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彼女はくノ一! 第五話 (40)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(40)

 狩野家の前に到着すると、楓がシートに座ったまま寝ていた茅をゆすり起こし、助手席で熟睡している浅黄は荒野が抱えて居間に運び込み、布団を用意して貰って、そこに寝かせておくことにする。他の連中は台所のほうにいって食材を準備していた三島や玉木に合流したり、庭に向かったりした。
 庭では有働勇作が長身を屈めるようにしてバーベキュー用のコンロの火をみている。
 香也たちがぞろぞろと庭に入ってくるのに気づくと、有働は顔をあげて、
「……炭火起こすのって初めてなんで、なかなか火が着かなくて……」
 などと頭を掻いてみせた。
 発言とはうらはらに、コンロの中身は赤々と燃えさかっている。
「炭火かよ!」
「……本格的ー!」
 栗田精一と堺雅史は、そんなことをいい合いながら、コンロの火に手をかざす。晴れているとはいえ冬の最中。外気はまだまだ冷たい。
「そこ! 人に働かせておいてくつろいでいるんじゃねぇ!」
 樋口大樹が重そうなクーラーボックスをよたよたと持ちながら、そんなツッコミをいれる。
「……中身と容れ物、別々に運べばいいのに……」
 大樹のすぐ後ろにいた樋口明日樹は、大樹に対してさらにツッコミをいれた。
 明日樹は、串に刺した肉や野菜を山盛りにした大皿を持っていた。
「はい、これ。
 手の空いている人、どんどん焼いて食べてて……」
 香也に皿を渡し、すぐに母屋にとって帰す。
「……こっちは、いいから……」
 荒野が香也の手から皿を引き取った。
「なんか、テーブルとかないかな? 後、椅子とかビニールシートとか……。
 あと、食器、箸、コップ……」
 肉を焼くのは誰でもできるが、そうした物の用意は、やはりこの家の者がやったほうがいい。

 香也が母屋と庭を何往復かして必要な物を整えていると、焼き上がった料理は順々に行き渡り、そして、そうしている間にも、玉木はすっかりできあがっていて、有働に絡んでいた。
 有働には悪いが、助けに行って有働と一緒に玉木に絡まれる二重遭難になる恐れもあり、それ以上に恰好の酒の肴だったので、大方は遠目に生暖かい目で見ながら焼き上がった端から肉や野菜を取って食べ始める。アルコールに耐性がある荒野、香也、楓、孫子、茅は三島や羽生に進められるままにビールを、それ以外の者はジュースやウーロン茶を飲みながらの立食となる。コンロの前に、物置代わりにしている部屋に何故か残っていた会議用の細長いテーブルを置き、そこに串に刺した食材を盛った皿や飲み物のグラスを置いており、人数分の椅子は流石になかったので地面にビニールシートを敷いて疲れたら直接そこに座るようにしている。
 最初のうちは玉木と有働のやりとりを物珍しそうに見ていた三人組も、時期に飽きたのか、それとも、早いペースで焼き上がった食物を摂りたいと思ったのか、いくらもしないうちにコンロの周囲に集まって来て、焼き上がった肉を奪い合うようにして食べはじめる。三人ほどのハイペースではないにせよ、たった今、泳いできたばかりの香也たちもよく食べた。
「これ、牛? 牛もうまいね。
 島では肉といえば、鳥か豚がほとんどだったから……」
「……ほー……君ら、島に住んでいたの? どこの島?」
 ガクと舞花が会話をはじめる。話題は、自然と今食べているものの事や、ガクたち三人のことになる。
「わかんない。ここよりは南のほうだと思うけど……」
「名前も? ふーん……。
 でも、みんな元気だし、なんとなく島の子って感じだよな……。
 牛、食べたことないの?」
「たまに、コンビーフとかジャーキーとかは食べたけど……牛、島にはいなかったし……。
 豚が、島で一番大きな生き物だったな……」
「……ぶ、豚かぁ……どこか、近所で飼ってたの?」
「ううん。
 野生のイノブタがいてね、ひょっとしたらイノシシかも知れないけど、こーんな大きくて毛がふさふさしたの。
 奴ら、放っておくと際限なく殖えて何でもかんでも島のもの食べ尽くしちゃうから、大きくなったのから順番にみんなで狩るんだ」
「……か、狩る……の?」
「うん。
 大きな落とし穴つくってねえ、そっちのほうにみんなで追い込むの。
 でね、狩ってもヤツら、体が大きすぎて一度にお肉食べきれないから、みんなでハムとか腸詰めとか薫製とか塩漬けとかにしてとっておくの……」
 無邪気な口調と表情でサバイバルな体験を語るガク。
 舞花をはじめとする聴衆の目は、点になっていた。
「……それ、本当?」
 舞花は、他の二人、ノリとテンに尋ねる。
「だいたい。
 大きさは、もっと大きかったけど。平均……」
 いいかけて、テンは、昨夜の会話を思い出す。
 普通の人間は、「物の正確な寸法や重さは、見ただけ、持ち上げただけではわからない」。
「こーんくらい!
 ……は、あったよ!」
 そこで正確な数値は出さず、わざと子供っぽい動作で両手を大きく広げてみせる。
「そ、そっかぁ……追い込むくらいなら、子供でも、できる……の、かなぁ……」
 舞花は、無理に自分自身をそう信じ込ませようとする。
 実際には、そんなに容易なことでもないのだが。
 なにせ、野生のイノブタと子供たちとでは体重差がありすぎる。加えて、気性も荒い。相手を歩かせ、行く先を変える程のダメージを与えつつ、相手の攻撃をかわし続け、落とし穴のある場所まで追い込むのは、結構ハードな仕事だったりする。
 今考えると……自分たちの訓練も兼ねていたのかな……とも、テンは思った。
「おいしかったよね!」
 ノリも、無邪気を装って、ガクやテンに頷きかけた。
 テンも半ば芝居で、ガクは本心から、
「うん!」
「うん!」
 と元気よく賛同する。
 ……確かに、狩りの後、くたくたになってから頬張る筋張った肉の味は、格別だった……。
 ガクはさらに、
「でも、牛もおいしいね!」
 と続けた。

[つづき]
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