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髪長姫は最後に笑う。第五章(88)

第五章 「友と敵」(88)

 荒野はペーパードリップでコーヒーをいれ、そのマグカップを樋口未樹に差し出す。マグカップを受け取ろうとした未樹と指が触れそうになり、荒野はあわてて自分の手を引っ込めた。
「……なにやっているの? 荒野君……」
「い、いや……な、なにやっているんでしょうね、おれ……」
 荒野は露骨に動揺している。
 たいていのことは器用にこなすくせに、根本的なところで不器用な面もある荒野だった。
「……別に、そんなにおびえなくとも……取って食いやしないから……」
 未樹は苦笑いをした。
「そうそう。それでさ……あれからもうだいぶたつけど、荒野君、もうあの子、茅ちゃんとはしちゃったの?」
 自分ででいれたコーヒーを飲みかけていた荒野は、盛大にむせ返った。
 しばらくげほげほ咳き込んでから、
「……な、なにを……いきなり……」
 と未樹に聞き返す。
「……まぁたまたぁ……」
 未樹の目がゼリービーンズ型になっていた。あきらかに、荒野の反応を楽しんでいる。
「もともと、寝る時に茅ちゃんが裸で抱きついて来て困るっていうのが、この間の、その……の、きっかけだったわけで……」
 ……確かに、未樹に問われるままに相談したことで……未樹と関係してしまったのだった……。
「……まぁた。そんな顔しないの、荒野君。
 あの時は、その、どちらかというと、わたしのほうから……。
 って、そういう話しじゃあなくて!
 あの時から気になっていたんでしょ? 茅ちゃんのこと。
 それで、今までずっと生活してきて、何にもなかったら嘘なだなぁ……って……。
 いいじゃん。別に隠さなくても。血は、繋がってないんでしょ?」
 荒野は、盛大にため息をついた。
 確かに未樹には、一族関係のことは除いて、茅のことをかなりつっこんだ情報まで話したような気もする……。
 それに、未樹の性格から考えても、ここで荒野が話したことを誰かに言い触らす、ということも、考えにくい。
 未樹もいうように、今更隠し立てする必要も、特にないのだった。
「……ええ……お察しの通り……その、何回か、ですが……やっちゃいました……」
 荒野は、ぼぞぼそと小声で答えた。

 荒野は、人前でもあけすけに回数を競い合ったりする飯島舞花や柏あんなよりもずっと、そうしたことに対しては奥手……というよりは、根本的に保守的な価値観を持っている。これは幼少時、預けられていた家庭で、現在の平均的な日本家庭よりも倫理的には厳格に教育されたせいだろう、と、荒野自身は思っている。
 その頃、荒野が預けられていた家庭とは、ようするに姉崎が埋伏のために用意した偽装家族だったわけで、しかし、わざわざ姉が用意するからには、そこには本物以上に本物な「家庭」があった。「女系の姉崎」は、使用する技こそ、性に関するものが多いが……その実、血族や血縁がない義理の親族への帰属意識が強く、ことに、子供の教育には、熱心だったりする。
「姉崎」とは身内への厳格な態度と、「身内の敵」に対する苛烈な態度が正反する集団であり……だからこそ、敵に回すと、かなりこわい。
 全世界規模で血族が散らばっている、ということもあるが、下手をすると、比喩ではなくて文字通り、「末代まで」祟る。
 佐久間と並んで「最弱」とされながらも、それでも姉崎が六主家の一角を占めていられるのは、姉崎の持つそうしたしぶとさと執念深さを、根本的な性質として持っているからだ。
 姉崎を滅ぼそうと思ったら、地球上を丸ごと焼き払わねばならないし、それでも生き残りの姉崎がいれば、数十年かけてでも、必ず、報復行動を完遂する。それは、過去、姉崎に敵対した者の末路をみれば、容易に想像できることで……また、そうした過去の実績が、外部に対して姉を過大に大きく見せている部分もあった。
『……じじいが、幼いころのおれを、一時期姉崎に預けたのも……一種の、保険、なんだろうな……』
 今にして思えば、自然にそう思える。
 義理であれ、一度「家族」として認めた者に対しては、姉崎は、極端に甘くなる。よほどのことがなければ、「敵」とはみなさなくなる。
 また、加納本家直系の荒野とのパイプを強くすることは、姉崎にとっても都合がいい。
 そうやって姉崎は、長い時間をかけて、血の繋がりで自分たちの立場を強化して来た集団なのだ……。

「……やっぱねー……。
 今まで一緒に住んでいて、なんにもないっていうほうが不自然だし……それに、荒野君、茅ちゃんのこと、前からやたら気にしていたし……」
 荒野が物思いに沈んでいる間にも、未樹はそんなことをいいつつ、一人うなずいている。
「ええ。
 ……まあ、そのとうり、なんですが……そんなに、ベタベタとは、していませんよ?」
 荒野は、あわてて未樹の言葉を否定した。否定しようとしても語尾が疑問形になってしまうのが、情けない。
 茅を抱いたのは、数えるほどだし……それに、学校に通うようになってからは、二人で過ごす時間は確実に減っている。
 荒野の主観的には、未樹が勝手に納得しているほど、仲良くはしていない……つもり、だった。
「……ほぉぉぉおぅ……」
 荒野の言葉を聞いた未樹は、目を細める。
「あんだけ見せつけておいて、ベタベタしてないっていうかな、この子は……」
 その未樹の口調を聞いて、荒野は精神的に五歩ほど後ずさった。実際には椅子にすわっていたため、無意識のうちに背を反らせた程度だが……。
「……ケーキ屋さんのCM……」
 未樹は、そういって右手の親指を折る。
「……ほぼ毎朝、学校に一緒に登校……」
 未樹は、右手の人さし指を折る。
「……その前に、早朝らぶらぶジョギング……ここ何日かは、さらに三人のコブつきのようだけど……」
 未樹は、右手の中指を折る。
「……週末には、二人でお買い物……」
 未樹は、右手の薬指を折る。
「さらにさらに、たまーに、学校のお友達と、プールなどにいって集団デート、と……」
 未樹は、右手の小指を折る。
 未樹の右手は、「ぐー」の形になっていた。
「……これだけのことをしながら、まだ君は、そんなにベタベタしていない、と申し開きをするのかね?」
「……ごめんなさい。
 いわれてみると、予想以上に、ベタベタしてました……」
 荒野は未樹にそういって、素直に頭を下げた。
 明日樹に大樹……考えて見れば、未樹は、ニュースソースには、事欠かない。
 ごまかしようが、ないのだ。
「あの……普通の兄弟って……そこまで一緒には、いないもんなんですか?」
 頭をあげてから、荒野は未樹に尋ねてみる。
「おれ……日本のそういう感覚、よく分からないから……」
 尋ねてから、あわててそう付け加える。
「……そっか……荒野君は帰国子女で、茅ちゃんは日本に帰ってきてからいきなりできた妹さん、だったな……」
 未樹も、荒野の言葉にうなずく。
「……荒野君も、少なくとも、茅ちゃんが成人するまでは、むやみに騒がれたくないだろうし……。
 まあ、参考にいっておくと、ある程度大きくなったら、あんまり付き合いないよ、性別の違う兄弟って……。よっぽど趣味が合うとか、性格的に反りが合うとかなら、別なんだろうけど……。
 茅ちゃんの年頃だと、兄弟で一緒にいるより、学校の友達と一緒にいるほうが、多いんじゃないかなぁ……」
 ……そんなものか……と、荒野は思う。
 荒野自身は、一般人のその辺の感覚は、実はよくわからない。
『……この辺も……もう少しいろいろな人に意見聞いて、考えてみる必要があるな……』
 とりあえず、そんなことを、思った。

[つづき]
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