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「髪長姫は最後に笑う。第五章(92)

第五章 「友と敵」(92)

「志しは、ありがたいけどな……」
 荒野は確かに、この少年には珍しく感激していた。が、だからといって、その感情に捕らわれて、判断を見誤ってはいけない、と、自戒する。
「正直……非常に、いいにくいんだが……冷静に、客観的に考えて……そこまでの影響力を……君たちが持てるとは、思えないんだ……」
 確かに、玉木と有働が主導する放送部は、学校の部活とは思えないほどの行動力を持っている、とは、思う。
 しかし、それはあくまで、「学校」という特殊な閉鎖社会の中では、という条件付きでの「破格」であり……その外部の一般社会にまで影響を及ぼすほどの存在ではない、と、荒野は見ている。
 そのことを荒野が丁寧に順を追って説明すると、有働と玉木は顔を見合わせて、頷きあった。
「……普通に考えれば、確かにそうなんですが……」
「カッコいい荒野君は、ひとつ忘れていることがあるよ……」
 有働の言葉を引き取る形で、玉木が断言する。
「今の世の中……可愛いが正義なのさ!」
 荒野の目が、点になった。
「年末、茅ちゃん、楓ちゃん、孫子ちゃんの三人で、年末あれだけの人を集められたの、まさか忘れたわけではないでしょう。それに加えて、今では将来有望なロリッ子が三人も加わっているんだよ! それも、今までの三人に負けず劣らずの上玉揃いが! 彼女らが定期的に商店街に人を集めてくれれば、少なくとも商店街の人達は、君達の味方さ!」
 ……なんてこった……。
 と、荒野は思った。
 経済的な環境の向上に貢献することにより、地元に足場を築く……。
 嫌々に、ではあるが……羽生譲に先導されて、今までやってきたこと、そのままではないか……。
 それを……今度は、荒野たちの長期的な利益のために、自主的自覚的に行え、と、言われているわけで……。
 荒野は、認めたくなかったが……確かに、効果はあるのだ。
 百の言葉を連ねてこちらの窮状を訴えたり、奇麗事を並べるよりも……確実に客足を呼び寄せてくれる招き猫になるほうが……地元には、ずっと、受けがいい筈であり……。
「それに加えて、パブリック・イメージ、というのもあります……」
 有働が、冷静に付け加える。
「普段から地元のために働いているけなげな美少女と、それを襲うとする、得体の知れない他所者……。
 応援したくなるのは、どちらだと思いますか?」
 有働の言葉は一見唐突なようだが……一族がらみの抗争が表面化した際、この地域住民の反応を予測しているのだと仮定すれば……頷けるものが、ある。
 有働は、こういっている。
 来るべき……荒野たちの異常性が周知のものとなる未来に備え、普段から、今以上に周辺に顔を売り、「いいイメージ」を与え続けろ、と……。
 それなりに理に適っているし……「周辺住民を味方にする」という目的にも沿っている……指摘されて見れば、確かに、これ以上はない妙手なのだが……。
『……おれ一人で考えていたんじゃあ、逆立ちしたって出てこない発想だよな……』
 荒野は、自分の考え方や視野が、いかに狭い枠内に捕らわれていたのか、そのことを思い知らされた気がした。
 荒野はそれまで、一族の中ではそれなりに柔軟な発想をするほうだと自認していたが……。
『でも……所詮……』
 それでも、まだまだ料簡が狭かったようだ。
 それまで荒野は……自分たちの正体をひた隠しにし、敵の襲来があれば、これを撃退する……ということくらいしか、考えてこなかった。
 が、一般人の、それも、年端もいかない有働と玉木は……その発想を軽く越えて、「正体がばれても支障がない環境を作り、そのうえで、攻撃してくるものがあれば、堂々と撃退しろ」と、いっている……。
「……年末のイベントはさぁ、それこそ、商店街の人達と羽生さんのお手製でしょ? それでも、あそこまでいったんだよね……。
 でも、今度は……放送部も、それにトクツー君の頭脳や設備も使えるんだよ! 囲碁勝負の実績を考えれば、ネットでの展開も万全だよね!
 メディアと技術力と資本が集中したら、例え君達の一族でも滅多に手が出せない環境が作れるって!」
 玉木が、テーブルの上を拳で叩かんばかりに興奮してまくしたてる。
 その熱気にあてられた、というわけではないが……荒野は、なんとなく楽観的な気分になってきた……。
「……そういわれると……なんか行けそうな気がするけど……。
 とにかく重要なことだから、もうちょっと考えさせてな……」
 荒野はようやく、それだけの言葉を絞り出す。
 今ここにはいない茅の意見を、しきりに聞いてみたくなった。
 実は、考えるまでもなかった。
 今までの経緯からしても……楓と孫子、それに、荒野と茅の顔は、商店街と学校を中心にして、既にある程度知れ渡っている。
 この先……荒野たちの異常性が知れ渡る可能性が有る限り……その知名度を、プラスの方向性に変換するよう、努めるよりほかないのだ。
『市民に愛される忍、を、目指せ……だって?』
 悪い冗談だ、と、荒野は思った。
 半年前の荒野なら、躊躇なく笑い飛ばしたろう。
 でも……今では、気軽に笑い飛ばせない。正体がばれれば、また新しい土地で一からやり直す……というのよりは、よほど、魅力的だった。
 魅力的であるからこそ、荒野は抵抗を感じている。

 効果的なのは理解できたが……それは……それまで荒野の、一族の一員としてのアイデンティティを、根底から否定するアイデア、でもあった。

 そんなことを話している間に食事も終わり、
「まだ食えるか? 食えるなら、ケーキ出すけど……」
 と、荒野が誘う。甘い物に対する食い意地が張った連中が多いので、ケーキは多めに二十個ほど買って来ている。
 玉木も有働も断らなかったので、荒野はマンドゴドラのロゴがはいった包装紙を剥ぎ取り、ケーキを取り出した。それから不意に同じマンションに住む飯島舞花のことを思い出し、
「……ついでだし、声をかけてやるか……」
 と、携帯を手に取る。
 ちょうど暇だったのか、呼び出し音ひとつで舞花は電話に出た。
「玉木と有働が来ているから、一緒にケーキを食べないか」
 と誘うと、
『ああ。ごめん。もう少ししたら、うちにお客さん来る予定なんだ!』
 と即座に断られる。
「お客さん? 栗田君もいっしょでいいぞ」
 荒野が重ねて誘うと、
『セイッチは、家ではお客さん扱いしないなぁ……。
 もう一人、来客の予定があるんだ……』
 舞花は、この少女には珍しく、言葉を濁した。
「……そうか。
 じゃあ、一度こっちに来て、ケーキだけでも持って行け。どうせ余っているんだ……」
 荒野が深く追求せずにそういうと、舞花は、
『うん。そうさせて貰う。今すぐ、取りに行くから……』
 といって、通話を切った。

 三分もしないうちに舞花は荒野たちの部屋にやって来て、
「……おにいさんと、有働君と、玉木、かぁ……。
 なかなか面白い組み合わせだな……」
 と感心し、荒野が取り分けた三人分のケーキの小皿をお盆に乗せてラップしたものを持って、すぐに背を向けた。
 慌てていた、というわけではないが、いつもとは違い、舞花の様子には、どことなく落ちつきがなかった。
 そのことをいぶかしく思いながら、荒野はその背中を見送った。

[つづき]
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