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「髪長姫は最後に笑う。第五章(95)

第五章 「友と敵」(95)

 夕食は、ひつまぶしに豚汁、それに漬物に冷や奴、という栄養バランスと満腹感はともかく、あまり上品とはいえかねるメニューになった。
 オーブンで焼いた鰻をテンがきっかり八ミリ幅に刻み、それを、ガクがたれや錦糸玉子とともにご飯とまぜあわせる。その間に、ノリが、豚汁とか冷や奴の準備をし、配膳する。
 全員が食卓につき「いただきます」の一声の後、箸を取ると、荒野とそれ以外の人々の「今日の出来事報告会」になった。丸一日、身体検査を受けていただけ、の人々よりも、荒野のほうが報告すべき事柄が多かったので、先に検査の様子を聞く。
「……一カ所で終わると思ったら、あちこちの場所にたらい回しにされて、予想してたよりもかなり詳しく調べられたな……」
 三島はそう証言した。
 レントゲンや心電図、などの外に、血液の採取も、三分間の反復横跳びの前後、二種類の血液を取られた、という。
「……それ、なにが解るんですか?」
 救急治療などの知識は一通りあるものの、あまり医学に詳しくない荒野は、三島にそう尋ねる。
「いろいろ解るぞ。
 血中酸素消費量とか、乳酸含有量とか、アドレナリンなどの分泌量とか……」
 人数が増えたから、各人のデータを比較するためにも、改めてそういうデータも取り直したらしい。
「それから、全身の輪切りスキャンもされたな……」
 三島の話しによると、現代では、全身の内部走査……身体各部の正確な形状の外に、血流の状態や脳の形まで、かなり細密にスキャンできるらしい。
 もちろん、相応に大掛かりな設備は必要となるわけだが……そんなものは、涼治のコネを使えばなんとでもなるのだろう。日曜日なら、診察の受付をしていない病院も多くある筈だった。
「……それに、筆記試験や体力測定、反応速度のテストまでやった……」
 暗記力や暗算能力、それに、筋力、瞬発力、「合図を出してから、手を上げるまでの時間」まで、計測されたという。
「それは……」
 完全に……性能試験だ。
 荒野はそう思ったが、口に出してはこういった。
「……丸一日、かかるわけですね……」
「こいつらはゲーム感覚で、楽しそうだったがな……」
 三島はそういって、箸を使った。
 それで、帰りに、夕食の買い物がてら、ゲーセンによってクレーンゲームやプリクラをやってきた、という次第であるらしい。
「あとな、一つ、面白い事実が判明したぞ……」
 ノリの背が、一月前に計測した時より、五センチほど伸びている、という……。
 島から出て、野呂良太に一時期、預けられいた時も、三人は簡単な身体検査を頻繁に受けていた、という。
「……うん。
 ノリ、三人の中では一番チビだったけど、島を出てから、急に大きくなったよね」
 ガクとテンもそんなことをいって、頷きあう。
「荒野……ある時期、いきなり体が成長しははじめるのって……お前ら、加納の特性だったよな……」
 一月で五センチ……確かに、いくら成長期とはいっても……一般人としては異常な部類だろう……。
「ノリ……お前、寝ている時、ミシミシいう音、聞こえてくることないか?」
 念のため、荒野はそう確認してみる。
「……うん。そういう音、する……」
 ノリは、珍しく神妙な顔をして、荒野の質問に答えた。
「それ、おれもそうだったから……一月か二月後には……ノリが、三人の中で一番年上にみえるようになっている筈だ……」
 荒野も、ノリの不安を軽減するため、真面目な表情をつくって、そう頷いてみせる。
 その音は、急激に成長する時に、骨や関節部が軋む音だと、荒野は聞かされている。
「茅も……その音、聞いているの……」
 荒野の言葉の後から、茅もそうつけ加えた。
 今、この三人は……同じような年格好に、みえる……。
 しかし、ノリだけではなく、三人とも成長期で、外見の変化が激しい時期だ。時間が立つにつれて、三者三様の変化をみせていくのだろう……。
「……で、お前さんのほうはどうだったんだ?
 さっき、随分といろいろなことがあった、とか、いってたけど……」
 荒野は、三島にそう即されて、今日の出来事を朝から順に話しはじめる。
 未樹に車でこの部屋まで送って貰ったこと、までを話した時、荒野はふと思いたって、三人組に向き直る。
「……おい、お前ら。
 来週の土曜か日曜、空けておけよ。
 みんなで、髪を切りにいくからな……」
 と、宣言した。
 美容院どころか、店で髪を切ってもらった経験のない三人は、なにがなんだかわからないなりに、新鮮な体験ができるということは理解したらしく、わっと歓声をあげた。
『……そうだな……楓にも、声をかけてみるか……』
 楓も、荒野と同じく、この土地についてからこっち、髪を切りにいった様子がない……。
 一人きりで調髪に行くのを億劫に思っていた荒野にしてみれば、楓や三人は、いい道連れだった。
 もちろん、茅も誘っているのだが、こちらはいつもの通り、即座に断られた。茅は今の髪の長さが気に入っているらしく、普段の手入れの時に頻繁に自分で毛先を切り揃えている。
 それから、ショッピングセンターに自転車を取りにいった際、バイクにからまれたこと、商店街の帰りに、玉木と有働と合流して、その後、夕方までこの部屋で話し合った内容なども、かいつまんで話す。
「佐久間の主流が動き出したのかも……」
 という、荒野の疑惑には、好奇心の強い三島とテン以外に興味を示すものがいなかった。
 ガクとノリは、佐久間がどうの六主家がこうの……という話題は、どうもぴんと来ないようだし、茅は、相変わらず表情が読みにくいポーカーフェイスのままだ。
 三人の中でガクだけが、
「佐久間って、どういう事ができるの?」
 と、身を乗り出した。
 佐久間は六主家の中でも徹底した秘密主義の血族で、荒野にしてみても、握っている情報は極端に少ない。
 以前、三島や茅に話した「知力にすぐれ、洗脳や扇動、大衆操作を得意とする」くらいの概略と、「傀儡操りの佐久間」という異名、それに、この間の源吉のエピソードくらいしか、披露することができなかった。
「……そうか……」
 テンは感慨深げに、自分の手を握ったり開いたりして、自分の拳をみつめた。
「ボクの体質……その人達から来たのものなのか……。
 佐久間っていう人達がそういうことができるなら、ボクだって……」
「……まあ、長い年月をかけて習練すれば、不可能じゃないんだろうが……」
 荒野は、その後を引き取って、後を濁す。
 術理ばかりは……後天的な学習がものをいう。生まれつきの素養、ばかりでは、どうにもならないだろう。
「でも、この間、源吉が使った暗示なら、茅にも再現できるの……」
 茅がことなげにそういったので、その場にいた全員が、茅の顔をみつめた。
「……証拠。
 今から、このテーブルを、上に置いている料理ごと、知覚できないようにする……」
 茅がそういい終えるか終えないか、というタイミングで……。
 料理を盛った皿や茶碗が上に乗っていたテーブルは、荒野たちにとって見えない存在になった。それどころか、手をのばしてみてもなんの感触もなく、六人がぐるりと取り囲む椅子の真ん中に、唐突に「なにもない空間」が、ぽっかりと出現した。

[つづき]
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