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髪長姫は最後に笑う。第五章(81)

第五章 「友と敵」(81)

 玉木珠美に手渡される缶の中身は「雑穀酒」から「麦酒」に移り、その後すぐに缶ではなくグラスに注がれた米を原料とする透明な発酵性の飲料へと変化した。
 結果、肉が焼き上がる頃には、玉木珠美はすっかりできあがっていた。
「……た、玉木さん……飲むだけだと体に悪いから、これ……」
 有働勇作が串から外して紙皿に盛った肉や野菜と割り箸を、玉木の前に差しだす。
 赤い顔をした玉木は、「ヒクッ」としゃっくりをした後、顔を真っ赤にして、上目遣いに有働の方をみる。
「おぅ……気がきくなぁ……ウドー一号君……」
 玉木は、紙皿を有働に持たせたまま、割箸をとってそれを割ろうとした。
「ちょうど……つまみがな、欲しいと……ん? んん?」
 なかなか、割れない。
 実は、すでに前後不覚になている玉木が、割り箸の割れ目の部分を指でしっかりつうかんだまま割り箸を左右に、力任せに引っ張っているせいで割れないのであるが、すでに前後不覚にあえいる玉木珠美は、そのことに気づかない。
 ひとしきり「ん? んんんー!」とめいっぱい力んで割り箸を左右に引っ張っていた玉木は、駄目だ、と判断したのか、がっくりとうなだれて有働を手招きした。
「……駄目だ……ウドーちゃん、これ、お願い……」
 この頃から、玉木と有働の様子がおかしいのに気づいた三人組が、紙皿と箸を手にして、二人を取り囲むようにして車座になり、見物しはじめた。
 割れていない割り箸を玉木に差し出され、有働は一瞬ぎくりとした顔をした。
 が、結局は、玉木から箸を受け取る。しかし、すでに紙皿を持っているので、両手を使うことはできず、しかたがなく、左手に皿を持ったまま、右手と歯で軽く噛んで、割り箸を割る。自分で使うのならともかく、こうした割り方をした箸を他人に渡すのは抵抗があったが……とりあえず、有働は玉木に割った箸を手渡……そうとは、した。
「玉木さん……はい……」
「ん? できた? じゃ……あーん……」
 玉木は、有働の予想に反して、手を出すのではなく、大きく口を開ける。
 有働は目に見えて動揺し、視線を宙にさまよわせた。
「……な、なんのもり……」
「だから、あーん……そのお肉、入れて入れて……」
 玉木は、有働の動揺に気づいているのかいないのか、相変わらず目を閉じたまま、無防備に大口を開けていた。
「……早くいれてぇ……。
 口開けたまんま、というのも、これで疲れるんだから……」
 有働は周囲を見渡した。
 肉を焼いている樋口明日樹は「……有働君……かわいそうに……」というモロ同情のまなざしで、ビールの缶を傾けていた羽生譲は「若い者はいいねー」とでもいいたげなにやにや笑いを浮かべながら、羽生の隣りで焼き上がった料理を持った皿を配りながら、真理は「あらあらあら……」といった表情で、飯島舞花と孫子はあかるさまに面白がっている表情で、楓と柏あんなはどこか期待を込めたまなざしで、樋口大樹は羨望のまなざしで、それ以外の香也、栗田精一、堺雅史は同情……というよりは、もっと切実な、「狢が、同じ穴の狢を見るような」悲哀に満ちた表情で有働勇作を見守っている。
 プレッシャーだった。
 はっきりいって、プレッシャーだった。
「むー……ウドーくぅん……早くぅ……」
 玉木は上気した顔を有働のほうに、つまりは上にむけ、何故か目をつむって催促する。
 有働勇作は、ごくりと固唾を呑んで、箸で摘んだ肉を玉木の口元にもっていった。
 肉が口唇に触れるか触れないか、という間合いで、玉木は突如有働の手首を両手でがっちりと掴み、箸で摘んだ肉を素早く引きちぎるようにもぎ取り、そのまま咀嚼する。
 何故か、様子を見守っているギャラリーから歓声と拍手が起こった。
 唖然として棒立ちになっている有働に構わず、玉木は地面に直接置いていたグラスに半分ほど残っていた冷酒をぐびぐび喉を鳴らして飲み干し、ぷはー、大きく息を吐いてから「ヒクッ」とまたしゃっくりをした。
 妙に、親父くらい動作だった。
 それから玉木は、唐突にげたげた笑いだし、
「ウドー君、もういっちょう!」
 などといって、また目をつむって「あーん……」をした。
 またも、しぶしぶ従う有働勇作。泣く子と酔っぱらいと玉木には勝てない。玉木が泣き上戸ではないだけ、まだマシだった。

「……荒野……」
「やらない」
 荒野は、興味津々、といった感じでその様子を見ていた茅がなにか言い出すが早いか、その言葉を途中で遮った。
「ああいうのは、普通、人前でやるものじゃないし、特に、兄弟でやることは、まず、ない」
 それから茅の耳元に口を寄せ、
「……どうしてもっていうなら、後で、二人きりのときにな」
 と小声でつけ加える。
 なにを思っているのかは分からなかったが、茅はとりあえず頷いてくれた。
『……まあ、物珍しさが先に立っているだけだろうから……』
 一回か二回、実地に経験してみれば満足するだろう……と、荒野は思った。

 三島百合香が「も一杯いくか? ん?」などと言いながら一升瓶の中身を空になった玉木のグラスに注ぐ。一応、三島も学校職員の端くれであるのだが、生徒に飲酒を勧める三島の挙動を、誰もおかしくは思っていない。
『三島先生だから……』
 ということで、その場にいる誰もが納得してしまっている。
 そのうち、一端家の中に入ってビデオカメラを持ってきた羽生譲が玉木にカメラを向ける。
 ビデオカメラに気づいた玉木は、レンズに向かってVサインをし、けけけ、と笑いながら有働の胸板に抱きついた。抱きつかれた有働はおろおろと周りを見回したが、誰も助けに入ろうとはしてくれず、ただただ哀れみのこもった視線を送りながら、各自勝手に飲食やおしゃべりに興じている。
 しばらくすると玉木は、抱きついていることに飽きたのか、あっさりと有働から離れ、三島が注いでくれた中身をまたもや一気に飲み干すと、とろーんとした目を周囲にめぐらせ、目についた二人、ノリと樋口明日樹を手招きする。
 ノリは不審そうな顔をして、明日樹は明確に警戒した表情で、下手に逆らうと、怖そうだったから、それでもしぶしぶ玉木の方に歩み寄る。
 寄ってきたノリと明日樹の肩を強引に左右から自分のほうに抱き寄せ、玉木は羽生が構えたビデオカメラに向かって、
「三人揃って! 眼鏡っ子スリー!」
 と大声で喚いてげたげた笑った。

 その玉木も、流石に飲むピッチが速すぎたのか、それからいくらもしないで意識を失うようにその場で寝息を立て始め、有働に担がれて居間に運ばれ、炬燵に寝かされた。
 三島の、
「寝ゲロ対策……しておいたほうがいいぞ……」
 という忠言に従って、玉木の下にはビニールシートが敷かれ、玉木の体にかけられたのは、いつ捨ててもいいような古毛布になった。

[つづき]
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