第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(60)
六節棍、というからには、節が六つある訳で、その六つの節で連結されるている棒状の本体は全部で七つ、ある。三人が使う物の場合、その棒一本の長さは二十五センチ、すべてを連結して一本の棒にした場合の全長は百八十センチ弱になる。
三人の身長よりも長い得物を、三人は縦横に振り回す。三人の力と速度で振えば、軽いグラスファイバーの棒も、十分な凶器になる。
篤朗と一緒にその演舞をみていた浅黄は、「おさるさんみたいー」と喜んで手を叩いていた。
……孫悟空みたい、と、いいたかったらしい。
『……とりあえず、棍の基本的な使い方を見せておくか……』
そう思ったテンは、一通りの型を演じてみせた。
突く、薙ぐ、払う……などといった、棒術と共通の基本的な動作に加え、関節を外した状態での変則的な型まで、一通り、やってみせる。
初めてみる篤朗や浅黄たちのため、一部、あるいは全部の関節を外すところを、ゆっくりと実演して見せる。通常は、「棒」から「棍」への移行も、どこでそれを切り替えるのか、というのも、実戦の場での駆け引きである訳だから、ことさらに見せることはない。
それでも、ノリが全ての関節を外した状態で六節棍を振うと、細いワイヤーで連結された短い棒はまるで生き物のように蠢く。その動きは、素人の篤朗や浅黄の眼にはあまりにもめぐるましく、かつ、変幻自在にみえた。
六節棍は、ノリの身体の回りを、生き物のようにくねりながら、蠢く。テンの回りをヘビが這っているようにも、みえたが……その各部が、不意に跳ね起き、払い、突く……。
浅黄はマジックショーかなにかのように思いながら、手を叩いて無邪気に観ていたが、篤朗のほうは、
『……近接戦闘用の……武器……なのだな……』
という三人にしてみれば当たり前の事実を、改めて実感した。
火器が発達した現代で、どれほどの価値があるのか……という部分は疑問に思ったが……これほど、先の動きが読みにくい武器も、珍しい……敵対する者にとっては、これは、とてもイヤな武器なのではなか……と、篤朗は思った。
しかし……いくら速度が乗っていても、素材は所詮グラスファイバー。当たったとしても、ダメージは、たかが知れている……というのが、技術屋である篤朗の予測である。
「ねぇ……この辺にある金属、全部廃材なの?」
テンは、そんな篤朗の予測をすべて見透かした上で、あえて鷹揚にそう尋ねた。
「ああ……。
試料として使うのも多いが……製品ではないから、形は、崩してもかまわないのだ……」
テンは、篤朗の答えを聞いて頷くと、
「……適当な大きさのを、投げて……」
と、傍らのノリとガクに告げる。
テンの意図を察したノリとガクが、人の頭大のいびつな形状の金属片を見つけて来て軽々と両手で掲げ、ほぼ同時に放り投げる。
次の瞬間、テンがどういう動きをしたのか、篤朗には動きが早すぎて見えなかった。
しかし、「……ひゅっ……ひゅっ……」という軽やかな音がした後、放り投げられた金属の固まりが地面に落ちる衝撃は感じず……代わりに、テンの肩に、天秤棒のように方にかつがれた、棒の両端に……ごつい金属の固まりが、二つ、ぶら下がっていた。
テン自身の頭部より大きな金属片を両端にぶら下げた棒は、重さによって弓なりにしなっている。
篤朗があわてて近寄ると、棒の両端は、どちらも、金属片を完全に貫通していた……。
「今の……空中で……貫いた、ということなのかね?」
「うん。
横に薙ぐ時は、こんな大きな力には、棍のほうが耐えられないけど……。
突きの場合は、力が一点に集中する形だし、衝突時の加速度さえ確保出来れば、質量比による不利をカバー出来るから、この程度のことは、できるんだ……」
そういってテンが、肩にかついだ棒を少し傾けて見せると、棒に貫通された金属片が、どごん、がごん、といかにも重そうな音を立てて、地面に激突した。
「……この程度のことなら、みんなできるよ……。
というより、三人の中で、一番弱いのが、ボクなんじゃないかな?
ガクは力持ちだし、ノリは速いし……」
結局、篤朗は、テンが望む素材を自由に使わせることを、約束した。
彼らが……テンがいうとおりの、各人の特性に合わせてしつらえた武器を手にしたら……いったい、どれほどのことが可能になるのか、篤朗自身が、実地にみてみたい……と、思いはじめている。
興味がある事柄については、とことん突き詰めて検証せねば気が済まない性分を、徳川篤朗は持っていた。
そうした、六節棍関係の打ち合わせをしただけで、テンの工場勤務一日目は終了した。テンが持参したもう一つのデータ、孫子のライフルに関する諸データは、テンたちが帰ってから篤朗が検証作業を行う、ということだった。
帰ろうとするテンに、篤朗は一台のノートパソコンを渡す。
「当面、これを使うのだ。君専用なのだ……。
ぼくが少し前まで使っていたもので、必要なデータは揃っている筈だが……」
「……いいの?」
テンは、目をしばたいた。
「優秀な人材を確保するためのエサだから、遠慮することはないのだ……。
そうだ。メアドはもっているのかね?」
「……携帯の、なら、とりあえずあるけど……」
それだって、今日取得したばかりだ。
「……とりあえずは、それでいいか……。
フリーでもなんでもいいから、できるだけ早めに……うん。なるべく、メールサーバが大きい物のほうがいいな……。
とにかく、取得しておくように。
最初のうちはこっちに通うのも仕方がないが、そのうち、自宅で出来る仕事は自宅でしてもらうようになるのだ……」
「は! はい!」
テンは、大きな声で返事をした。
「お願いします!」
「……それから、これは……才賀君の、ライフルのデータなのだがな……」
篤朗はテンが今日、持参したディスクを返す。中のデータは、コピーした、ということなのだろう。
「……もし君らがこれを使うとしたら、これをどのように改良するのか……今度来る時まで……それを、具体的なプランとして形にして来るのだ……」
篤朗は、「いつでも歓迎する」とはいったが、次はいつに来るように、というように具体的な日時は指定しなかった。
具体的な日時を指定してこなかった、ということは……孫子のライフルの改良案が具体的な形になるまでは、工場にくるな……ということだろう……と、テンは、受け止める。その改良案までが、篤朗によるテンへの試験なのだ、と。
正確な寸法や重量の計測、あるいは、記憶力のよさ、などというテン生来の性質は、機械で替えが効く。篤朗は、それらの土台を生かしたうえで、テンが、どのような発想をしてくるのかを、期待している……。
篤朗の言葉を、テンはそにように解釈した。
篤朗は、テンができるだけ自由に動けるように気を払ってくれれるが……同時に、とても厳しい面もある……という印象を、テンは受けた。
家に帰ると、すでに夕食の準備が整っている時刻だった。食卓には、真里、香也、羽生、楓、孫子などの狩野家の人々が揃っているばかりではなく、荒野と茅の姿もみえた。
三人が居間に姿をみせると、荒野は開口一番、こういった。
「昨日言った美容院のことな。
週末っていったが、向うさんの申し出で、木曜日の夕方からになった……。
いろいろ話しているうちに、なんだか話しが大きくなってきちゃって……どううわけだか、おれら全員で、カットモデルやることになっちまった……」
そういう荒野の顔には、見事なまでに生気が欠けている。
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つづき]
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