第五章 「友と敵」(87)
朝食が終わった後も、テレビ局による日曜朝の子供番組攻勢はしばらく続いたので、茅と三人組、それに徳川浅黄は、騒がしいながらもテレビの前に張りついてくれたので、荒野にとってはそれなりにやりやすかった。
食器を片付け、自分用にコーヒーをいれて一服してから、荒野は、
「茅とその四人はこれから用事あるんだけど……浅黄ちゃんも、もう帰らないとな……」
と声をかけて、徳川篤朗の所に電話を入れた。もう少しすると、三島百合香が、茅と三人を健康診断に連れていく予定だった。今回は少し詳細に調べてみる、ということで、涼治が指定した病院だか診療所に連れて行く、という。
電話に出た篤朗は、すぐにタクシーをこちらに廻してくれる、と約束する。交通の便が悪いこの土地で学校、自宅、工場を普段から忙しなく往き来している篤朗は、免許を取得できる年齢でもないので、懇意にしているタクシー会社があり、そこではいろいろと融通が利くのだ、といっていた。篤朗もそうだが、浅黄も顔パスに近い状態なので、迎えが来たらそのまま乗せてくれればいい、と言われた。
約束の時間の三十分ほど前に三島百合香がマンションにやってきた。
「なんだ、お前らも来ていたのか……呼ぶ手間が省けたな」
三人組の顔を見て、三島百合香はそういう。朝食は済ませてきた、という三島に、荒野はコーヒーをふるまった。いつもなら率先して紅茶をいれている茅は、いまだテレビにかじりついている。
「なんだかね。浅黄ちゃんも含めて、お友達って感じです」
荒野も、苦笑いをしながら答える。
「仲が悪いよりはいいほうがいいだろ? ん?」
両手で抱えたマグカップを顔の前に置きながら、三島はそういう。
そのうち、タクシーが迎えに来て若干の手荷物とともに浅黄を連れていき、その後、三島に率いられて茅と三人組も出て行った。三島の小型車で、指定された場所に向かうという。後ろ姿をみていると、あまり年齢の変わらない子供たちがぞろぞろ歩いているように見えた。
「……まず、掃除と洗濯……」
後に一人残された荒野は、今日、やるべきことを指折り数えはじめる。
「……その後、買い物……」
まるで主婦だな、と、自分でも思う。
ようは、いつもの週末、茅と二人で行っていることを今日は一人でやらなければならない、というだけのことで……。
そう考えると、いつの間にか「二人暮らし」に慣れきっている……そんなことを思いながら、荒野はマンションの中に散らばった小物類を片付けはじめた。浅黄や三人が泊まったこともあって、定位置にある筈の小物類が、あちこちに散らばっている。
その後、洗濯機を廻しながら掃除機をかけ、手早く外出の支度をする。買い置きの食材も随分消費してしまったから、その分も、補充しておかなければならない……。
自転車でショッピングセンターに乗り付けると、食料品売り場に直行する。
レトルト類はあまり使用しないが、冷凍食品とか調味料、それにカレーのルウなど、自分では作れない食材をまとめて買う。
ついつい、茅と二人の時の要領で買ってしまい、レジを通してから、
「これ……どうやって、家まで持って帰ろう……」
と、軽く考え込んでしまう。
荒野は、食材がパンパンに詰まったビニール袋を体中にぶら下げているような恰好になっていた。重さ的には別に問題ないのだが、通りかかった人の注目は、十分に浴びている。
これで自転車に乗ったら、それこそ曲芸の部類だろう。
『……しかたがない。いったん歩きで帰って、もう一度、自転車を取りにくるか……』
今のままでも十分目立つのだが、それでも「曲芸」よりは、幾分マシだった。
『本当におれ……二人でいることに、慣れていたんだな……』
そんなことを思いながら店の外に出て、のしのし歩いて行こうとすると、
「……荒野君、そんな恰好で、なにやっているの?」
と、声をかけられた。
「ひさしぶり。
いつも……というよりも、昨日も、うちの妹とバカ弟がお世話になっているようだけど……。
昨日のバーベキューは、わたしも行きたかったんだけど、お店の都合でどうしても抜けられなくて……」
樋口未樹、だった。
「ども……お久しぶりです」
荒野は律儀に頭を下げる。
未樹とはあれから一度も顔を合わせたことがないわけで……荒野としては、どんな顔をして未樹と話したらいいのか、判断がつかない。
よって、当たり障りのないように、若干、丁重な言葉遣いを心がける。丁寧な言葉遣いをしても、自分の薄情さには変わりはないのだが……。
「いやぁ……ちょっと、買いすぎちゃって」
荒野は肩をすくめてビニール袋を揺すって、そう答えた。
「あはは……ちょっと、ねぇ……これが……」
荒野の反応に、未樹は快活に笑った。荒野に対して含む所がある表情ではなかったので、荒野は安心する。
「いいよ。今日は時間あるし、車に乗せてあげる。
その代わり、こんどちゃんとうちのお店に来ること!
……この長さ、もう校則違反でしょ?」
未樹は荒野の両手がふさがっているのをいいことに、伸びすぎた荒野の髪を遠慮なく指で摘んでみせた。
確かに、なんとなく髪を切りに行きそびれていたので、結構な長さにはなっているのだが……。
「……いいですけど……」
荒野は少し考ええる。
茅は、自分で毛先を切りそろえているらしい。孫子も、行きつけの美容院がすでにある。しかし、楓は、荒野が知る限り、ここに来てからまともに切っていない。それに、あの三人組も、勿論……。
「その代わり、おれだけじゃなくて、もう何人か追加で、予約できます?」
……決して、一人だけでいくのが気恥ずかしいからではないぞ、と、荒野は自分に言い聞かせていた。
「へぇ……相変わらず、きちんと片付いているね……。
でも、前に来たときよりは、生活感が出てきている……かな?」
車で送ってもらった後、久しぶりにマンションに通された樋口未樹は、珍しそうにあたりを見渡して、そう感想を述べた。
たしかに、掃除をしたばかりの部屋は片付いていて、ベランダには洗濯物と布団が干してある。
「……ちょっと待ってくださいね。今、コーヒーでもいれますから……」
荒野は買った食材を冷蔵庫や棚の中に整理して収納しながら、そんなことをいう。
「茅がいれば、紅茶でもいれてくれるんですけど……」
「あ。茅ちゃん、留守なんだ……」
未樹にそう聞き返されたことで、荒野は「しまった!」と思った。
「……ええ、ちょっと、用事があって出ていて……」
ここにきてようやく、荒野は、今、未樹と二人きりであることに気づいた。
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