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彼女はくノ一! 第五話 (57)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(57)

「……んー……。
 だから、遠近法というのは……」
 香也はそういってスケッチブックに数本の線を、しゃ、しゃ、と放射状に描いてみせる。
「同じ大きさの物でも、遠くにあれば小さく見える」
 線の一本の、奥の方に、記号のほうな簡単な人影をひとつ、ぽつんと描く。
「……近くにあれば、大きく見える……」
 次に、線にそって、奥に描いた人影と相似形のものを、幾つか描き加える。
 手前に来るごとに、人影は大きくなる。
「……ごくごく簡単にいうと、そういう技法……。
 詳しいことを言うと、その他に色彩関係の技法とか、なんかもいろいろあるんだけど……。
 ノリちゃんが見たエッシャーの騙し絵は、そういうのを利用してうまく錯覚させるように描いているわけで……」
 ノリは香也の説明を聞きながら、うんうんと頷いている。
「だんだん解ってきた。
 絵、って、いろいろな手法が複雑に入り交じってできているんだ……。
 すごいな……」
「……んー……。
 すごいかどうかは……現代では、手法についてはほぼ出尽くして、主題や文脈が重要視されている流れもあるわけだけど……」
 香也も、自分の得意な分野になると、それなりに多弁であった。
「でも……楽しみで描くのなら、好きなように描けばいい、と、思う……。
 みんな子供のころは、技法とかそんなの関係なしに、好きに描くものだし……」
 自分のために描くのなら、落書きでいいんだよ……と、香也はいう。
「……ボク……島では、そういう、全然ことやったことがなかったから……」
 ノリは俯いて、そういった。
「じっちゃん……そういうの、全然教えてくれなかったし……。
 島を出るまで、印刷された絵やイラストしかみてなかった。
 ……そういうの、写真と同じように、専門の機械でがーっと作るもんだと……人の手で描くものだとは、全然思ってなかった……」
 香也はため息をついた。
 普段は全然意識していないが……こうして話していると……ノリたちが、極端、かつ、特殊な環境で育てられた事を、思い知らされる……。

 香也は、
「……んー……」
 と頭をかきながら唸り声をあげ、プレハブの隅にある段ボールの中から、スケッチブックを何冊かとりだし、スチールに置いてある鉛筆数本と一緒にして、ノリに手渡す。
「これ、自由に使っていいから、好きな時に、好きなように、描いてみて……。
 で、分からないことがあったら、何でも聞いて……。
 こういうのは、習うより慣れろ、だから……」
「……いいの? これ……」
 ノリは、手渡されたスケッチブックと香也の顔の間で、めぐるましく視線を往還させる。
「いいから。たいして、高いものじゃないし……」
 スケッチブックは、羽生譲が紙問屋みたいなところに直接掛け合って、五十冊とか百冊単位でまとめ買いしてくる。狩野家ではそれだけ消費量がある、ということだが、いずれにせよ、そのまとめ買いのおかげで、単価はたかが知れたものになっている。樋口明日樹にもお裾分けしているぐらいで、ノリに渡すことも、別に躊躇う理由はなかった。

 ノリと香也のそんなやり取りを少し離れた場所で見ていた楓と孫子は……普段は感じない、そことはない疎外感を味わっていた。

 ……この二人の間に、入り込む余地は、ないような……。

 ノリがスケッチブックの束と2Bの鉛筆、数本を大事そうに抱えてプレハブを出て行くと、楓と孫子は、期せずして同時に安堵のため息をついた。
 同時に顔を上げ、隣で同じようなため息をついていた人間の存在に初めて気づき、困惑と気まずさが入り交じった複雑な表情で、楓と孫子は顔を見合わせる。

 香也のほうは、背後で楓と孫子がそうした無言のコミュニケーションを交わしていることにも気づかず、淡々と自分の絵に向き直っていた。
 香也にとってその日は、久々に自分の創作活動に専念できた、静かで充実した休日だった。

 翌朝、いつものようにマンション前に集まった面子の中で、茅と飯島舞花がいつもにも増して顔色が良いことに香也は気づいたが、そのことについては、特になにもコメントしなかった。その二人が妙に上機嫌であるのに対し、栗田精一と加納荒野の顔色が若干青ざめていたような気もしたが、これも、気のせいに違いない、と、香也は思った。
「……なぁなぁ、孫子ちゃん……昨日のやつ……」
「……いえ……聞いてみますけど……」
「そかぁ……まあ、また分けてもらえると……」
 その上機嫌の舞花は、孫子だけを隅の方に引っ張って行って、こそこそ内緒話をはじめた。
 二人きりでの内緒話し、というのが、舞花にしては、とても珍しい。
 切れ切れに漏れ聞こえてくる声を聞いても、話の内容は理解できない。
 ただし、二人でこそこそ話しはじめたのを見た栗田精一の顔色が一層青ざめたように見えるのは……香也の錯覚、だったのだろうか?

 いずれにしろ、いつもの面子は三人組に見送られるようにして登校する。途中で玉木珠美も合流し、賑やかに一同に挨拶してから、荒野の腕をひっぱって、ごそごそ二人だけで声を潜めて話し始める。
「……例の件……まずは、バレンタイン……」
「おれはいいけど……才賀と直接……それと、学校側への……」
「……そっか……バイト、とかは大ぴらには……」
「ああ。年末のあれも、顔合わせの時にきっちりと絞られたぞ……」
「……うーん……そっちの予防線も……」
「一回、二回、ならともかく……長期的に展開するとなると対策は……」
「……そだね……有働君とも相談……」
「ああ。学校については、お前らのが……」
 飯島舞花とは違った意味で、玉木珠美の内緒話というのもひどく珍しいように香也は思ったが……これについても、特に声にだしてコメントはしなかった。

 学校に到着し、下駄箱のあるエントランスに来ると、柏あんなと境雅史の二人とばったり出くわした。
 下駄箱は全学年の分が一カ所に集まっているので、タイミングさえ合えば、こうして鉢合わせになることも十分にありえる。今までも、この二人と香也たちの一団が、朝、ここで顔を合わせたことは何度かあったのだが……従来は軽く挨拶するだけだったのに対し、この朝に限って、柏あんなは俯き、堺雅史は視線を宙にさまよわせ、どちらも顔を赤くして、ごもごもと小さな、聞き取れないような声で挨拶らしき言葉を不明瞭に発音した。
 明白に、挙動不審だった。
 香也たちの一団の中の誰かと、まともに目があわせずらい事情とかがあるのだろうか?
 ……と、香也は思ったが、やはりなにもコメントはしなかった。

 香也たちの一団の中から、ずい、と、一人、飯島舞花が歩み出て、柏あんなの前に仁王立ちになる。
 柏あんなが顔をあげ、飯島舞花の顔をまともに見据える。
 しばしの間。
「六回!」
「七回!」
 と同時に叫び、舞花が勝ち誇ったように顔を輝かせ、あんなは悄然とうなだれた。
 後ろの方で孫子が、
「……効果は絶大……」
 とか呟いていたのが耳に入ったが、意味が分からなかったので香也はやはりコメントしなかった。
 荒野は、
「……朝っぱらから、学校で、堂々とそんなこといいあうなよ……」
 と舞花に向かってぼやいた。
 視線を転じると、栗田精一が、樋口大樹に「この、この、この」とといいながら、ヘッドロックをかけられている。
 柏あんなは、堺雅史の手を引いて、そそくさとその場から立ち去った。

[つづき]
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