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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(101)

第五章 「友と敵」(101)

 月曜日。
 週末にどんなことがあろうとも、この曜日になれば以前と変わらない平々凡々たる学生生活を送るため、荒野たちも一学生として登校しなければならない。
 いつものようにマンションの前あたりで適当に集合し、適当に談笑しながらぞろぞろと学校に向かう。

「……バレンタインの売り出しに協力、も、いいけどよ……」
 登校時、合流してきた玉木に、荒野はそういった。
 途中から玉木珠美が合流するのも、もはや恒例になっている。
「……学校側にはどう説明するんだ?
 年末のあれも、顔合わせの時、こってり絞られたぞ……」
「そっか……おおぴらにバイトは……」
 考え込む玉木。
「ああ。
 一回や二回は、大目にみてくれるかも知れないけど……あんまり派手にやりすぎると、睨まれるんじゃないかって……。
 長期的に展開するとなると、それなりの対策はしておいたほうが、いい……」
 戸籍上の年齢でいえば、荒野たちは通常のバイトすら、おおぴらにできない年齢なのだった。
 平穏な生活を望む荒野にしてみても、自分のほうから進んで学校側に睨まれるような真似は、したくなかった。
「うーん……。
 そだね。その辺は、有働君と、対策なんか考えてみるよ……」
「頼む。
 学校のことに関しては、お前らのほうがよく知っている筈だから……」
 一般人として平穏に暮らしながら、地元地域社会に貢献するというのも……実際にやろうとすると、これでなかなか面倒なもんだ……。
 と、荒野は思った。
 実際に動き出せば、それなりの結果を出せることは、年末に実証済み、なのだが……それを行うと、今度は「平凡な一学生」としての枠組みからはみ出す。
 いわば、あちらを立てればこちらが立たず、といった状態なのである。
 玉木は有働と相談してなんらかの抜け道を探してくれるそうだが……。
『……いっそのこと、信用できる職員を作って、そちらと相談しながら進めたほうが、効率的なのかも知れない……』
 そんなことまで考えはじめている、荒野だった。
 少し前までは、荒野は、自分たちの正体を完全に伏せた状態で潜伏することを考えていた。しかし、一族という一般人の枠からはみ出した集団からも、さらにはみ出した茅たちに、安心して暮らせる土地を与えようとすれば……玉木や有働が昨日いった通り、周囲の環境を力づくでも、自分たちの存在を許容するものに変えていくより他、方法はないのではないか……。
 と、荒野は、思いはじめている。

 荒野にしろ、好きで一族の一員として産まれたわけではない。茅だって、自分の意志であのような体質になったわけではない。
 自分たちの責任ではないのに……これから先の長い生涯、下手をすれば一生……こそこそと隠れて暮らす、というのも、考えてみればひどく、馬鹿げたことに思える。
 第一、ここで失敗して、周囲の環境が荒野たちに寛容なものになる前に、荒野たちの正体が露見しても……荒野たちは、別の土地にいって生活の仕切り直しをするだけであって……よくよく考えて見ると、なにもやらないで失敗した時と、あがくだけあがいた上で失敗した時のリスク、というのは、実のところ、あまり変わりばえしないのだった……。

「……あっ……そうだ……」
 玉木との話しが一段落すると、荒野は、今度は楓を手招きした。
「楓。
 ……お前、今度の週末、ちょっとおれに付き合え。
 時間、空けておけ……」
「お。朝から告白っすか?」
 そばにいた玉木のまぜっかえしを、
「……あほ」
 の一言で退け、荒野は楓にいった。
「お前、最近、髪切ってないだろ?
 今度の週末、おれとあの三人とで美容院にいくことにしたから、お前も一緒にどうだ?」
「……あっ……」
 樋口明日樹が、小さな声をあげる。
「みきねーの……」
「そうそう。
 昨日、買い物にいった時、未樹さんにばったりあってさ……。
 その時に、なんかそんな話しになって……」
 楓に「その時は同行する」という言質をとると、荒野は「うん。じゃあ、そのつもりで予約入れておく……」といった。
 まだお店が開いている時間ではないので、休み時間にでも未樹の勤める店に連絡をいれるつもりだった。

 エントランスで上履きに履き替えて荒野たちはそれぞれの教室に向かう。荒野たちは依然としてそれなりに目立つ生徒であり続けたが、何週間もここに通っていれば、それなりに知り合いも増える。
 同じクラスであったり、部活が一緒だったりするそれらの顔見知りに挨拶しながら、それぞれの教室を目指す。
 同じクラスの才賀孫子や樋口明日樹とともに教室に入ると、本田が荒野のそばに寄ってきた。
 少し気が強いところを除けばごくごく普通の生徒である本田は、席が近いというだけの理由で荒野とそれなりに話す間柄だ。
「……ねーねー……加納君」
 その本田三枝は、朝の挨拶もそこそこに、困惑顔で荒野に質問をぶつけてくる。
「昨日……国道のあたりで、バイクに囲まれなかった?」
「……ああ……」
 荒野は別に否定しなかった。
 もともと地元での出来事だし、間接的か直接的かは問わず、目撃者もでるだろうとは、予測していた。
「ガラが悪くて、けたたましい単車、三台に囲まれたけど……」
 荒野は、そう返事をする。
 隠してもしかたがないし……それに、荒野があのバイクに仕掛けたことは、動きが早すぎて一般人の動態視力では認識できなかった筈……だった。
「どうした加減か、そのうち一台がいきなりこけて……。
 で、因縁つけられるのもいやだから、必死になって逃げてきた……」
「……そっか……やっぱり、本当だったんだ……」
「あれ、誰かが……みてたんだ……」
 帰ってからローカルニュースをチェックしても、特に報道された様子もなかったから、死傷者がでるような事故にはなっていないと、荒野は判断していたのだが……。
「うん……。
 わたしのおじさん……実は、警官で……。
 あっ! でも、ドラマとかにでてくるような、そんな格好いい仕事じゃなくて、単なる白バイ警官なんだけど……。
 昨日、パトロール中に、加納君らしい男の子がバイクに絡まれているのをみかけて、助けに行こうとしたら、加納君の隣を走ってたバイクがいきなりこけたって……」
 本田は、うんうんと頷いた。
「……加納君のその髪、目立つから、遠目にも、見当がつくのよね……」
 それから羽田歩は、荒野の耳元に口を寄せ、
「加納君……去年、おじさんに、自転車でスピード違反して、捕まったでしょ? 保護者呼び出したら、何故か三島先生が来て、盛大に引っ掻き回されたらしいけど……」
 世間は狭い……。
 というか、ここのような小さな町では、これくらいの偶然は、始終あるんだろうな……と、荒野は、思った。
「加納君……ママチャリで、八十キロ以上、だしてたんだって?」
 羽田歩の発言は質問の形を取った断定だった。
「事実だが……そのことは、出来れば、内密に願いたい……」
 ごまかすのも無駄だな、と、思った荒野は、真面目な顔で頷く。
「おれ……あんまり、騒がれたくないもんで……」
「知ってる。
 加納君、目立たないように気をつけているもんね……普段から」
 本田は、ため息をついた。
「でも……気づいてる? 加納君?
 その努力、あんまり成功していないから……」
 そういわれてしまえば……。
「……なんとなく、そうなんじゃないかなぁ……とは、思っていたよ……」
 ……荒野にしてみても、殊勝に頷くより他、ない。

 やがて、朝のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響き、クラス内にいた生徒は、ぞろぞろと体育館に向かった。
 週始めである月曜の朝は、全校朝礼があるのだった。

[つづき]
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