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髪長姫は最後に笑う。第五章(90)

第五章 「友と敵」(90)

 ちょうどいい時間になっていたので、一度家に帰って昼食を済ませてから残りの買い物をしようかとも思ったが、一人でマンションに帰ると、また外出するのが面倒になると思い直し、結局、そのまま商店街に直行することにした。ひなびた商店街、といえども休日にはそれなりの人出がでるので、自転車は商店街から少し離れた適当な場所に停めておき、荒野だけがアーケードをくぐる。
 先週の食生活は玉木がお隣りの狩野家にほぼ日参していた関係で、魚介類を普段の倍くらいは摂取したような気がするから、今日は保存の効く野菜類と肉、それに、最後にマンドゴドラにいってケーキを多めに持ち帰るつもりだった。三人組が一泊したおかげで食料の備蓄はほぼ払拭していたし、今日の検査の帰りに三島百合香やあの三人組がマンションに寄る可能性も十分にあり、その準備もしておいたほうがいい。
 そんな事を考えながら荒野は、立ち寄る店の順番を瞬時に判断し、その合理的な道順に従っててきぱきと買い物を済ませていく。途中、うお玉のおやじさん、つまり、玉木珠美の父上にも呼び止められたが、二、三、言葉を交わした後、「また、明日にでも買いに来ます」と頭を下げて次の店に移る。うお玉の店主は、「今度来たときはおまけするよ」といって荒野を開放してくれた。
 食材のビニール袋を体中にぶら下げたような恰好の荒野は、一度自転車に戻り、荷物を前の籠と後ろの荷台に振り分け、荷台においた物は落ちないように紐でしっかり縛り、マンドゴドラまで自転車を押していく。
 マンドゴドラは商店街のアーケードのはずれから、さらに奥まった、この辺の地理に明るくない人なら、まず間違いなく迷うような場所にあったが、幸か不幸か、その「この辺の地理に明るくない人なら、まず間違いなく迷うような場所」というのが、荒野の通う学校から荒野の住むマンションの通り道上であったりする。
 今日は日曜日の昼間ということで、学校の制服を着た通行人は流石にいないようだったが、マンドゴドラの入り口近くに荷物を満載した自転車を停め、ふと顔を上げると、喫茶室のカウンターに座っている玉木と目が合った。おまけに、その隣には有働勇作まで座っていて、実に幸福そうな顔をしてフォークを手繰っていた。そのごつい外観に似合わず、有働は荒野と同じ甘党らしい。
 荒野は店の中に入り、顔見知りのバイト店員に会釈して、ケーキを二ダースほど梱包するよう頼んでから、喫茶室のコーナーに移動する。目があって、挨拶もなしに店を出る、というのも、ことさら無視しているようで抵抗がある。
「お前ら……いつも一緒だな? つき合ってるのか?」
 カウンターの座席に腰掛けながら、挨拶もそこそこに、荒野は玉木にそう声をかける。
「まっさかぁ……。
 父上からカッコいい荒野君がお店に顔を出したという連絡が入ったので、急いでここにきて、待ち伏せしていたのだよ……」
 玉木はにこやかに笑いながらそう答えた。
「まっさかぁ……って、有働君に失礼じゃないのか? それ……。
 それに、お前の所の店では、知り合いが来る度に家族に連絡する習慣があるのか?」
 荒野は不機嫌な声で玉木に対応しはじめる。
 ……買い物帰りに必ずこの店に寄る、と、読まれている時点で、何気に気まずい。
「だからさ、わたしなんかと有働君じゃ、有働君に悪いっての。
 有働君、見かけによらず、成績優秀スポーツ万能な優等生なんだから……」
「その、見かけによらず、という断りをいちいち入れるのも、失礼だ……」
 何故か玉木が相手だと、漫才風の掛け合いになりがちである。
「で……おれをみたら連絡するように店長さんに頼んでたのは? なんか用事でもあるのか?」
「それそれ……」
 玉木は、ぽん、と柏手を打った。
「特に緊急の要件というわけでもないのだが……荒野君には、話しておきたいことがあってね……。
 実は、昨日の帰りに有働君と話したのだが……」
「……まて……」
 玉木が急に表情を引き締めたのをみて、荒野はいったん玉木の話しを止めた。
「込み入った話しなら、ここよりもおれのマンションに場所を移してからにしよう。
 荷物持ちをやらせてやるから光栄に思うように。おまけに、ケーキの一つや二つ、御馳走してやる……」

「へぇ……じゃあ、茅ちゃんとあの三人は、留守なん?」
「ああ。先生が、近くの病院だか診療所だかに連れて行っている……」
 有働は無口、というわけではないか、玉木と一緒にいるときは、極力出しゃばらずに玉木にしゃべらせる方針のようだった。
 三人で肩を並べて歩いていても、会話をするのは専ら荒野と玉木だけだった。
 その荒野は、荷物を満載にした自転車のハンドルを手で押し、マンドゴドラで梱包して貰ったばかりのケーキの箱は、有働勇作に持って貰っている。
「なるほどな……あの子たち境遇だと、そういうのもやるのか……」
「じじいの指示でな。
 あの三人のことは知らないけど、茅は今までにも身長、体重、視力、血液検査くらいは定期的にやってたし……。
 今回は、人数が増えたからか、それより少し詳しくやるそうだ……」
「寂しい? 茅ちゃんがいなくて寂しいですか? カッコいい荒野君?」
 ……未樹さんといい、この玉木といい……どうしてそういう話しになるのか……。
 と、荒野は思った。
「学校にいる時は、いつもずっと離れているだろ……。
 それと同じで、特に何ともないよ……あの三人が一緒なら、滅多な事はないだろうし……」
「いやそういう事じゃなくってさぁ……」
 玉木は荒野の顔をまじまじと見て苦笑いをした。
「……なんてのかな……。
 茅ちゃんとカッコいい荒野君、わたしの中では二人で一組なんだよね……。
 イメージ的に……」
 そういわれても……荒野は、どう反応すればいいのか……しばし、考え込んでしまった。

 玉木と荒野の三人で肩を並べてマンションに入ると、飯島舞花と栗田精一の二人とばったり出くわした。同じマンションに住んでいるわけだから、出くわしてもおかしくはなかったが。
 玉木と舞花は出会い頭に「おー!」と小さな叫び声をあげて平手をぱちんと打ち合わせた。
「どうだい、舞花ちゃん? 昨日もお盛んで激しかったか? ん?
 ……って、ミニラ先生の真似」
「似てない。
 おうおう、お盛んで激しかったぞ。なんなら回数いってやろうか? ん?」
「回数はいらん。
 そうかそうか。相変わらず仲がよろしくて結構なことだ。
 で、栗田氏はこれからご帰還か?」
「いったんな。
 今日は、夕方にまた来て明日、こっちから直接登校する予定だが……いったん、着替えを置いて学校の道具とか制服取りに帰らせるところだ……」
 ……周囲公認の学生カップル、というのも、これはこれでやりにくいものなのかも……とか思いながら、栗田精一のほうをみる。
 目が合うと、荒野のいいたそうなことは大方想像がつくのか、栗田精一は何事か悟ったような顔をして、肩をすくめた。あるいは、同性からそのようなまなざしでみられることに、慣れているのかもしれなかった。

[つづき]
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Comments

「「まっかぁ」赤いのは誰だ!
・有働
・荒野
・マンドゴドラのマスター

該当者は共産主義者として特高警察に捕縛されます

  • 2006/06/04(Sun) 23:30 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

毎度

「まっかぁ」→「まっさかぁ」に修正。
いつもいつも、ありがとうございます。

  • 2006/06/05(Mon) 17:13 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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