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第五章 「友と敵」(77)
「……で、当然……こうなるのか……」
狩野家の前で、両腕に松島楓と才賀孫子をぶら下げ、なんとも情けない表情をしている狩野香也と顔を見合わせ、加納荒野は、うんうん、と頷き合った。
周囲には、茅、飯島舞花、栗田精一の二人以外にも、樋口明日樹と樋口大樹がいた。羽生譲は、車庫からワゴン車を出しにいっている。
もちろん、その他に徳川浅黄がいる。三人組もいる。
「ええと……」
荒野はあたりを見渡していった。
「……こんなに大人数で……車、大丈夫」
「あ。わたしとセイッチは、チャリでいく」
飯島舞花が片手をあげる。
「あの……わたしたちは、泳ぎのほうには……午後のほうのお手伝いに……」
樋口明日樹もおずおずと言い出した。
「おれたち、行ってもどうせ泳げませんから」
樋口大樹がそう続けると、明日樹はすかさず大樹の後頭部を平手ではたいた。
『……かなづち……か』
……明日樹がプールに行きたがらないわけだ。香也が一緒なら、なおさらだろう。
荒野は、心中で人数を数え直す。
荒野、茅、香也、楓、孫子、ガク、テン、ノリ、浅黄……それに、運転手の羽生。
それでも、十人。
「大丈夫、大丈夫」
車を出してきた羽生譲は、ワゴン車の荷台にシートを出して座席を作ってくれた。
「……これで、三人分くらい座れるたろ?
で、それでも座れない人は、さらにそのうしろ……」
羽生譲は、荷物置き場を指さす。
そこには、三人組とか徳川浅黄とかが座りたがった。
市民プールとやらには、車で十分もかからなかった。この距離なら、自転車で出発した舞花たちもそう遅れずに到着するだろう、と、荒野は思った。
「あっちがゴミの処理場でな。そっちで可燃物燃やした時の熱を利用している、ってわけだ……。
廃棄物処理ナントカって法律で、あの手の処理場には政府の補助金が出るとかで……」
駐車場にワゴン車を駐車させて車から降りると、羽生譲は隣接する建物を指さしながら、そんな説明をしてくれた。
「ま……そのおかげでこうして一年中泳げるんですから、いいじゃないですか……」
荒野としては、そんな凡庸な返事をするしかない。
三人組は「プール、はじめてー」とはしゃいでいる。
「……そういえば、浅黄ちゃんは泳げるのかな?」
荒野は、三人組と一緒になってはしゃいでいる浅黄に、そう聞いてみた。
「うん! あさぎ、およげるー!」
浅黄は、元気にそう答えてくれた。
「かやに、およぎかた教えるー」
「そりゃあ、すごいなぁ……。
……よかったな、茅……先生がいっぱいいて……」
荒野がそういうと、茅は「むぅ」とむくれて見せた。
ロビーで男女に別れ、更衣室に向かう。とはいっても、今の時点で男性用の側にいくのは荒野と香也だけだ。
「……また、楓と才賀に無理に引っ張られた?」
二人きりになると、荒野は香也にそう尋ねてみた。
香也は例によって、
「……んー……」
とひとしきり唸ってから、
「そう……だけど……。
でも、そういうのも慣れてきたし、それに……」
そうして強引に誘われるのも、結構嬉しいから……。
と、香也は答えた。
着替えている途中に、栗田精一が更衣室に入ってきた。
着替え終わってプールサイドにでると、女性陣はすでに勢揃いしていた。
「……早いな……」
「全員、中に着てきたから……」
自転車で来ていた筈の飯島舞花が、代表して答えた。
「しかし……おにいさんはともかく……絵描きさん、脱ぐと結構……。
細いだけかと思ったら、意外にがっしりと……」
舞花の視線を遮るように、左右から楓と孫子が香也の前に進み出て、「ムッ」とした顔をして舞花を睨む。
「いや……そういうつもりじゃ……わたし、セイッチいるし……」
舞花はポリポリと自分の後頭部を掻く。
「そうだ!
セイッチもたいしたもんだろ? 部活で鍛えているし!」
そういって舞花、傍に来ていた栗田の肩を掴んで引き寄せ、自分の前に差し出す。
「……背が小さいのです」
「筋肉、つきすぎですわ」
楓と孫子の二人には、不評だった。
栗田精一は、背を丸めてこそこそと二人の前から立ち去った。「あ! セイッチ!」といって、舞花がその後を追う。
そんなことをしているうちに、柏あんなと堺雅史の二人もプールサイドにでてくる。
プール中に鳴り響く音量で「ラジオ体操」が流れる。
まだ朝が早いせいか、荒野たち一行を除くと、プールサイドに集まった人たちは運動不足解消を企図した中高年の方々が大半で、その他にチラホラと小さな子供とその親御さんらしい女性の姿が混ざっている。
『……消毒曹に浸からなければいけなかったり、スイムキャップとゴーグルが義務づけられていたり……』
市民プールというやつも、いろいろと繁雑だな……と、荒野は思った。
後でみんなにそういうと、
「……そういうのがイヤな人とか金のあるヤツは、民間のフィットネスとかにいく」
といわれた。
そういわれてみれば、このプールの入場料は、やけに安かった。
[
つづき]
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