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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(97)

第五章 「友と敵」(97)

 三人と三島百合香が部屋を出て行くと、急に静かになった気がした。
『……これで……』
 この週末はなんだかんだと忙しなく、荒野にとっては、たかだか二日間とは思えないほど長く感じた。
『……明日からは、また学校に通うんだよなぁ……』
 潜伏先での一般人としての仮の日常生活と一族の一員としての生活、その往還時にギャップを感じるのは、いつものことだ。
 が、ここのところ……より正確にいうのなら、玉木と有働の二人に、自分たちの正体のことを明かしてからこっち、荒野はそうした自分の二面性に対して、以前よりも多くの疲労を感じるようになってきている。
「荒野……」
 いつの間にか茅がやってきて、ことり、と、荒野の前にティーカップを置いてくれた。
「……疲れている?」
 そういって、首を傾げる。
「……んー……」
 荒野は、もう一人の狩野香也のようなうなり声を上げた。
「……ちょっと、ね……」
 荒野のその言葉を聞くと、茅はとことこと荒野の背後に回り、荒野の肩に小さな手を置いて揉みはじめた。
「荒野……気持ち、いい?」
 茅がそう尋ねる。予想したよりも、握力があった。
「……うぅん……」
 思わず、荒野は、鼻にかかった声で返事をしてしまう。
「気持ち、いい……。
どこで覚えたんだ、こんなこと……」
「先生。
 今日、車、運転してあちこちに引きずり回されたから疲れた。肩揉め、っていわれたの……」
「……そうかそうか」
 三島には後で、軽く焼きを入れておこう、と荒野はそのことを記憶にとどめる。
「ああ……。
 でも、気持ちいいな……この、マッサージ……」
 なんだか年寄りくさいことをいいはじめる荒野。
「肩が凝る、という言い方、日本語にしかないの」
 手を休めずに、茅は、そんなことを言いはじめる。
「夏目漱石が初出。彼の独創的な表現が、慣用句になったの。
 だから、海外の語彙には、このような言い回しはないの……」
「……そういや、マッサージはどこにでもあるけど……肩を重要視する、っていう文化圏も、あんまりないような……」
「荒野……凝ってる……堅い……」
 ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ、と、茅は力を込めて、荒野の肩の肉を握る。
 ……少し、痛くなってきた。
「茅……もう、いいよ。ありがとう。だいぶ楽になった。
 なんだか疲れたから、風呂にでも入って、今日は早めに寝よう……」
 荒野はそういって、茅の手を優しく手を払って、立ち上がる。そのまま、風呂場に行こうとする荒野の裾を、茅が掴んだ。
「お風呂、湧いているの。
 一緒に入るの」
 そういって茅は、荒野の背中に抱きついた。
「久しぶり……荒野の匂い……」
「あー……」
 荒野は人差し指でポリポリとこめかみのあたりを掻いた。
 そういえば……ここ二、三日はバタバタしてて、二人きりになれる時間が、極端に少なかったような……。
「ひょっとして……。
 茅……寂しかった?」
 いいながら、荒野は、頬が熱くなっていくのを感じる。
 午前中、未樹にいろいろと言われたから、というのも多少はあったが……それ以上に、「異性」を意識する、ということに、荒野はなれていない。
 相手が、普段から一緒に寝起きしている茅だとしたら……なおさら、改めてこういう雰囲気になるのが、照れくさかった。
「……んっ……」
 茅は、否定とも肯定とも解釈できる一音節の音を喉の奥から発し、荒野の背に顔を埋めたまま、ずりずりと荒野の体を風呂場のほうに押していく。
 荒野も、特に逆らいもせず、茅に押されるまま、脱衣所に入った。

「……お、おい……」
 脱衣所に入ると、茅が荒野の服に手をかけて脱がしだしたので、荒野は慌てた。
「そんなの、一人でできるって……」
 当たり前である。
「駄目なの。荒野、お疲れ。茅がお世話するの……」
 荒野の上半身が下着一枚になると、茅は、再度抱きついて、荒野の胸に頬を密着して、深々と息を吸った。
「……それで、こうやって、荒野の体中に、茅の匂いをつけるの……」
 ……マーキングかよ……と、荒野は心の中でつっこんだ。
「茅……ひょっとして……未樹さんのこととか、ガクがいってたこと、気にしているのか?」
「……それも少しはあるけど……」
 茅は目を閉じて、荒野の胸板にすりすり頬を擦りつけている。
「そんなことより、茅がテーブルを消しても、荒野だけが驚かなかった。茅を、怖がっていなかった……。
 だから嬉しくて、感謝のご奉仕なの……」
『……驚かなかったわけでは、ないんだが……』
 茅がなにかしゃべる度に、胸板に茅の吐息があたって、とってもくすぐったい……。
「……今までのことから考えても、茅ならあれくらいのことはやりかねないかなぁ、とか思ったし……」
「でも、いいの……」
 茅は、荒野の胴体に廻した腕に、力を込めた。
「荒野……茅と一緒に暮らすために、いろいろなことを考えて、苦労している。
 玉木や有働の話しを聞いたのだって、一緒に暮らしている状況を作るため……そのために疲れているんだから、茅が、サービスするの……」
 茅なりの、感謝の印……らしい。
 と、荒野は無理に自分自身を納得させた。

[つづき]
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