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髪長姫は最後に笑う。第五章(85)

第五章 「友と敵」(85)

 狩野家からの帰り道は、有働に送ってもらうことになった。眠ったままの徳川浅黄を背負った荒野や茅、それに三島も、玉木や有働と一緒に狩野家を出る。外に出ると、ちょうど日が落ちるところで、あたり一面、夕焼けで茜色に染まっていた。
 三島と荒野、茅は、すぐ隣りのマンションだったので、玉木と有働はいくらもしないうちに二人きりになる。
 とはいっても、付き合いはそれなりに長いし、気心も知れた仲なので、いきなり二人きりになっても気まずさを感じる、ということはない。
「今まで、深く考えたこと、なかったけど……」
 いつものように、玉木が口火を切った。話を切り出すのは、いつも玉木のほうだ。
「……カッコいいほうのこーや君が、むやみ人目や外聞を気にするの、分かるような気がする……」
「……それ、ぼくも、今日、分かったような気がします……」
 有働も、そう答えた。
「なんというか……彼らは、ぼくらよりもずっと、強くて、美しくて……」
 ……自分たちとは、異質な存在だ……という感想は、あえて口にはしなかった。
 しかし玉木は、有働がいいかけたことを理解したように、頷く。
「……この前……カッコいいほうのこーや君、自分たちの正体を明かしてから、何度も何度も、聞いて来たよね……。
 ……怖いか? って……」
 何度もそう問いかけてくる……ということは、荒野は、そのように念入りに確認しなければまともな対人関係を築けないような経験を、おそらく、しているのだ……。
 玉木は、そう予測する。
 明白に自分たちよりも優れた存在を目の前にして……その存在を鷹揚に受け入れられる人ばかりではない……ということは、社会経験が浅く、実体験としては、近所と学校くらいしか知らない玉木にしても……容易に、想像ができた。
 平均敵な現代日本人は……根本的なところで、「異質な存在」に対して、敏感に反応する。外見上、ほとんど見分けがつかなくとも、自分たちとは異なる言葉や文化、価値観を持っているだけで、排斥する、という傾向がある。
 それが、荒野のいう「一族」……つまり、外見上は自分たちと何ら変わらないが、格段に優れた能力を持つ人たちの存在を、安易に受け入れるとは……とうてい、思えないのだ……。
 荒野が周囲の目を恐れるのも、当然のことなのだ……と、玉木は理解した。

「……ぼく、これでもジャーナリスト志望、なんです……」
 突然、有働は玉木に一見関係ないような話題を振ってくる。
「だから、放送部に入ったし、そこに玉木にさんのような人がいて、嬉しかった……。
 それで、今度は、彼ら……。
 偶然、なんでしょうけど……今日、ぼく、彼らの姿撮っていて、とてもゾクゾクきたんです。こん身近なところで、なんかとんでもない人達が平然と生活していて、それどころか、普通の生徒たちに混ざって自分と同じ学校に通っている……こんな幸運、ないですよ。普通……」
「商店街の人達は、彼らのこと、ある程度勘づいている節があるんだけど……どうも、見て見ぬふりをしているようなんだよね。
 年末のイベントにあの子たちが出たのだって、どうも、ショッピングセンターで暴れたのをみて、あれと同じようなのを商店街でやってくれ、ってこっちから挨拶にいったのが始まりらしいし……」
 商店街の事情を知っている人達が、楓や孫子について不穏な噂を口外しようとしないのは……彼女らの存在が近年未曾有の人手と売上をもたらした、との認識があったからだ。
 玉木の近所の人たちは、恩人に不利な噂を広めるほど、悪辣な人々ではない……。
「……でも、無関係の、町の人達とか、学校のやつらが、彼女たちのことを知って、同じように口をつぐんでくれるかというと……」
 有働も、玉木がなにをいいたいのか察して、頷いた。
「……でも、この手の秘密、そうそう長く保てるとも、思わないんです。
 彼女たち……その、無邪気で不用心な所、かなり、あるし……」
「そだね……。
 カッコいいこーや君の苦労が忍ばれる所だわ……」
「……ところで、この市の人口って、わかりますか?」
 また、有働が話題を変える。
「んにゃ。
 市、っていうことは、五万は越えている筈だけど……詳しい、数字は……」
「実は、ぼくも知りません。でも、十万、と仮定しましょう。
 その十万に対して、ぼくらが、放送部の設備や部員、玉木さんや羽生さんの個人的なコネ……とにかく、使えるものをなんでも総動員して、彼らが危険な存在ではないってことを、それとなくアピールする……って、できないものですかね?」
「時間との勝負……競争に、なるな……」
 玉木が、目を細める。
「ええ。競争です……」
 有働も、頷く。
 彼らの正体が露見し、周囲からの排斥がはじまる前に……先回りして、彼らへのマイナスイメージを払拭するだけの、プラスイメージを、徹底して植えつける……。
「……明らかに、部活の範疇を越えるよな……」
「ええ。一種の、大衆操作です」
 玉木の言葉に、有働は平然と頷いた。
「さっすがぁ、わたしが相棒と見込んだ男だよ、君はぁ……」
 玉木は、有働の背中を、ばしーんと叩いた。
 有働は、痛みに顔をしかめる。
「わたしも、まったく同じことを考えていたよ!
 彼らのいう一般人というヤツが、それでも本気になればどれほどのことをできるのか、やってみせじゃないか!」
 有働と玉木……彼らは二人は良き相棒であり、そして、今では荒野たちの友人でも、あった。

 そして、二人は、荒野たちの一番の敵が、ほかならぬ、自分たちと同じ一般人であることを本能的に、理解している。荒野と同じ側に立つ、特殊な人々が相手なら、荒野自身が倒すなり取引をするなりして、どうにでも対処できる。
 しかし、一般人の、生理的な恐怖心は……。
 荒野たちがいくら卓越した能力を持っていようとも……いや、秀でた能力を発揮すればするほど、結果として、煽ることになり……。
 荒野が、自分たちの正体を知られるのを過度に怖がるのも、決して、故がないことではないのだ。
 未知のものに対する恐怖心は……無形のものであり、倒すことができない……。
 だから、周囲の人々の、彼らを見る目を、根底から変える……。
 これは、彼ら特殊な、一族の側に立っていない、一般人の人間にしか、できない仕事であり……玉木と有働の資質からいっても、適任ではあった。
 第一、生徒や教師の些細なスキャンダルを追うより、よっぽどやり甲斐のある仕事だった。
「……この先、どうなるかわかりませんけど……」
 有働は、玉木に告げる。
「ぼく、出来る限り、彼らを追い続けますよ……。
 ぼく自身、彼らがどうなるのか、とても興味があるんです……」
「……そうだね」
 玉木は、答えた。
「それは、とてもいい仕事になると思う……」
 有働が彼らの動きを記録し続け、それをまとめたとして……それを、堂々と公表できる日は、果たして、くるのだろうか?

[つづき]
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