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第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(50)
柏家から退出すると、孫子は狩野家の方向に向かう。
帰る前に一度隣りのマンションに寄って、飯島舞花に薬を手渡すつもりだった。歩きながら手早く舞花宛にメールを打ち、「これからそちらに向かう」旨、通告する。舞花からはすぐに、「了解。歓迎」という意味の短い返信がきた。
どうやら、舞花は、今すぐにメールのチェックと返信ができるくらいには、手が空いているらしい。栗田精一も舞花と一緒にいるのかどうかまでは、そのメールには記載されていなかった。
その辺は実際に舞花のマンションに着いてみればわかることなので、孫子は特に気に留めもしなかったが。
メールのやり取りをする時に携帯を確認すると、午後三時に近い時刻になっていた。そういえば、今日はまだ昼食をとっていない。
一旦何事かに取り組みはじめると日常の雑事まで意識が回らなくなる、という傾向が、孫子にはあった。それは、言い方を変えれば人並みは外れた集中力がある、ということなのだが、反面、地に足がついていない、ともいえる。
孫子にしてみれば、狩野家に住むようになるまでは、数人の使用人が絶えず張り付いて日常の細々とした用事を先回りして片付けるのが当たり前のことだった。そんな環境で育った孫子は、自分が興味を抱けることのみに邁進していればいい、という姿勢が、骨絡みになっている部分もある。
また、周囲が見えなくなるほどの集中力、は、スナイパーにとしては有利な条件でもあったから、孫子の保護者である鋼蔵も、孫子のそうした性向を「是」とした部分もあった。
そして現在、孫子が鋼蔵の命を受け、狩野家に下宿しているのは、孫子のそした性向が「行き過ぎた」と鋼蔵が判断したためであり、孫子自身も、たしかに、狩野家に預けられてからこっち、少しづつ変化してきている部分もある。
孫子自身は、その変化にあまり自覚的ではなかったが。
マンションに着くと、エントランスで、日曜だというのに何故か学校の制服を着用し、通学カバンを手にした栗田精一とばったりでくわした。
挨拶を交わしてから、
「あなたも、飯島のところに?」
と孫子が尋ねる。
たしか栗田は、昨夜も、例によって、一晩舞花のところに泊まっていると思ったが……。
「ああ。
ええっと……なんだか知らないけど、まーねー、じゃなくて、飯島先輩、昼頃いきなり一旦帰ってもう一泊する準備してこいっていいだして……」
栗田精一が飯島舞花に逆らえない、という噂は本当だったらしい、と、孫子は思った。もっとも、そんな力関係は普段の彼らを見ていれば、誰にでも判断できそうなものだが。
「……才賀先輩は、加納先輩の所ですか?」
今度は、栗田精一が孫子に尋ねる。
飯島舞花は、玉木や有働のように、荒野から詳しい事情を聞かせれている訳ではなかったが、前後の状況からなんとなく事情を察し、あえて詳しいことを聞かない、という態度を貫いている。
舞花は、一見大ざっぱにみえて、以外と勘が鋭く、気配りも細やかだったりするのだが、舞花とつきあっている栗田のほうは、逆に意外に鈍感で、ものが見えていない節がある。
いや。
栗田のほうが、むしろ、普通……というか、年齢相応、なのか……と、孫子は慌てて思い直す。
舞花が栗田と付き合っているのは、単純すぎてかえって裏表がない栗田の性格を気に入っているからではないか、と、孫子は考察した。
舞花自身、感受性が鋭く気を使う性格だから、こういう相手の方がかえって楽なの知れない、と、孫子は思う。
飯島舞花は、孫子がこの土地に来てから一番親しくしている友人であり、栗田のことはさほどよく知らない孫子でも、舞花の心理については、容易にトレースすることができる。
確か、舞花の両親は、舞花が幼い頃に離婚していて……舞花の鋭さと気配りは、その幼少時の経験が、培ってきたものなのだろう。
舞花は……おそらく、親しい人たちが反目したり、仲たがいしたりすることを、極端に恐れている……普段の仕切り屋体質は、そうした心理の反映ではないか……。
たしかに、そうした舞花にしてみれば、体育会系で心理の裏を読む必要の栗田精一は、一緒にいて楽な筈だった……。
「……なんだ。一緒に来たのか……」
入り口の扉を空け、孫子と栗田が並んでいるのを見て、飯島舞花はつまらなそうにそういった。
「……セイッチ、驚かせようと思ったのに……」
どうやら、栗田には事前に孫子の来訪を告げず、いきなり鉢合わせさせて反応を楽しもうとしていたらしい。
確かに、孫子が舞花のマンションを訪れるのは珍しく、これが初めてだった。特に用事がなかった、ということもあるが、それ以上に週末はたいてい栗田が来ているので、二人の関係を知る者は、気軽に遊びに来にくい、ということもある。
「ええ……。
下の、エントランスで鉢合わせいたしまして……」
「まあ、いいや。
とりあえず、はいってよ。
加納のお兄さんからケーキのおすそ分け貰った所だし、今、お茶いれるから……。
お茶、というか、コーヒーだけど。茅ちゃんの紅茶飲み慣れていると、ティーバッグの紅茶だすわけにもいかないもんなぁ……」
舞花の言葉どおり、キッチンの方からコーヒーの香りがただよって来ていた。事前に孫子がメールで知らせていたので、タイミングを図って入れてくれたらしい。
栗田精一が「お邪魔します」ともいわず、玄関で靴を脱いでズカズカと上がり込む。慣れている、というより、週末毎に泊まりにくる半同棲のような感じだから、他人の家、という感覚がないのだろう。
「……で、まーねー。
なんなの、その……手に入りそうな、面白いものって……」
栗田はそんなことを言いながら、奥の部屋に入っていった。
孫子も、栗田の後を追うようにして舞花のマンションに入って行く。
荒野たちのマンションとほぼ同じ間取りの2LDKで、孫子と舞花はキッチンのほうに、栗田はその奥の部屋へと向かって行く。キッチンのテーブルの上には、こぽこぽ音をたてて作動しているコーヒーメーカーが置いてあった。
「……それなー……。
細かいことは、おいおい説明するよ。ちょうど、孫子ちゃんも来てくれたし……」
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つづき]
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