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髪長姫は最後に笑う。第五章(91)

第五章 「友と敵」(91)

「そういや、お前ら、昼飯食った?」
 自分の住むマンションに入るなり、荒野は玉木と有働にそう尋ねる。なんだかんだで荒野自身の昼食がまだだった。
「いんや。まだだけど……。
 てか、今日は一時間前に起きたばっかだから、まだなんも食べてない……」
「ぼくも、お昼はまだです」
「……玉木は不健全な生活態度を改めた方がいい……」
 荒野はそんなことをいいながら、商店街で買い漁った荷物を手早く収納し、愛用のエプロンを身につける。
「じゃあ、ケーキの前にメシだな。ご飯は炊くのに少し時間がかかるから、麺類でいいか?」
 そう確認してから、上海焼きそばを作り始める。ちょうど、麺や野菜を買ってきた所だし、冷凍庫には剥き身の冷凍エビもあった。
 チンゲン菜を一口大に切り、良く熱した中華鍋に挽肉を放り込み、よく火を通してからとニンニクのみじん切りと冷凍エビ、切ったチンゲン菜も炒め合わせる。それから、ほぐしておいた麺もいれ、全体に火が通ったなというところで、粉末の中華スープの素をお湯にといてスープをいれ、オイスターソースをほんの少し鍋に直に垂らす。それから調理酒を少し多めに入れて、煮立った所で蓋をして少し蒸らす。
 ごく短時間の間に手慣れた動作でそれだけのことをして、出来上がったものを三つの皿に盛ってテーブルの上に配膳とすると、玉木と有働は目を丸くしていた。
「……どうした?」
「荒野君、プロの料理人になったほうがいいよ……」
 玉木は、呆然とそんなことをいう。
「……お前さんが料理をしない、ということは、今の一言でよーくわかった……」
 そういやこいつ、前にも食中毒がどうのこうと言ってたっけ……と、荒野は思い出す。
 ……今後、玉木がなにか食べ物を作った時は、理由を作って口にしないようにしよう、と、荒野は決意する。
「ま、せっかく作ったんだし、冷めないうちに食ってくれ……」
 エプロンを外しながら荒野がそういうと、思い出したように玉木と有働は箸を取る。
 食事をしながら、玉木と有働は昨日の帰り道に語り合ったことを荒野に告げ、荒野の方は、どうやら新たな干渉がはじまったらしいことを、二人に告げる。
 奇しくも、別々の原因から、「この周辺の住人を、完全に荒野たちの味方にする」という同一の目標が導き出されたのを確認しあった形だった。
「お前らがそういうこといってくれるのは、嬉しいけどな……」
 荒野は、玉木と有働の決心を聞いても、感涙にむせぶ、ということはなく、淡々と受け止めていた。
「だけど……そういう大変なことをお前らが実際に出来たとして、だ……。
 仮に成功したとしても、おれたち、お前らに形のあるものでお礼できないぞ……」
 まともな報酬や謝礼は出せない、と、釘を刺した形だ。
「そんなことはありません!」
 普段は大人しい有働が、いったん箸を置いて、荒野のほうに身を乗り出した。
「あ。すいません。大声出して……。
 でも、違うんです。玉木さんはどうか知らないですけど、ぼくのほうは、ちゃんと見返りのことも考えてます。たしかに大変な仕事ですが、絶対、ぼくは損しません!」
「……そうは、いうがなぁ……」
 荒野は、いつもとは違う有働を、まじまじと観測する。玉木にとってもこういう有働は珍しいのか、玉木も目を見開いて成り行きを見守っていた。
「……実際、おれら、君たちにあげられるものないし……。
 それに、おれら、来年三年だろう? 受験とか、そっちのほうで忙しくなるんじゃないのか? 普通?」
「受験」という単語が出ると、玉木の顔は覿面に強ばったが、有働の方は平然としていた。
「成績に関して言えば、ぼくのほうは、ぜんぜん問題ありません」
 有働はそう言い切った。マンドゴドラで玉木が言っていた「成績優秀」というのは、どうやら本当らしい。
「それよりも、です。ぼく、ジャーナリストを目指しているんです。日本の既製のマスメディアに就職したい、とかいうのではなく、本物の、現場の人間に……今現在、どこかで起こっている、報道すべき事件なり出来事なりを、広く伝える人になりたいんです。
 その目の前に、加納君、君たちという特ダネが、不意に現れたわけです……」
 いきなり「特ダネ」扱いされた荒野は、瞼を忙しく開閉させた。
 荒野は……自分たち一族のことを、そんな風に考えたことはなかった……。
「加納君……。
 君は、将来一族から抜ける可能性もある、といいましたね?
 それって、つまり、汚い仕事をそれ以上やりたくないっていうことでしょ?
 それに、茅ちゃんとか、あの子たち……あの子たちにも、そのまま汚い仕事をさせるつもりですか?
 加納君が自分で、そういう仕事を選択するのなら、ぼくらがとやかくいう筋合いではありません。でも、嫌がっているのなら……ぼくらは、君たちがこれから先、そういう仕事に手をつけないでいられるような環境を、整えます……。
 まず、学校とかこの近所から初めて……加納君のような一族の人たちが、身分や自出を偽らずに住めるような場所を、作ります……」
 荒野は瞼に続いて、今度は口をぱくぱくと開閉させはじめる。言いたいことは山ほどあるのだが……なかなか、言葉が出てこない。
「何年かかるかわかりませんが……それが成功したら……たった今からその時までの、加納君たちの記録の公開させてください。
 将来の、取材権独占、というのが、ぼくの見返りです……」
 荒野が金魚よろしく口をパクつかせている間に、有働勇作はそう締めくくった。
 玉木が、「わはははは……」と乾いた笑い声を上げはじめる。
 その笑い声の調子を聞いて、玉木にしても、有働がそこまで大きなことを考えているとは思っていなかったようだ……と、荒野は判断する。
「お前ら……」
 荒野は俯いて目を閉じ、軽く瞼を揉みながら、ようやくそういった。
「……本当に……本気で……。
 いいやつ、なんだなぁ……」
 玉木や徳川篤朗の存在にも驚かされたが……この有働も、地味にみえて、なかなか凄いヤツなんじゃなかろうか……と、今更ながらに、荒野は認識を改める。
「……あったり前だよ……有働君は、わたしが見込んだ子だもん……」
 玉木は、そういって笑い続ける。

[つづき]
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