第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(51)
「え? 才賀さんが?
その面白いもの、って、才賀さんと関係あるの?」
向こうの部屋から、栗田が声だけで舞花にそう尋ね返す。
「そうだよ。
その面白いものって、才賀さんから頂いたんだ……。今、本人から詳しい説明して貰うから、早く着替えてこっちに来い……」
どうやら栗田は。舞花のマンションに普段から部屋着をキープしているらしかった。
できあがったコーヒーを三つのマグカップに分けながら、舞花は栗田のいる部屋に向かってそういい、その後、孫子に辛うじて聞き取れる小声で、
「……話してたの、これとこれに入れて。
わたしとセイッチで、早速、試してみる……」
とかいいながら、孫子に向かって悪戯っこじみた微笑みをみせ、ウインクして見せた。
舞花は、薬を二人で服用しながら、詳しい説明を聞くつもりらしかった。
ぶっつけ本番を厭わず……というあたりが、なんというか、舞花らしい……と、孫子は半ば呆れながらもそう思い……舞花の指示どおりに、二つのマグカップに持参した小瓶の中身を少量づつ、垂らす。
ジーンズにポロシャツ、というラフな服装になってキッチンに戻って来た栗田精一は、飯島舞花に向かって、
「で……まーねー。
その、面白いものって……」
と、早速聞いてくる。
舞花が孫子の薬のことを、よほど思わせ振りに、しかも正体は明かさないまま、大袈裟に吹き込んでいたらしい……と、孫子は予測する。
「……まあまあ。
加納のおにいさんからケーキを頂いて来たことだし、これでも食べながらゆっくり詳しい話しを聞こうよ……」
そういいながら舞花は、自分でいれたコーヒーを、何の躊躇もなくぐびりと一口飲み込んだ。
その自然な動作に釣られて、栗田精一も自分の手前に置かれたマグカップに口をつける。
……良い度胸だ……と、孫子は舞花の行動を評価した。孫子からの断片的な情報で、自分もろとも実験台にするとは、なかなかできることではない。
先程、柏あんあがやったように、あるいは、今現在孫子がそうしているように、まずは他人で試してから……というのが、普通のやり方だと思うが……。
好奇心が強くて一刻も早く自分の身で試したかったのか、それとも、栗田精一一人を実験台にするのが忍び難かったのかは分からないが……飯島舞花の方法は、無謀すれすれの危うさがある……と、そこまで考えて、孫子は、はっ、とあることに気づいた。
……栗田精一ひとりを実験台にするのが忍び難かったのなら……そもそも、はじめっから薬についての詳しい情報を提示して、二人で「いっせいのせ」で、服用すればよいのだ。
と、いうことは……飯島舞花の本当の動機は……。
おそらく、得体の知れない薬を盛られた、と気づいた時の栗田精一の反応を楽しむこと……なのだろう。
孫子に安全なものだと聞いた上での、いわば、ちょいとした悪戯心なのだが……。
それはそれで……いいタマだ……とも、思った……。
「……で、孫子ちゃん……」
飯島舞花は、目の前のモンブランをフォークで切り分けながら、さりげない口調で切り出した。
「そのクスリって、本当に毒ではないんだよね?」
毒、という単語を聞いた途端、マグカップに口をつけていた栗田精一は、げほげほと咳き込みはじめる。
「ええ……。
決して毒などではないのですけど……使い過ぎると健康を損なう、とは、聞いています……。
特に、殿方の方は、負担が大きいとか……」
舞花の意図を、だいたい正確に察した孫子は、その意図に沿って栗田の不安を煽るような言い方を、あえてした。
「……過ぎたるは……って奴だな……。
どうした、セイッチ? 毒じゃないってはっきりしたんだから、そんなに慌てることないじゃないかぁ……」
飯島舞花は、そういっていかにも楽しそうに笑いながら、栗田精一の背中をさする。
『……この子……意外に、いじめっ子体質ですのね……』
舞花の楽しそうな様子をみて、孫子はそう評価する。このような面も、今では本当に親しい人にしか見せない、一種の甘えであり媚態でもあるのだろうが……子供のころは、相当なガキ大将だったのでは……。
そういえば、子供時代の舞花を知るもう一人の証人、樋口大樹が「まーねー」という呼称を使う時、その語調にかすかな震えが必ず交ざっていたような……。あれは、幼少時の恐怖の記憶、だったのか……。
『……栗田さんも……』
心持ち青ざめている栗田精一の顔をみながら、よくも、この舞花と付き合っていられるものだ、と、孫子は思った。
「……あの、ど、ど、ど……毒じゃないって……」
完全にびびりが入って来た栗田精一が、どもりながら、孫子に聞いてきた。
「なんだかわからないけど、それ……これに、入っていたんですか!」
栗田精一は、掠れた声でそういって、自分で口をつけたマグカップを指さした。
「だから、慌てるな、セイッチ……」
飯島舞花は栗田精一とは対照的に落ち着き払っている。
「いっしょに、同じクスリをわたしも飲んでいる。
万が一、何かあった時は……死なばもろともだ……」
舞花のその言葉を聞いた途端、栗田精一は、今にも泣き出しそうな顔をした。
「もう一度、確認しておきます……」
そろそろ洒落にならないかな……と、思いはじめた孫子は、栗田に助け舟を出した。
「このクスリは、決して毒ではありません。慣習性も、ないです。
無害であることは、先程、柏さんのお宅でも実証済みです……」
「ああ。先にそっちで試したんだ……。
で、どうだった? 結果……というか、実際の効果のほどは……」
「効果は、そう、絶大といっていいでしょうね……。
なにしろ、あのおとなしい堺君が、わたくしの目の前で柏さんを押し倒してそのままお楽しみになったくらいで……」
「押し倒す? お楽しみに??」
栗田精一は頓狂な声をあげる。
「だぁからぁ……」
いつの間にか、飯島舞花が栗田の背後に近づいていた。
「面白いもの、っていっているじゃないか……」
そして、背後から両腕でがっちと椅子に座る栗田の首と胸のあたりをホールドし、栗田の耳元に口を寄せて、ささやく。
「……び、や、く……。
えっちな気分になるクスリ、だよ……」
栗田は立ち上がって舞花の戒めから逃れようとするが、もちろん、その動きは、背後からのし掛かるようにして栗田の動きを制している舞花に遮られる。
「……もう、遅いってぇ……二人で飲んでいるんだからぁ……逃げたって火照る体を持て余すだけだぞぉ……」
舞花はどこか熱を含んだ声で、栗田にそう囁く。
「……ま、まて、まーねー……これ、ちょっと、洒落になんないよ!」
栗田の声には焦燥と切迫の色が交ざった甲高いもので、ほとんど悲鳴に近い。
「……時間、どれくらいで効きはじめるんだっけ?」
それとは対照的に、孫子のほうに顔を向けて聞いて来る舞花の声は、極めてのんびりしたものだった。
「五分、と聞いています。堺さんもそれくらいでしたし……そろそろ、効きはじめる筈ですわね……」
腕時計を確認しながら、孫子もあくまで冷静に答える。
「あ! ああ! わたし、なんかそんな気になってきた!
セイッチも、ほらぁ、あんなに元気!」
舞花が栗田の股間のあたりねっとりとした視線をはわせながら、弾んだ声でそんなことを叫びはじめる。
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つづき]
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