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彼女はくノ一! 第五話 (65)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(65)

 荒野がシルヴィと連れだって気配を辿って行くと、すぐに孫子や三人組の背中に追いついた。四人は、気配を消したまま、近辺の地上数メートルをびゅんびゅんと風を切って飛び回りながら荒神に稽古をつけてもらっている楓を、目で追っている。
 荒神と楓は気配をほぼ完全に絶っているため、四人は、はたから見れば、夜間の住宅街の、人気のない道端の狭い路上で、何もない空中をぼーっと見上げている、という格好になる。
 孫子もかなり驚いている様子だったが、三人は完全に口をポカンと空け、楓と荒神の高レベルな攻防に、すっかり呆れ返っている。
 今夜の楓は、いつもより重装備のようだったが、いくら用意した武器を投擲しても、荒神には届かない。
 荒神は、楓が投げた武器を避けるだけではなく、受け止めて足元においたり楓に投げ返したりする余裕さえあった。
 だから、物音も、ほとんどたてていない。
 仮に、気配が読める一族の関係者以外の一般人がこの場を通りかかったとしも、何も異常を察することができず、なにもない空中に注視している三人と孫子、それにシルヴィの姿をみて、いぶかしく思ったことだろう。
 荒野は、路上や塀、屋根や電線、電柱の上に残されたそれらの投擲物を、一つ一つ拾って歩いた。いつもは、稽古が済んだ後、楓が片付けているのだが、今夜は特別に荒野が動いていた。
『なんだかんだで……楓も、荒神に……投げさせるところまでいったんだもんな……』
 最強、の異名を取る荒神の動きに、楓は慣れつつあった。
 荒野は二人の稽古を毎回チェックしている訳ではないが、それでも、見物にくるたびに楓の動きに無駄や隙が少なくなり、シャープになっていっくのを感じている。
 投擲武器を嫌う荒神に、武器を投げ返させる所まで、楓が腕をあげてきた……ということを確認した荒野は、素直に感心した。
 もともと素質があったとはいえ……短期間で、よくもここまで腕を上げたものだ……と、思う。
 ここまで仕上がってくれれば、楓の存在も……。
『どこかで監視しているやつらへの……』
 牽制になってくれる……という計算も、あった。
 純粋な戦闘能力でいえば、荒神や荒野に続いて、楓も、他の一族の水準からみて、「まともに敵対するとなると、損害が多くなりすぎる」レベルに達しつつあった。
 もっとも、正面から攻撃することよりも搦め手のほうが得意な術者も一族には多いから、完全には安心はできないのだが……それでも、楓が「容易に手出しできない存在」に育ちつつある……という事実を、普段からこれだけデモンストレーションしておけば、荒野たちへの敵対行為の抑止力として、十分な効果が望める。

「コウ……カエデ、前よりすごくなってない?」
 あちこちに散らばった投擲武器を拾い集めて、落ちていた網にくるんで持ち帰ると、早速シルヴィが声をかけてきた。姉崎の者は、基本的に個人単位の「戦闘能力」をまるで重視していないが、だからといって、見極める目を持たないないわけではない。
 わずか数日に前にみた楓の様子と、今の楓の状態を見比べての、率直な感想だろう。
「ああ……みるたびに、成長しているな、あいつ……」
 荒野はなるべく感情を込めず、事務的に事実だけを述べた。
「楓を弟子に選んだ荒神の目が……確かだった、ってことだろ?」
 最強の荒神が最初にとった弟子が、もう一方の兄弟弟子をそう評する。荒神は、今のところ、荒野と楓以外の弟子を認めていない。
「……こんなの……」
 背中ごしに荒野とシルヴィの会話を聞いていたテンが、誰にともなく、いった。
「こんな人たちばかりなら……ボクらなんか、今更、必要ないじゃないか……」
 ノリの声が、震えている。
 三人が今、共通して感じていることなのだろう。
 これまで、三人と対峙してきた時も……楓は、かなり手加減していたのだ……と、思い知ったようだった。
「ああいうのは、そんなゴロゴロはしていないから安心しろ……」
 荒野としては、そういうしかない。
 自信を喪失しかけた三人を、荒野が元気づける……というのも、奇妙ななりゆきだ。
「あいつらは、トップクラスもいいところだし……それに、ああいう直線的に強い者だけが、必ずしも優位に立てるとは、限らない……」
 実際、力にも反応速度にも勝る若い術者が、老いて、肉体的には衰えはてた術者にいいようにあしらわれる……という例は、決して、少なくはない。
 荒野たち一族が活躍する場は、公正なルールに基づいて勝敗を決するスポーツや武道の世界とは、明らかに異なる論理で動いている。
 そこでは、「強さ」が必ず有利に働くとは限らない。だから、楓は、養成所時代、「使えない逸材」の異名をとっていたのだ……。

 が、ついこの間まで「島」という、ほとんど自分たちしか存在しない閉鎖的な世界で生活していた三人は、そうした複雑な事情や背景については、おそろしく無知、かつ、無頓着だ。そうした事を、今この場で説明するのは、骨が折れるばかりではなく、あまり意味がない。
 いずれ……他の一族の者たちと接触するようになれば、否応なく思い知らされる筈……だった。
 他の二人よりは想像力がありそうなテンのみが、少しは事情が違いそうだが……テンがなにか考え込んでいる顔をしているのに対し、他の二人、ガクとノリはひたすら、目を見開いて驚いている。
 孫子の反応は、どちらかというとテンに近かったが、テンよりも不遜な表情にみえた。

「ねぇ、かのうこうや……これが、一族のトップクラス、といみていいんだよね?」
 その荒野の観測を裏付けるように、テンが、振り返ってそういう。
「ああ。
 なにか……対抗策考えてしたんだろ、お前」
 荒野がそう確認すると、テンは素直に「うん」と頷く。
「昼間、トクツーさんの所で、宿題出されちゃってさ……。
 ボクたち三人の特性に最適化した武器を考案しろっていうんだけど……このレベルに対抗できるものを作れば、なんとか格好がつくかなぁ、って……」
 不遜、ともいえるテンの発言に、ガクとノリがあわてて振り返る。
 荒野は素知らぬふりをして、テンの参考になりそうな情報を与えてみることにした。
「……とはいっても、一族の中でも、流派によってかなり戦いかたが違ってくるからなぁ……。
 例えば、秦野の兄さんたちは、個々人の能力は荒神や楓よりもよっぽど低いけど、かわりに、近代火器で武装し、惜しみ無く弾薬を使い、隙がない連携での集団戦を得意とする……」
 荒野自身が彼らの中に混ざって何度か作戦行動に従事した経験があるのだが……彼らだけは、敵に回したくない……と思っている。
「……その他に、この間、茅がテーブル消した時みたいな芸当が、普通にできる佐久間がいる……」
 荒野が言葉を続けると、ガクとノリが、悄然とうなだれる。
 そうした相手に対する有効な対抗手段を、思いつかなかったのだろう。
「……そっかぁ……いろいろなタイプが、いるんだぁ……」
 そんな中で、テン一人の顔だけが、奇妙に輝いていた。
「大丈夫だよ、ガク、ノリ……。
 じっちゃんが言ってた通り、ボクらは、一族の思惑なんて軽く越えて行かなければならないんだ……」
 その口調は……荒野には、虚勢を張っている、とは、到底思えない、静謐な自信に満ちていた。

[つづき]
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