2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

髪長姫は最後に笑う。第五章(93)

第五章 「友と敵」(93)

 一度訪ねてきた舞花がケーキを持ってすぐに帰っていくと、その後、有働と玉木は交互にどこまで本気か判断しかねる「企画案」を次々に上げはじめる。
 その性格に従って、有働は比較的地に足のついた、地味なものが多かった。それでも、「校内で顔と知名度を上げるために生徒会に立候補する」、とか、「地域ボランティアにみんなで参加する」とか、荒野にしてみれば頭の痛くなるような案が多かったが、もう一方の玉木のほうが「楓と孫子、アイドル化計画」とか「女子プロレス団体の旗揚げ」とかだったので、そちらに比べればまだしも穏当にに思えた。
 そうした、ほとんどその場の思いつきに近い企画案が延々と口頭で提出され、主として荒野と有働が「恥ずかしすぎるから、駄目」とか「……それは、現実的ではありません……」とかその場で却下する。
 多少なりとも実行に移すのに問題がなさそうで、なおかつ、効果的であると認められた案件はすぐに幾つかに絞られて来て、そのプランに関しては、茅や楓、孫子などにも協力を求める必要があるため、有働と玉木が一度持ち帰って「企画書」の形にまとめてくる、ということになった。
「まあ……それでも、茅とか楓がいやだっていったら、やらないからな……」
 実行に移した際の必要性と効果を認めながらも、荒野はまだ、そんなふうに付け加えて抵抗することを忘れなかった。
「悪あがきだなあ、カッコいい荒野君は……」
 しぶしぶ、ではあるもの、荒野のほうもそれなりにノリ気になりはじめていて、しかもそれを認めたくないというのが態度にありありと出ているのを感じ取って、玉木はくすくす笑いながら、そういう。
「って、いうか……お前ら、こういうの、本当に効果ある、と、思う?」
 不意に真顔になって、荒野は目の前の二人に尋ねてみた。
「おれらみたいのなのが……多少、人気取りをしたからって……このへんの人たち……本当に、受け入れてくれるのか?」
 意外に真面目な声だったので、玉木と有働は、顔を見合わせた。
「実際の所、やってみなくては、わかりません……」
 玉木に肘でつつかれて、有働が空咳をひとつして座り直し、荒野の目をまっすぐに見つめて、語り出す。
「この、加納君たちの問題は……つまるところ、潜在的な差別問題なのです。
 確かに、自分の身の回りに、自分とは異質の存在が平然と闊歩している……ということに対する悪感情は……個々人により差があります。正直なはなし、そうした恐怖心やそれと裏返しの蔑視を根底からなくすことは、不可能なのです。
 人間とは……何者かを愛する存在であり、それ故に、何者かを差別する存在なのです……。
 例えば……加納君は、茅君と楓さん、どちらのほうを重要だと思っていますか?」
「茅だ」
 荒野は即答した。
 楓のことも決して嫌いではなかったが……そもそも、楓は、茅を守るために派遣された者で、茅と並立する存在ではない。
 そこまで考えて……荒野は、はっ、と目を見開いた。
「一般人は……そういう考え方を、しないのか?」
 ここまで考えて、荒野は、自分自身が、上から押しつけられた役回りを絶対視していることに、改めて思い当たった。
「そういう考え方、というのが、どういうことを指すのかぼくには分かりません。
 が……」
 有働は、頷きながら、荒野に諭すように、語りかける。
「決して嫌いでないない人の間にも、序列や優先順位を作ってしまう……。
 そのような意識を、加納君が一般人と呼ぶ我々は、愛とか差別とか、呼びます。愛と差別は、表裏一体であり……人間が人間である限り、その感情だけを取り除くことはできません。
 だから……差別意識は、どうあがこうが、根絶できません……」
 いつになく、玉木も真剣な顔をして、有働と荒野のやりとりを見守っている。
「でも……差別意識を取り除くことはできなくても……差別的な言動を、法や制度、あるいは、もっと漠然とした雰囲気として抑制していくことは、十分に可能なのです……。
 また、そのような方向に世の中を変えていくことこそ……ぼくら、若い者の仕事なのだと思います……」
 荒野は、有働の言葉をしばらく頭の中で反芻し、それからため息混じりにこうコメントした。
「君は……有働君は……本当に、いいヤツなんだな……」
 自嘲混じりに、そう思ってしまう。
 ここ数年、世の中の汚物処理のような仕事に追われていた荒野は……否応なしに、「自分一人がどう足掻こうとも、この世界には影響はない……」という、ある種の達観と諦観を持ってしまっている。
 同い年、とはいえ、有働に比べれば……荒野の心は、どうしようもなく老いている……。
 そんな荒野の心理を知らず、玉木は、「さっすがぁ、ジャーナリスト志望!」とかいいながら、有働の背中を平手でばんばん叩いていた。

 その後は、単なる雑談になった。
 別名、その場にはいない共通の知人の品評会。その手の話になると玉木の土壇場といってもよい。ここで荒野は二組のバカップルについての校内の噂話を初めて聞いた。
「……こ、校内ので、やっているのか?」
「あくまで、噂だよ、噂。
 なんでも、夏休み明け頃、プールの更衣室でやり始めたのを、あやうく先生に見つかりかかったとか……」
「そういうのって……日本の学校では、普通のことなのか?」
「そんなわけはないです。特別なことだからこそ、噂話になるわけで……。
 真偽のほどはわかりませんが、その噂が出回り始めた頃、あの二人が公然と付き合い始めたのは事実でして……」
「……そういや、一年のほうのバカップルが公然とベタベタしはじめたのも、夏休み明けからだったな……。
 あっちは前々からあやしい雰囲気だったけど、二学期になったらいよいよ本格的にくっついていた……」
「あの二人は……もともと、お隣り同士で、ずうっと小さい頃からの知り合いということでしたから……。
 仲は良かったですし、なんかきっかけがあれば、いつでもああなるような雰囲気でしたよ、もともと……」
「そうそう。
 一学期の初っぱなから一緒に登校してきてね……。
 どっちも可愛い顔しているから、すぐに学校中で話題になったんだけど……」
 そういう話題になると、二人はとどめもなく話しを転がしていく。
 聞く一方になった荒野は、冷めたコーヒーを啜りながら、「自分が退屈している」という状態を楽しんでいた。
 思えば……荒野が、学校の友人と、このような無駄な世間話に興じるのは、これが初めてなのではなかろうか?

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのじゅうさん]
WEB ADLUT SAERCH ラグさ~ちすてーしょん X-area18 官能小説検索サイト アダルトサイト お勧めサーチ 読み物交差点 エロブログタイプ アダルト専門 アダルトサーチジャパン アダルト検索NaviNavi ALL-NAVI

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ