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髪長姫は最後に笑う。第五章(82)

第五章 「友と敵」(82)

 玉木を寝かせて帰ってきた有働は、浅黄を背後にしていた。玉木を寝かせる準備をしていた時の物音で、起きたらしい。
 浅黄は、少し前に起きていた茅の隣に立った。
 茅も浅黄も、まだ寝足りなそうな顔をしていたが、コンロの近くに来て肉が焼ける臭いが近くなると、段々と表情が変わってきた。
 香也たちと同様、運動をした後だから、お腹が空いているらしい。
 串から外した熱々の肉や野菜を紙皿に盛って箸といっしょに渡すと、慌てて食べようとして「あつっ!」と、小さく叫んで顔を離した。
 茅と浅黄の、その一連の動きが、見事な相似形だったので、観ていた人々から軽い笑い声が起こる。
 その後、きょとん、と首を小さく傾げた動作も、まるでシンクロナイズドスイミングの様に同調していたので、笑い声はさらに大きくなった。

 しばらく食べるとようやく落ち着いたのか、茅は庭を出て行こうとした。
「茅……どこに行く?」
 荒野が呼び止めると、茅は、
「お茶の準備。おもてなしなの」
 と、答えた。
 荒野は自分の皿から肉を一片つまみ、
「……茅……肉を焼く時の、この臭い……。
 紅茶に、合うと思うか?」
 そして、肉を摘んだままの箸の先で、コンロをさす。

 炭火に炙られた肉が、じりじりと脂が焼ける時の香ばしい煙が上がっている……。

 茅は、棒立ちになってしばらく鼻をひくつかせた後、がっくりと肩を落とし、もと居た荒野の隣に戻ってきた。荒野は黙って、茅のグラスに缶ビールの中身を注いだ。茅は、それを一息に飲み干す。再び荒野はビールを注いだが、今度は一口、口をつけただけだった。
 そして、茅はきっと顔をあげ、皿の上の料理をガツガツと平らげはじめた。
 浅黄もそれを真似しようとしたが、何分、年齢が年齢だったから、一度に食べられる量もそれなりで、すぐにペースダウンして箸を置いた。
 茅が黙々と食べ続けている間、三人組が島での生活の話しなどを、周囲の人間にきかれるままにしている。ガクが何の考えもなくポンポンと答え、テンとノリがそこにさり気なくフォローをいれ、さほど不自然ではないように印象づけようとしている……。
 ように、見受けられた。
 あまり成功しているようにも見えなかったが、どの道、この場にいる人たちは荒野たちの正体をあらかじめ知らされているか、そうでなければ、うすうす何かがあると感づいている人たちなので、あまり問題はないだろう……と、荒野は思い、放置することにする。
『……まぁ……元々、あの三人の歓迎会、ってことだったしな……』
 それを考えると、三人の話しが受けている今の状態は、それなりに「いい雰囲気」、なのではあろう。
 あの三人の中では、ある意味、ガクが一番無邪気で天真爛漫……といえば聞こえはいいが、端的にいえば、考えなしで周りがみえないお子様。ノリは客観的な判断力や他人と話しを合わせるという社交性の萌芽のようなものがある。テンも、一見無邪気で天真爛漫……を装ってはいるようだが、ガクとは違い、どうも半分以上は、自分の外見が与える効果を見越して意識的にそう見えるように振る舞っているだけではないのか……。
『……やはり、テンが一番……』
 油断ならない存在だ、と、荒野は思った。
 逆にいえば、他の二人がなにか行きすぎた行動を起こそうとした場合、有効なストッパーになりそうなのも、テン、なのであり……。
『……両刃の刀、だな……』
 テンも、あの三人も……荒野にとっては、この先、自分や茅にとってどのような存在に成長していくのか予断を許さない、未知数の、両義的な存在、なのだった。
 いや……三人のそうした「不確実性」が、一番顕著に現れているのが、テン……と、みるべきなのだろう。
 その意味で、三人が「鬼」に由来した名をつけられているのは……本質に根ざしたネーミングで、とても、正しい。
 三人は……まさしく、「鬼子」だ。

 荒野がそんなことを考えている間にも、その他のみんなは歓談しながら飲食を楽しんでいる。荒野や香也、孫子、楓など以外にも、ちびちびとアルコールに手をだす者があらわれはじめ、先に酔っぱらって勝手に潰れてしまった玉木の相手をしていた有働勇作に、「大変だったな」とかねぎらいの声をかけている。
 そう声をかけているのは玉木に絡まれている有働を助けようともせずに生温かく見守っていた面々でもあるわけで、客観的にみてかなり無責任な態度である、ともいえる。
 それでも根本的な所で人柄が良い有働は、そういった人々の態度に対して怒る、と、いうこともなく、ごく普通に対応している。
「玉木とそういう関係なの?」、とか、
「どこまでいっているの?」
 などという質問も当然でるわけだが、
「いやぁ……玉木さんとは、なにも……。
 そもそも、部活以外で会うことも、二人きりで顔を合わせたこともありませんし……」
 有働勇作は照れくさそうにやんわりとそういって、頭を掻くだけだった。
 特に誤魔化している、という風でもなかったし、また、その時の有働の衒いのない表情が、見た目にも心地よかった。
 その時の有働の表情が様になっていたので、何人かが手を伸ばして、
「それにしては、面倒見がいいよな……」
 とか、
「あんた、いいヤツだな……」
 とかいいながら、有働のグラスにビールを注ごうとした。
 有働のほうは長身を折り曲げるようにして、「いただきます」といいなが、グラスを出し、注がれた先から飲んでいく。
 どうやらそれなりに飲み慣れているらしく、それにそこそこイケル口らしく、ごくごく飲んでは、いかにもうまそうな顔をして「はーっ」と息をつく。
 それでも玉木のように調子に乗って飲み過ぎるということもなく、酒を勧められても辞退するべき時は辞退し、適度に自分のペースを守りながら、これまたいかにもうまそうに料理を頬張る。
『……こういう落ち着いた人が傍にいたから……』
 玉木の暴走体質も、増長したんじゃないか……と、荒野は思った。
 この二人は、傍迷惑な所もあるが、いいコンビだ、と……。

[つづき]
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