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第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(44)
翌朝、香也は見事な筋肉痛になっていた。
養成所での経験から、そうしたことの処理にはなれている楓が、起き上がろうともしない香也の体をパジャマ越しにマッサージしていく。マッサージ、とはいっても、決してやさしいものではないらしく……。
「痛い! 痛い痛い痛い! 痛いよ! 楓ちゃん!」
「……今、痛くして血行をよくしておいたほうが、後々楽なのです……。
知っていますか? 筋肉痛って、毛細血管が切れて、内出血している状態なんですよ? だから、こうして丁寧に揉みほぐしたり、お風呂に入って暖めて、無理にでも血行をよくしていかないと、なかなか直らないのです……」
ぐりぐりぐりぐり、と、楓の凄い握力で全身を揉まれ倒された香也は、痛い痛いと当初痛い痛いと悲鳴を上げ続けるばかりだったが、一時間以上もそうしていると今度は満足げなため息をつくようになっている。
どうやら、血流が滞った部分が一通り揉みほぐされ、楓のマッサージも、痛みを通り越して気持ち良さを伝えるものに変化したらしい。
香也が「あぅう。あふぅ」とかいうどこか切なげなため息をするようになると、楓は、香也の背中に自分の乳房を押し付けるように馬乗りになって体重を乗せ、腰の部分を両手で揉みほぐしながら、「ここですか、ここがいいのですか?」などといいつつ、香也のうなじのあたりに吐息を吹きかける。
香也は、背中に押しつけられた楓の柔らかさと吐息をうなじに感じ、マッサージの気持ちよさとも相俟って、正常な思考能力を奪われてそのまま輪郭がとろけていきそうな脱力感を感じはじめる。
パジャマ越しに感じる楓の感触に下半身がそろそろ反応し始めているのだが、あまりにも気持ちがいいので、いつものように楓を払いのけて起きあがろうという気力が湧いてこない……。
「……そこまで!」
孫子が楓の首根っこを掴んで、まるで猫の子かなにかのように持ち上げた。
「いくら休日とはいえ、朝食前からそういうみだらががましい真似は、許しません」
孫子にそう言われたことで我に帰った楓と香也は、二人で頬を赤らめてバツの悪い表情をした。
それから洗面所に向かい、顔を洗ってから居間に行く。三人組の姿はなく、羽生譲が外出の支度をして、玄関に向かうところだった。今日は朝からバイトらしい。
真里は、来週からの長期出張に備えて、荷物をまとめているらしい。二週間に渡って全国各地を転々とする、となれば、用意もそれなりに入念なものになる。
妙に静かな所から推察しすると、三人組は外出中らしい。
柱の時計をみると、そろそろ十時近かった。
楓たちが来てからこっち、規則正しい生活を強いられて来た香也にしてみれば、朝起きてからこれだけ遅い時間まで自室でうだうだしていたのも久しぶりのことになり、裏を返せば、ここ最近、いかに規則正しい生活をしていたのか……という、感慨をあらたにした。
顔を洗っている間に孫子が暖めて直してくれた味噌汁とご飯、それに切り身の焼き魚に漬け物、というオーソドックスな朝食を手早く済ませ、自室に帰って着替えた後、香也は、自分の頬をパチパチと平手で叩いて気合いを入れ、幾つかの画材を持ち、庭のプレハブに向かう。
昨日、ほとんど絵が描けなかった分、今日は一日中、プレハブに籠もる予定だった。
しゃしゃしゃ、と、紙の上を鉛筆が滑る音だけが、プレハブの中に響く。
この所、香也は人間のスケッチを描く機会が、飛躍的に多くなっている。
周囲に、描き甲斐のあるモデルが多い、ということ。それに、堺雅史経由で依頼されたゲームのために、多種多様な人物画を用意しなければならなかった、という必然性があった。
ゲーム用の絵は、他の制作者たちの意見を聞きながら、デザインを一転二転、どころか、十転二十転させていく態、なので、最近では簡単な線画しか用意していない。それを、羽生譲のスキャナとパソコンを使ってアップし、複数の人間の細かな注文に応じながら手直ししていき、ようやく決定、ということになったら、着色する……という工程になっている。その「複数の人間の細かな注文」も、往々にして矛盾することが多く、最近では、その手の意見調整など、面倒なことは堺雅史や楓に任せて、その二人がなんとか取り付けた妥協案を聞いてから、決定稿を描く、という段取りが定着している。楓も堺雅史も、人当たりがよく、そうした意見調整の仕事には向いている、と、香也は思った。
……本人は、それなりにストレスが溜まるのではないか、とも、思ったが。
『……ぼくらの年頃は……』
香也は、クラスメイトや、一緒に登校する人たちの顔を思い浮かべながら、そう思った。
『……個人差が、大きいから……』
荒野や孫子、飯島舞花や有働勇作のように、ほとんど成人と変わらないような体つきの者がいる一方、香也のクラスメイトや同級生には、まだまだあどけなさが残る風貌の持ち主も、多数いる。柏あんなや堺雅史などは、どちらかと年齢よりも幼くみえるタイプだろう。
『……だから……』
ガク、テン、ノリの三人組のような、子供子供した風貌のキャラクターを原案に紛れ込ませても、特に問題はないだろう、と、香也は思った。
どもみち、設定しなければならないキャラクター数は数十名という数になる。
どこかで極端な差別化をしなければ描き分けられるものではないし、また、見る側も別人として認識できない。極端な話し、「シュルエットで誰だか言い当てられるくらいの特徴付けを行う」くらいのほうがいい……と、いつだったか教えてくれたのは、マンガやアニメに詳しい羽生譲だった。
特定のストーリーに付属することが前提となっている絵には、香也が普段接している絵画とはまた違った制約や約束事があって、そうした「縛り」に応じた絵を多数描き起こす作業も、こうしたことはやった経験がない香也にとっては、新鮮といえば新鮮で、それなりにいい刺激にはなった。
年に二回ほど、羽生譲に誘われて行う同人誌の仕事は、そもそも、元になるキャラクターなり画風なりが先にあり、それをいかにうまく模倣するか、という問題だから、一から自分で考え、絵造りをしていかなければならないこのゲームの仕事とは、性質的として、根本から異なるところがあった。
もっとも、できあがり、色まで付けた完成画をパソコンの画面で確認すると、均一な太さの線画に、べたっとした階調のない色がついている、いわゆるアニメ絵調の絵になっていたりするのだが……短期間のうちにとにかく量をこなさなくてはならないゲームの仕事では、あまり細かい手入れをするわけにも行かず、また、香也自身が、パソコンに向かって絵を描く行為に未だになじめずにいる関係で、その辺は妥協するしかない。
香也の仕事はキャラクターの設定と、背景画。それに、キャラクターの線画まで、つまり、彩色は別の人が行う、と取り決めて貰った関係上、完成品が香也にとってあまり満足すべきものではなかったとしても、あまり神経質になるべきではない、と、香也は思った。
自分は、自分の領分を、全うすればよい、と。
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つづき]
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