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「髪長姫は最後に笑う。第五章(94)

第五章 「友と敵」(94)

 玉木と有働は昼過ぎから夕方の五時頃まで荒野たちのマンションに居座って他愛のないおしゃべりしていた。
「あ。もうこんな時間。
 そろそろ帰って今日話していた企画書、しあげまーす……」
 と玉木が言い出したのを機に、有働も「では、ぼくも」と腰をあげる。
 二人がそろって出て行った後、荒野は干していた洗濯物と布団をとりこんで片付け、シンク回りの掃除をし、そろそろ夕食の準備をするかな、と、考えていた所で、三島から連絡が入った。
 これから、夕食の買い物をしてから帰る、ご飯だけを炊いておけ……という内容だった。久々に、三島が食事の準備をしてくれるという。
 荒野は「あの三人も一緒だろう」と予測し、十合ほど米を研ぎ、炊飯器のスイッチをいれ、ソファに横になり、ぐったりと体を沈めた。
 ひさしぶりに一人で過ごした休日は……今までに潜伏していたいろいろなことが一遍に起こって、降りかかってきて……荒野自身も、頭の中で、良く整理できていない。
 ……茅や先生に、うまく説明できるように……整理しとかなければな……とか、思っているうちに、荒野は目を閉じて、うとうとと微睡みはじめる。

 目を醒すと、体の上に毛布が置いてあり、キッチンの方からは、いい匂いが漂ってくる。何人かの人の気配がした。と、いうことは……。
 荒野は、がばりと身を起こした。
 キッチンでは、三島と茅が指揮を取って三人組を動かし、夕食を準備している最中だった。
 荒野がまどろんでいた間に、みんなが帰っていた。
 そのこと自体は、別に不思議でもなんでもないのだが……。
 同じ室内にこれだけの人数が入ってきて……なおかつ、荒野が、そのことに気づかないまま、寝入っていた……ということこそが、問題だった。
『……おれ……』
 平穏な生活を何カ月も続けるうちに……術者として、鈍ってきているんじゃあ、ないだろうか?
 そんなことを思って荒野が一人で青くなっていると、
「……荒野」
 荒野が跳ね起きたことに気づいた茅がトコトコと歩いてきて、小さなぬいぐるみを差し出した。
「おみやげなの」
 まるっこいデザインの、ネコ「らしい」。
 口元や耳の形と、それに、顔の左右にピンとのびたヒゲから、たぶん、ネコじゃないかな、と、察しがついたが、やたら丸っこくてファンシーなディフォルメが行き過ぎて、荒野にはイマイチ「それがネコである」という確信が持てない。
 大きさは、茅の掌にすっぽり収まる程度……実に、小さい。
「どうしたんだ? これ?」
 荒野が訪ねると、エプロン姿の三島がやってきて、
「それな。茅とテンは目測でかなり正確な採寸ができるって話しだろ? だからな、帰りに買い物ついでにゲーセンに寄ってUFOキャッチャーやらせて見たんだ。
 そしたら……ほれ、思った通り、大漁大漁……」
 三島は、荒野が座るソファの脇から段ボールを取り出し、荒野の膝の上にざらざらと中身をぶちまける。
 段ボール箱一杯分の、ぬいぐるみだった。
 どうやら、荒野が起きたらこうしてぶちまけたくて、あらかじめセッティングしていたらしい。
「……それはいいけど……どうするんだ? こんなに?」
 荒野は不明瞭な声で、そういう。寝起きということもあったが、このような時、なんといっていいのかよくわからない。
「なに、ほとんどあいつらが持って行くってよ。
 やつらの部屋、殺風景だというから、ちょうどいいさね……」
 三島は、キッチンの方で包丁や食材の入ったボールを持って右往左往している三人を指さす。
「……おれ……顔、洗ってくる……」
 荒野は洗面所で、幾つかの小さい紙片が顔に貼りついているのを発見する。
 引っ剥がしてよくみてみると、茅と三島、それに三人がひしめき合って一緒に写っている、プリクラだった。
『……仲がよろしくて、結構なことだ……』
 荒野は、皮肉でもなんでもなく、そう思った。
 そして、鏡をみてべたべたと顔のそこここに貼ってあったプリクラを一つ一つ剥がしにかかる。

 顔を洗ってキッチンを覗いてみると、三島にしては珍しく、あまり手のかからない料理を作っていた。
 冷凍の鰻をオーブンで焼いていて、これがメインらしい。後は、具沢山の豚汁らしきものが鍋にはいって火にかけられており、それと、三島が持ち込んだ漬物を切ったものが丼に山盛りになったものが、すでにテーブル上に用意されている。
 三人がどたどた動いて用意していたのは、どうやら、豚汁と漬物らしい、と、荒野はあたりをつけた。
「……今日のは、随分と、大ざっぱなメニューですねぇ……」
 荒野がそう呟くと、
「そうはいうがな、こいつらがあんまり腹減った、っていうんでな……。
 それに、食うのもどうせこいつらだろ?
 そんな、繊細な味付けをするよりも、手早く作れてボリュームがあるモンのがいいと思ってな……」
 三島がそんなふうに説明すると、荒野も、「そんなもんかもな……」と、納得する。
「確かに……質より量、かもしれませんね、こいつらの場合……」
 荒野が一人うなずくと、
「こんなのこんなの、いうな!」
 と、荒野の前に仁王立ちになったガクがわめいた。
 続けてガクガがこういいだしたので、荒野は内心、ひそかに焦った。
「それより、荒野……茅さんが留守中に、なに女を連れ込んでいるんだよ!」
「お……女?」
 荒野は、どもりそうになるのを、辛うじて堪えた。
「確かに、玉木と有働君が来てたけど……」
「違う! その二人の匂いは知っているの! 解るの!
 その二人とは別の女の人の匂いが、残っている!」
 ガクは少し興奮した様子で、そう断定した。
『……体臭?
 犬並だな、こいつの鼻……』
 そう思いながら、荒野は頷いた。
「あ。ああ……。
 そういや、昼前に少しだけ、未樹さんが来てたけど……。
 その、偶然、ショッピングセンターであってな。ちょうど荷物も多かったし、送ってもらったお礼に、ここで一服してもらっただけで……」
 なんで、なんにも疚しいことがないのに、言い訳じみた口調になってしまうのだろう……と、荒野は、自分でも不思議に思った。
 第一、ガクにこんなことを言い訳しなければならないいわれはない……筈……なのである。
「……本当?」
 ガクが、不審そうに眉を顰めて荒野の顔を睨む。
「そんなこと、お前にウソついてどうするよ……」
 今の状況を段々理不尽に感じてきた荒野も、口唇をとがらせる。
「まあまあ……」
 三島百合香が、間に割って入った。
「……そのへんの詳しい話しは、食事をしてからでも……」
「……ああ。そうだ。
 こっち、今日はいろいろありましてね、茅や先生にも話しておいきたいことが、いくつか……」
 そういって、荒野がテーブルの、自分の定位置につくと、
「……確かに、ここでえっちなことをしたような匂いは、残ってないけど……」
 ぽつり、と、ガクが小さな声で呟く。
 ……それが分かるんなら、最初からそういえよ……。
 と、荒野は思った。

[つづき]
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