第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(59)
到着したばかりの携帯電話をひとしきり弄ると、それなりにいい時間が過ぎていた。テンは、今日の夕方から、徳川篤朗の工場に通うことを約束しており、工場周辺の地図もメールで知らされていた。また、初日、ということもあり、今日だけは三人で一緒に行く約束をしていた。
三人は、家具がなくがらんとした自分たちの部屋にいったん戻る。
テンは、そこの隅にある、ぬいぐるみが満載された段ボール箱から、DVD-Rのドライブを取り出して、パーカーのポケットに入れた。
そのディスクには、テンが夜の空き時間を利用して羽生譲のパソコンで製作した、CADデータを焼いている。データの内容は、三人の予備の六節棍の三面図と、孫子のライフルの部品を漏らさず書き起こしたもので、内容の正確さについて、テンはかなりの自信を持っていたが、この内容や精度如何によっては、篤朗の、テンに対する扱いも変わってくる……ということも、十分に予測できた。
だから、今までにテンは、何度も細かい部分をチェックして、今日に備えていた。
「……行こうか」
その割りには、特に気負った風もなく、テンは他の二人の仲間にそういい、玄関を出て、三人で気配を絶って、全力疾走で、篤朗の工場を目指した。
メールに添付された地図をプリントアウトしたものを広げ、住所を確認した後、テンは、インターフォンの呼び鈴を押した。
しばらく待つと、作業着姿の中年男が顔を出して、
「来た来た。
トクから話しは聞いているよ。さ、入った入った……」
とにこやかに出迎えてくれた。
「……しかし、聞いていた通り、三人が三人とも別嬪さんだな……最近のトクの回りは、一体どうなっているんだか……」
とかいいながら、その仲元とか名乗ったおじさんは三人をフォークリフトのアームに乗せて、工場の奥の方にある篤朗の事務所にまで案内してくれた。
三人は、そのおじさんのいう「べっぴんさん」の意味が分からなかったのでこれといった反応はせず、それよりも、フォークリフトのアームに乗る、という得難い体験や、それに、工場内に放置されている、前衛彫刻のような奇怪な形状をしている金属片のほうに、興味を持った。
そのおじさんは、
「トクのやつは、すぐに帰ってくるはずだから、それまでその中で待っていてくれ……」
といって、プレハブの中に案内してくれた。
プレハブ、とはいっても、香也がアトリエとして使用しているような安普請のものではなく、中は普通に清潔な事務用品や応接セットが配置されており、その仲元さんがリモコンで起動してくれたエアコンもいくらもしないうちに室温を快適な状態にしてくれた。
聞いていた通り、金回りは、かなりいいらしい……という意味を込めて、三人は顔を見合わせた。
すぐに篤朗からテンに電話があり、「保育園に浅黄を迎えにいってから、そちらに向かうのだ」といわれた。篤朗は、冷蔵庫にあるものをなんでも飲食してよい、と、不必要に尊大な言い回しでいってくれた。
そこ言葉に甘えて、冷蔵庫にあったペットボトルからジュースを取り出し、流しにあったグラスに注いで三人で飲んでいると、連絡から二十分くらいしてから、浅黄の手を引いた篤朗が姿を現わした。
浅黄は保育園のスモッグに黄色いカバンと帽子、篤朗は香也たちと同じ制服の上に白衣姿で、例によってあの太った黒猫を頭に乗せていた。その黒猫は、どうやら目を閉じて寝ているらしかったが、それでも器用なことに、篤朗がいくら動いても、頭の上から落ちる、ということがなかった。
「ん? 今日は三人揃っているのか?」
開口一番、篤朗はそう切り出した。
「ここで働くのは、ボクだけ。
他の二人は暇だからついてきたんだ……。
それから、これ……」
テンは、応接セットのソファから素早く起き上がって、篤朗の目の前に持参したDVD-Rのディスクを差し出す。
「……この中に、ボクがここで初めて作るものの設計図……CADデータが入っている。ちょっと、確かめてみて……」
「……拝見させていただこう……」
テンの視線は闘志をたたえており、それを受け止めた篤朗も、不適な面構えになっている。
篤朗は、テンの作成したデータのうち、構造が単純で、採寸の正確さを判断しやすい、という理由で、六節棍のデータを先に検分した。
三人とも、六節棍は折り畳んで肌身離さず持ち歩いている。
だから、テンのデータと実物を比較すること自体、なんら問題なかったのだが……。
「……でも、これ、今持っているのとは微妙に変えてあるんだけど……」
テンはそう説明する。
「では、なぜ、そのような変更を行ったのか、今この場で、説明するのだ……」
篤朗は、ノートパソコンの画面を覗きこみながら、ことなげにそういう。
「……ええと……」
テンも篤朗と顔を並べるようにして画面を覗きこみながら、即されるままに説明し始めた。
「……まず、今画面に出ているのは、ガクの分なんだけど、ガク、三人の中では一番力持ちで、いつも六節棍が軽すぎる、って、いっている。
もともと、ボクらの体格に合わせて誂えたものだけど、ボクら、成長期だし、身長や体重だけではなく、その他のパラメータも軒並み上昇中だから、それを生かしきるすためには、持ち物のほうも、ボクらの性格に合わせてどんどんアレンジしていかなければならない……。
ガクの場合は、力が強い訳だから、両端だけ少し重い材質に換える。
ノリの場合、今どんどん背が伸びているところだから、それに合わせて、棍ももっと長くする……」
「その……ガクのだが……両端だけを重い材質に換えるのは、何故なのだ?」
「全部、均一に重くしちゃうと、今度は重くなりすぎ。
持っているだけならそれでいいけど、実際に奮う時に、体が泳いじゃう」
テンはガクのほうを指さして、篤朗の注意を促す。
ガクの体格は、小学生高学年の児童相応だった。
「ノリは、身長も体重も、目下増加中だけど……」
ここで、ノリがテンの後頭部を無言のまま、はたいた。
「体重も目下増加中」という言い回しに反応したらしい。
「……ガクとボクは、今んところ、そんなに急激に重くなったりしてないから……いくら力が強くても、体重が変わらなければ、重いものを振り回せば、遠心力に動きを制限されちゃう訳で……」
「……で、両端だけを、チタン製に換える、かね……。
確かに、グラスファイバーよりは、チタンの方が重いし硬いが……それにしても、もっと頑丈な材質の方がよくはないかね?」
その手の知識に疎い篤朗としては、武器として使用するのなら、もっとどっしりとした重金属のほうがしっくりくるのでは……と、思ってしまう。
硬くて重い材質の方が、なんか、頼りになりそうだ、と……。
「棍なんて、どうせ、消耗品だよ……。
それに、軽いものでも十分な加速度が乗れば、相応な破壊力を産む。
問題なのは、重さよりも速度だよ。特に、持って振り回すタイプの武器は、長時間扱ってもあまり疲労しない重量で、なおかつ、ぶつかった時の衝撃で壊れにくい、という特性が必要で……しなやかで衝撃を逃がしやすい、グラスファイバーを少し壊れにくくしたくらいで、ちょうどいいんだ……。
あんまり重く作っちゃうと、かえって、邪魔になる……」
テンは、遠回しに、たかだかグラスファイバーでも、熟練者が扱えば、かなりの破壊力を産む、といっている。
「……ああ、もう!」
なかなか納得しようとしない篤朗に業を煮やしたテンは、そう叫んだ。
「いいよ!
今から実例、みせる!
ノリ、テン、手伝って! これから篤朗に、ボク達の腕をみせる!
百聞は一見にしかずだ!」
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つづき]
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