで嘆き悲しみはじめた。
「それより、肉焼こう肉。運動したからお腹空いたー」
「野菜もだ。栄養のバランスを考えろ。たっぷり用意しているからな……」
「焼こう焼こう! 早く焼こう!」
 ……誰も、玉木を相手にしていなかったが。
「ままま。玉木ちゃん、いつまでもむくれてないで、飲み物でもおひとつ……」
 いつの間にか近寄ってきた羽生譲がよく冷えた缶のプルトップを開けて玉木に差し出す。玉木は特になにも考えず、ごくごくと一息に飲み干し、ぷはーっと息を吐いたかと思うと「ヒクッ」としゃっくりをしだした。
「……炭酸、はいってますね、これ……」
 そういって玉木は「ヒクッ」と、また、しゃっくりをした。
「まあ、炭酸もはいっているけど……基本的には、その他雑穀の汁を巧い具合に発酵させたものだな……」
「初めて飲みますけど……おいしいですね、これ……もう一本……」
「おー。いいよいいよ。いくらでも冷えたのあるから……。
 玉木ちゃん、いける口だなぁ……」
 玉木は、羽生譲から渡された缶を片っ端からごきゅごきゅと喉を鳴らして飲み干した。
 そのすぐ側で、有働勇作が心持ち青い顔をして玉木珠美が空き缶を作るのを見物している。
「あ、あの……そんなにいっぺんに飲むと……急性……」
「ままま。
 うどーくん、堅いこというなよ今日は無礼講だよ。
 それに、だな、未成年はこういう経験を積んで大人になるのさ。自分の適量は早めに見極めておいたほうがいいんだって……」
 柏あんな、堺雅史、飯島舞花、栗田精一は、遠巻きにして「……をい、羽生さん、また年末と同じようなことやっているよ……」などと囁きあっていた。

[つづき]
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