第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(48)
「ええっと……な、なに?」
ティーカップを口の前まで持って来た堺雅史は、柏あんながまじまじと自分の顔をみつめているのに気づき、困惑した表情で尋ねた。
「い、いえ! 別に……。
お味のほうはどうかなぁ、って……」
「どうって……まだ飲んでいないんだけど……」
堺雅史は探るような目付きであんなの表情を読もうとする。
態度が、露骨に怪しい。
「そ、それじゃぁ、香りのほうは……」
「……うーん……いつもの、ハーブティだと思うけど……」
柏あんなの姉、千鶴は、目新しい食材を試すのが好きな関係で、ハーブティも柏家では他の家庭よりもなじみがある。真っ先に、そうした千鶴の好奇心の実験台になるのは、あんなと堺二人なのである。
堺雅史は、あんなの様子に不穏なものを感じながらも、ぐびり、と、一口ハーブティを嚥下した。あんなの態度に気を取られ、一見関心無さそうな表情の才賀孫子が、時折ちろちろと堺雅史に視線をやり、さりげなく観察していたことにも、雅史は気づいていない。
「……うん。やっぱり、そんなへんな味、しないよ……」
へんな味、といえば、ハーブティというのは、香りや効能のために喫するもので、もともと味は二の次になりがちなのである。「口に快いハーブティ」というものももちろんあるが、普段、千鶴の実験台にされている雅史にしてみれば、よほどひどい味でなければ「へんな味、しないよ」ということになる。
事実、今回のハーブティも、「うまいかどうか?」と聞かれれば返答は微妙なものになるのだが、「へんな味」といわれても、取り立てて苦かったり飲みにくかったりするわけでもなく、やはり「へんな味、しないよ」としか、答えようがない。
『なんか……特別なブレンド、とか、だったのかな?』
いまだに客の孫子をそっちのけで自分のほうを観察し続けるあんなの様子を不審に感じつつ、堺雅史は無理やりそう穏当な解答を用意し、納得することにした。
もちろん、それは早計な判断というものだったわけだが。
しばらく、孫子を交えて三人の談笑が続いた。
やはり共通の知人が話題にしやすく、自然に、飯島舞花や松島楓の話しが出て来る。舞花はあんなと、楓は雅史と同じクラブに所属していて、その二人と孫子は、かなり親しい、といってもよい間柄である。
五分ほどそんな世間話を続けると、堺雅史がもぞもぞ体を動かし、
「……な、なんか、暖房効き過ぎていない?」
と、いいだした。
「……そう?」
柏あんなは素っ気ない風を装ったが、眼光が一瞬だけ鋭くなった。
「じゃあ……ちょっと、温度下げるね……」
エアコンのリモコンを取り、ぴぴ、っと設定温度を設定し直す。
さらにしばらくすると、堺雅史の頬がうっすらと朱に染まり、呼吸が若干荒くなって来た。
「まぁ君……大丈夫? 熱でも出て来た?」
柏あんなはそういって、自然な動作で堺雅史に身を寄せて、額に手を当てる。
二人の関係をしるものにとっては、ごくごく自然な成り行きにみえたが……柏あんなの体が密着したことで、否応なく体温と体臭を感じた雅史の鼻息がさらに荒くなったのを、孫子は見逃さなかった。
「なんか……熱っっぽいよ……やっぱり……」
柏あんなはさりげなく堺雅史の前髪をかき分け、自分の額と雅史の額を密着させる。
すでに自制心が臨界にまで達していた堺雅史は、柏あんなが至近距離に顔を近づけたことで臨界を突破し、がばり、と、あんなの細い肩を抱き寄せて、強引に口唇を奪う。
柏あんなは、「んんんんんんん!」とうめきながらも、形だけはあらがってみせせる。幼少時から空手の道場に通っているあんなは、華奢な外見に似合わずそれなりの力も体力もある筈で、男性とはいえ根っからのインドア派であり、非力な堺雅史などに抱きすくめられてもすぐに解きほどせる。
が、意外にも、もみあっている時間は長かった。
ひょっとすると、柏あんなにしても、普段はおとなしい堺雅史が積極的なアプローチをしかけてくる、それも、孫子という第三者の目前で今まさに行っている、という現在の状況に陶酔しつつあるのかも知れない……と、孫子は冷静に観察した。
事実、唾液の糸を引いてようやく顔を離した時、堺雅史と違ってシルヴィの薬を服用していない筈の柏あんなの頬も薔薇色に上気し、吐息が弾んでいた。
「……まぁ君、の……ばかぁ……」
堺雅史の顔が離れると柏あんなは拗ねたような口調でそういったが、どうひいき目にみても、本気で拒絶しているようには見えなかった。
堺雅史のほうは柏あんなの反応に注意を払う余裕すらないようで、はぁはぁ荒い息をつきながら、柏あんなの胸元にむしゃぶりつく。両腕をきつくあんなの胴体に巻き付けたまま、首筋に口唇をおしつけたまま、力任せに頭を下げたので、あんなのコットンシャツのボタンが弾けてあらぬ方向にとんだ。
「あっ。馬鹿ぁ! 本当に、もう、駄目!
才賀先輩がみてるっていうのに!」
柏あんなはそういって拳で堺雅史の背中を叩いたが、雅史の耳には入っていないらしい。
もちろん、孫子は、冷静に目の前に展開される事態を目撃している。
大人の男性、というよりは、まだまだ少年らしい線の細さを残した雅史が、外見に似合わない粗暴さをもってな中性的な魅力をもつあんなに自分の劣情を闇雲にぶつけようとする図は……孫子の目にも、どこか、倒錯的に感じられた。
堺雅史も柏あんなも、どちらかというと小柄で細身なため、まるで少年同士が絡んでいるようにもみえる。
堺雅史は柏あんなのはだけたコットンシャツの合間に顔をうずめ、鼻と顎であんなのブラをずり下げ、一瞬だけ除いた色素の薄い乳首に食らいついてピチャピチャと盛大に音をたてて嘗めはじめる。それだけでも、あんなの抵抗は覿面に弱まったが、雅史が歯を立て始めると、びくん、と背筋を反らせて、何秒か上体を硬直させた。
孫子の位置からは子細はみえないが、どうやら、乳首を強く噛まれたらしい。
いまや、堺雅史は柏あんなの両股の間に完全に自分の体を割り込ませ、あんなの股間に自分のそれをこすりつけながら、腕であんなの上体を拘束し、口で執拗に、中ば以上露出している、血が昇ってきれいなにピンクに染まった柏あんなの肌を責めている。
柏あんなも時折思い出したように「駄目ぇ……」とか、「先輩が見ているよぉ……」とか小声で呟くのだが、堺雅史の耳には相変わらず届いていないようにみえた。それに、柏あんな自身も雅史の情熱と愛撫に呑み込まれかけているのか、その時折もらす小声も、どんどん小さな、力のないものになっている。
孫子と目があっても、あんなの目はとろんと潤んでいて、焦点を結んでいないようにみえた。時折思い出したように孫子のことを口に出してはいても、実際に今の柏あんなが孫子のことをどれほど意識に留めているかというと、これは、かなり怪しい。
堺雅史と柏あんなは、校内でも一、二を争うバカップルであり、その関係も、昨日今日はじまったものではない。いわゆる、幼なじみで、「気心が知れた仲」というやつである。
だから、か……一度二人の世界に没入しはじめると、周囲のことに気が回らなくなる傾向があった。
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つづき]
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