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髪長姫は最後に笑う。第五章(84)

第五章 「友と敵」(84)

 庭でのバーベキューが終わった後も、有働勇作は残って後片付けを手伝った。男手は別に不足していなかったが、誘われるまま、お金も払わずにさんざん飲食したということもあり、それ以上に居間に眠ったままの玉木珠美のことが気にかかった。
 一通りの後片付けを終え、皆で居間に入ると玉木はまだ寝ており、茅と荒野がマンションから茶器を持参してきて紅茶をいれ、皆に配ってくれても、まだ眠っている。
 その場に残っていた人々は、祭りの後の静けさというか、みんな、どこどなくぼんやりと放心している風だった。
 そんな気怠い静けさの中、三島百合香が有働に向かって「玉木を起こせ」と行ってきたので、有働はその言葉に素直に従う。もともと、「そろそろ玉木を起こさなければ」と思っていた矢先でもあり、いいきっかけになった。
 有働が揺すり起こしても、目覚めた玉木はかなり長い間ぼんやりとしていた。どうやら、しばらくの間、自分がどうしてここで寝ていたのか、記憶がなかったらしい。
 三分以上経過してから、ようやく今日の出来事を断片的に思い出したのか、いきなり有働の首を掴んでガクガク揺さぶりながら、
「肉は! 宴は!」
 などと聞いてくる。
 ガクガク揺さぶられながらも有働が柱時計を指さして「バーベキューはもう終わった」ということを伝えると、今度はその場に膝をついてがっくりとうなだれた。
 三島百合香は、有働と玉木のやりとりを明らかに面白がっている風で、ニヤニヤ笑いながらビデオカメラと居間のテレビをケーブルで繋ぎ、今日撮影した映像を早速再生して見せた。
 まず、大口を開けて執拗に有働に食べ物をねだる玉木の顔がどアップで映し出された。

 玉木は、近所迷惑になるのではないか、という大声で尾を引く悲鳴を上げる。

 一端テレビに取り付いて自分の体で画面を隠そうとしたが、その玉木の体を今度は荒野が羽交い締めにして引きはがす。
「まあまあまあ……」
 荒野は、この少年には珍しく、少し意地の悪い感じの笑みを浮かべていった。
「……ここにいる面子、この場にいて、ライブでこれ見ているわけでな。今更隠されても……。
 どうだ?
 お前、この映像を元に自分のスキャンダル、放送部でみんなに触れ回ってみたら?」
 どうやら、ここ数日の玉木に対する溜飲を、ここで下げようとしているらしい。
 荒野に取り押さえられた玉木は「あうあうあう……」とか呻いている。
 やがて巣の中の小鳥が親鳥に餌をねだるような態の玉木の映像が途切れ、続いて羽生と三島のアカペラ・ピンクレディーの映像に切り替わる。
「……あっ……これ……」
 それまで涙目で呻いた玉木が、不意に真顔になった。
「……商店街の時の……そっか……この二人が源流だったのか……」
 玉木はひどく納得した様子で一人頷いた。
 楓や孫子のキャラクターから出てこない芸だ、とは、以前から思っていたのだ……。しかし、この二人から伝授された、とすれば、納得がいく。
 その玉木の予測を裏付けるように、楓と孫子が加わる。続いて、ガク、ノリ、テン……それに、徳川浅黄までもが、一緒になって滅茶苦茶に手足を振り回しはじめる。おそらく、意味も分かっていないのだろう。
「……なんか……すごい、ね……」
 自分でも知らないうちに、玉木はそう呟いていた。
 昨年のクリスマスの時、楓と孫子のショーを見た時にも感じたことだが……このたちはどうして……こうも、人の目を引きつけるのだろう? 引きつけて、それでいて……しばらくみていると、どことなく切ない気持ちになるのは、どういう事なのだろう?
 曲の切れ目切れ目で適当にメンバーが交代して、メドレーは延々と続いていた。
 多分、カメラに入っていない時は、適当に飲食をしたり休んでいたりするのだろう。その歌と踊りは、延々二時間近く続いた。羽生と三島は、最初の五曲くらいまでしか姿を見せていない。早々に引っ込んで、見物する側に回ったのだろう。楓と孫子の出番が一番長く、ほとんど出ずっぱりといっても良かった。例によって、お互いの存在を意識しすぎて張り合っている……面は、あるのだろうが、それにしても、振り付けが激しいことを考えると、驚くべき体力だった。
 ……と、ここまで考えて、玉木はこの前、荒野たちのマンションで聞かされた彼女たちの正体を思い出す。
 ……そっか。彼女たちなら、これくらいのことは……出来てあたり前、なのか……。
 ガク、テン、ノリの三人組は、ちょこまかと細切れに出たり入ったりする。時に、口をもぐもぐ動かしながら思ってくることがあって、どうやら画面に出ていない間は、飲食に勤しんでいたらしい。
 そんな三人も、最初のうちこそ、ややぎこちのない動きをしていたが、すぐにコツを掴んで楓や孫子のものと遜色ない動きになっていた。
 例外的に、真似にもなっていないのが、徳川浅黄だか……彼女の場合、たぶん、雰囲気に当てられて興奮し、闇雲に体を動かしているだけのようにみえだ。聞けば、まだ四歳、ということだから、それで順当なのだろう。それはそれで、年齢相応のかわいらしさがあった。
「……なー、玉木ちゃん……」
 煙草に火をつけながら、羽生譲がうっそりとした口調で玉木に尋ねた。
「今度の商店街のな……三人と孫子ちゃんに、これ、やらせてみようかと思うんだが……これ、年末の時のあれで、商店街ではおなじみだし……」
 玉木は、ゴスロリーな衣装に身を包んだ孫子とテン、ノリ、ガクが商店街の路上でこの歌と踊りをしている光景を想像して、一瞬、くらっと目眩を感じた。
 なんというか……とても場違い、で……目立つか目立たないか、といったら、確実に目立つだろう……。
 しかし……。
「あ、あのー……才賀さんは、それでいいの?」
 玉木には珍しく、少しおどおどした様子で、孫子にそうお伺いを立ててしまう。苦手、とまではいかないが、玉木は、いつも毅然とした才賀孫子という少女に、どことなく気後れを感じてしまっているところがある。
 この少女には、自分と同年配とは思えないくらいに、風格がある。
「わたくしは、別によろしくてよ」
 孫子は、あっさりと答えた。
「って、いうか……」
 荒野が、ぽんぽん、と孫子の頭を軽く叩く。
「こいつ、おおぴらにあの恰好ができれば、後の子細は構わないんじゃねーの……」
 ……孫子のことを軽々しく「こいつ」呼ばわりできるのは、加納荒野くらいだろうな……と、玉木珠美はぼんやりと思った。

[つづき]
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