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彼女はくノ一! 第五話 (56)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(56)

 今まで観察してきて、楓と香也の関係は、何か自然すぎてかえって不自然な印象を、孫子は抱いている。楓が、時間の許す限り香也の後をつけて回るのはまだしも理解できるのだが、そのことを嫌がりも喜びもせず、淡々と受け止めて、平然と自分のペースを崩さないでいられる香也の心境というのは、孫子には理解できない。
 特に孫子の場合、二人との出会い方が出会い方であったため、あのような光景を見せた後、どうして二人が今のような「仲の良い、しかし、実質は単なる同居人同士」として振る舞い続けることが出来るのか、その心理は想像しかねた。
 楓も香也も、ともに性格的には単純な単純素朴な部類になる。偽装や誤魔化すために、普段から表面的な態度を取り繕っている、という器用な真似が出来るわけもない、と、孫子は観測していた。
 つまり、二人の関係は見た目のとおり、「四六時中そばにいられてもお互いに邪魔に感じない」関係であり、しかも、恋人同士、とはいい兼ねるものの、その距離は、すっごく近しい……。
 そんな二人の様子をみていると、何故か自分が入り込む隙がないような気がして、少し前から孫子もプレハブに入り浸るようになっている。
 孫子に場合は、楓ほど無為な時間を過ごすことに耐性がないので、椅子と本くらいは持ち込むことになるが……そうしてプレハブ入って一緒に過ごしていても、楓も香也も、孫子の存在に関して少しも興味を示す様子がないので、孫子としては極めて歯ごたえがない状態が恒常的になっている……。

 と、いうのが、孫子の視点からみた、現在の、孫子と香也と楓の関係だ。
 よくある三角関係、というのには、あまりにも香也の、他の二人への感心が薄すぎる。加えて、香也と楓の間の空気が、あまりにものほほんとして平穏すぎるのも、孫子には気にくわない。孫子自身が香也のそばにいても、楓にまるで警戒されてない、という現状も、それはそれで張り合がないのであった。

 つまるところ、孫子の三人の関係に対する不満点は、「目下の所、安定しすぎている……」というただ一点に絞られるのかも知れない。
 負けず嫌いで、自分でたてた目標をクリアすることを今までの目標としてきた孫子は、ここにきて……明確な「勝利条件」を、はっきりと決めかねている。

 シルヴィ・姉もいうように、無理矢理にでも香也と関係してしまえば、楓に気後れしなくてすむのか? その後、力づくでも楓や他の女たちを香也から遠ざければ安心できるのか? そんなことで……果たして、香也が、今まで以上の関心を……孫子に、示してくれるのか……。
 現在の、穏やかすぎる関係が決して嫌いではないだけに、どうしても従来の孫子のような強引な手段に訴えることに、孫子は、躊躇いを覚えてしまうのだった。

 孫子自身は……それまで孫子が明確に意識してこなかった「他者との関係性」について、自覚的に気にかけはじめた最初の事例であることを、まだ自覚していない。

 そんなわけで、食事後、例によって一時間前後香也の勉強を楓と二人で見た後、三人は寝るまでの時間、庭のプレハブで過ごすことになる。
 順番に風呂に入りにいったりする以外は三人で過ごすその時間は、いつものように時間までがゆっくりと過ぎているような気がした……。

 今日は珍しく、ほぼ一日中香也のそばにいられた……と、楓は思った。
 週末や休日に茅の護衛役から外されることは珍しいことではなかったが、あの三人までが揃って外出してくれたため、狩野家の中は一日ひっそりとしており、おかげで香也は、ほぼ一日中キャンバスに向かうことが出来た。
 香也の背中を見ながら、
『香也様……こうしてみると、意外に、体力と集中力がある……』
 と、思ってしまう。
 もちろん、楓や孫子などとは、比べるまでもないのだが……それでも、事情が許せばいくらでも絵を描いていられる……というのは、やはり、それなりにスタミナがある証拠だと思う……。
 普段、体を動かす習慣がないから、筋力も瞬発力もないが……プールにいった時、堺雅史などの同級生たちと比較しても、香也の体つきは、十分に成熟した「男の体」だった。
 香也の上半身を思い出し、その意外な逞しさに思い当たると、楓はなぜか照れくさくなり、一人赤面をする。
 幸い、香也は楓に背を向けて描きかけの絵に集中しているし、孫子は、風呂に入っている。
 珍しいことでもなかったが、二人きり、だった。
『なんで……香也様の裸なんて、見慣れているのに……』
 楓は、香也の裸体を見ているだけではなく、抱き合ったりもっと抜き差しならない関係になったこともあるのだが……何故か、この間のプールでの香也、それに翌朝、筋肉痛になった香也をマッサージした時の感触……と、次々と香也の体に関する記憶を連想していってしまい、「今、二人きりであること」を異常に意識して、ひとりで照れている。
 そっと椅子から立ち上がり、香也の絵を覗き込む振りをして、香也の背中にそっと体を近づける。
 絵に集中している香也は、背後から楓が近づいてきたことに、気づいてもいない。楓が香也の背中に覆い被さるような感じで身を乗り出し、楓の吐息が香也の耳にかかるような距離になっても、まだ気づかない。
 楓は、香也の体温が感じられるような錯覚さえ覚えるほどに身を寄せながら、香也の肩に抱きついたい衝動と戦っている。
 基本的に、楓も、香也の創作活動の邪魔はしたくないと思っている。
 楓が、じりじりと身内から湧いてくる衝動と戦っていると、プレハブの入り口がガラガラ音をたてて開き、どかどかと人影が入ってきた。
 楓は、安心したような残念なような、複雑な気持ちで慌ててぴょこんと後ろに一歩跳び下がり、香也と距離を空ける。
「……今、いい……かな?」
 遠慮がちなのは、先頭に立っていたノリだけで、後のテンとガクは遠慮なく中に入ってきて、プレハブの中を珍しそうに物色しはじめる。
「お兄ちゃんが、絵を描いているところ、みたくて……」
 もじもじと恥ずかしそうに身をくねられながら、ノリはそういった。後の二人は、なんとなくノリの後についてきたらしい。
「……んー……。
 いいけど……」
 と、香也は例によって興味なさそうに呟き、すぐに視線をノリから外して、元通りに、また自分の絵に向き直った。
「……ここにいる時は、静かにするのです……」
 楓は、そういう自分の声が、かなり不機嫌に響いていることを自覚した。

 ノリは、プレハブの隅にあったパイプ椅子を持ってきて、香也の隣に陣取り、慣れた手つきで安物のアクリル絵の具をキャンバスに塗りたぐる香也の手元を、真剣に見つめている。
 当初こそ、それなりに神妙にしていたガクとテンの二人は、すぐに大人しくしていることに耐えられなくなり、二人でじゃれ合いはじめたので、早々に楓にプレハブから追い出されることになる。
 ガクとテンと入れ違いに、風呂上がりの孫子がプレハブに戻ってきた。

[つづき]
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