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彼女はくノ一! 第五話 (43)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(43)

 玉木や有働、それに浅黄をかついだ荒野や茅も帰ると、居間はしんと静まりかってしまった。このような時、いつもは早々と席を立つ香也までもが、ぼんやりと炬燵にあたっている。午前中に珍しく激しい運動をした反動が、今になってきているのだろう。
 真里は羽生譲などと「今夜の夕飯はどうする?」などと話し合っている。全員、長時間かけてバーベキューを目一杯詰め込んだ後ではあったが、三人組の普段の食欲を考慮すると、少し時間が立てばまた食事が必要になりそうな気もする。まだ、夕方といっていい時刻でもあり、寝るまでにはかなり時間があった。
「……そうそう。
 今のうちに言っておくわね……」
 真里が、心持ち背筋を延ばして、その場にいたみんなに告げた。
「また、順也さんの個展が決まりました……」
 職業作家である順也は、目下のところ海外在住でこの家には不在である。
 が、真里は家計を預かる主婦として、順也の絵を売る営業行為を、普段から地道に行っている。言い方をかえるならば、地道に、心当たりの画廊に声をかけて、絵を売る機会を増やそうとしている。
 今回は、全国のいくつかの画廊を渡り歩いて、二週間ほどの留守になりそうだ、という。
「……一応、三島先生にも様子を見にくるようにお話していますが、皆さんも留守中、しっかりとするように……。
 特に……譲さん。
 年末の時のように、何日もうちの香也君と他の、よそからお預かりしたお嬢さんを二人きりにするようなことはないように……」
 この辺、真里は年齢相応の常識的な判断を下だす。
 真里は、双方合意の上で自然に関係を……ということであれば、それなりに寛容ではあったが、だからといって、若い男女をことさらに二人きりにして、勢いをつけ易い環境を整える、というほどにくだけても、いない。
 羽生譲も、コクコクと頷いた。
 年末と今では、香也と他の少女たち……特に、才賀孫子との関係が、変化している。あの時なら、二人きりにしても別に問題はないと思えたが……今なら、かなり高い確率で、問題が起きてしまうだろう。
 それ以前に、楓が、今の孫子と香也が何日も二人きりで過ごす、という状況など、許しそうにない気もするが。

 しばらく休んでから、楓と孫子は「時間的には、いつもより早いけど……」と香也の勉強をみることになった。香也にしても、まともに絵筆を取る気力のない時間を勉強にあてることに異存はない。
 年長の三人が固まって教科書やらノートやらを広げるのをみて、年少の三人もばらばらと独自に動き始める。
 ノリは、部屋の隅に常備されているスケッチブックとシャープペンを取り出し、なにやら描きだした。香也に続いて、明日樹が絵を描くところを見たことが、いい刺激になったらしい。
 テンは、羽生譲に、「あのCADってソフト、にゅうたんのパソコンに入っていないの?」とか、尋ね始める。
「……さすがに、CADは入れてないなぁ……」
 羽生譲は苦笑いした。
 職業的なエンジニア以外、CADソフトを自分のパソコンにインストールしている者は稀、であろう。
「……近いので、全然使っていない3Dソフトなら入っているけど……。
 あー……フリーのCADって、ネット上にあったかなぁ……ちょっと、探して見ようか?」
「あっ! そっか……。
 ごめん。ソフトの使用って、ライセンスを買わなけりゃならないんだっけ……」
 羽生譲の対応をみて、テンはようやく思い当たる。
 テンたち三人は、まだ「モノには値段があり、物品であれサービスであれ、無償のモノはほとんどない」という資本主義的な価値観になじんでないし、適切なモノの値段にも、疎い。
「……そうだね……。
 なるべくフリーのを、ネットで探してみよう……。
 ボク、英語のサイトも大丈夫だから……」
「そりゃ……すごいな……」
 そんなことを言い合いながら、羽生譲とテンは、居間から出て羽生譲の部屋に向かう。
 ガクは、その場で炬燵にあたりながら、ごろんと横になって寝息を立てていた。

 楓と孫子が香也の勉強を見ていると、時折、スケッチブックを持ったノリが「ちょっといいかな……」といいながら香也に話しかけてくる。
 その度に香也は自分の勉強を中断し、丁寧に、ノリの質問に答えながら、白黒の階調だけで絵を描くことの意味、モノの形を正確に把握するこの重要さ、階調だけで質感を表現するための基本的な技法、などを説明したりした。
 香也も、自分の得意な分野に関して説明し始めると意外に多弁であり、目に見えて生き生きとしてくる。
 楓や孫子にしても、香也が乗り気になっている行為を無下に制止するはずもなく、勉強のほうを中断して香也とノリのやり取りをみている。
 そんな感じで何度か中断を繰り返しながら、その日の香也の勉強は、普段の倍以上の、三時間弱、行われた。
 時折、ノリに絵の基本を教えるのがいい気分転換になったのか、香也にしてもそれだけの時間、拘束されることがあまり苦にならず、それどころか、かえっていつもよりも集中できたような気さえ、している。
 香也の学力は、同級生たちに追いついた、とまではいかないにしても、それなりに向上している。
 例えば英語などは、毎日のように繰り返して、同じページの同じ構文を書いたり音読したりしているので、いやでも単語や文法についての知識が頭の中に入ってくる。まだ一年であり、覚えるべき単語数も少ないので、英語に関しては、かなり追いついた、と、いえるだろう。
 逆に苦手なのが、必ずしも暗記を必要としない文系の科目で、現国や古典、歴史などの、読解力や理解力が求められるような科目は、香也があまり興味を持てないからか、英語などに比べると、理解する速度が遅いように思える。
 数学は、学科、というよりも、問題によって理解度の差が大きく、連立方程式の解法、などはなかなか覚えなかったが、図形や立体の面積や体積を求めるタイプの問題は、少しヒントを与えるとすらすらと解いた。
 以前、年末の時に飯島舞花もしてきしていたが、香也は、どうも視覚的な物事に関する記憶力や想像力に関しては突出していて、かわりに、抽象的な思考とかに関しては、平均よりも弱いような傾向があった。

 真里が茹で上げたうどんにおろし大根を乗せたというサッパリ系の遅い夕食を用意することになると、香也たちも気分的にかなり落ち着いてきており、充足した気分の中でその日の勉強を終えることができた。
 楓が羽生譲やテンを呼びに行くと、寝息を立てていたガクも気配を察してもぞもぞと体を起こす。
「……いやぁ、テンちゃん、すごいや……。
 ポンポン外国のサイトにアクセスしちゃって、さっさとダウンロードして、英語のヘルプファイルみながら、さっさと使いこなしちゃってた……」
「……んー……ノリちゃんも、昨日今日はじめたにしては、しっかりした絵を……」
 羽生譲と香也に褒められたテンとノリは、どことなく照れたような仕草をした。
「……そういや、ガクちゃんは?」
「……寝て、いましたね……」
 羽生譲が尋ねると、頷きながら楓が答えた。
「寝てた!
 このおうどん、さっぱりしていておいしいね!」
 ガク本人も、無邪気にそう言い切った。

[つづき]
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