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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(109)

第五章 「友と敵」(109)

 いつもの通り、土手の上の遊歩道をしばらく走って体を暖めた後、河川敷に出る。ここ最近、茅は自分で作ったメニューをこなすようになっていて、五十メートルほどの短距離全力疾走を、休み休み、時間一杯行うようになっている。茅の足腰にある程度バネがでてきてきた今では、持久力と瞬発力の両方を向上させる、効率的なやりかただと、荒野も思っている。
 その間、三人も適当に周囲を跳びはねているのだが……この日の朝は、河川敷に不釣り合いな、先客がいた。
「……やあ、荒野君。おひさしぶり……」
 早朝の河川敷、という人気のない場所に似つかわしくない、コート姿の、三人の男たち……。
 彼らの正体を見極めるのと同時に、荒野は、叫んでいた。
「……気配を!」
 探れ……と言い終わる前、ガクが風上の方に、眼鏡を外したノリが、その反対の方に向き直る。そうすると、ちょうど、二人がテンを中心にして周囲を警戒しているような具合になり、みていた荒野はなんとなくおかしかった。
『……まるで……二人して、テンを守っているみたいだな……』
 と、荒野は思った。

 そんな具合に、ガクは主に嗅覚に、ノリは視覚に頼って、瞬時に索敵行動を行い、終了した。
 一見なにもしないで、立っていただけに見えた茅が、
「……見える範囲内には、誰もいないの……」
 と荒野に告げると、その言葉を裏付けるように、ガクとノリが同時に頷く。
「半年ぶりになるのかなぁ、荒野君とは……」
「その三人は、先週ここに来たばかりだというが……なかなかどうして、結構なチームワークじゃないか……」
「大丈夫。
 今日は、ぼくらは三人しかこの場には来てないし、ぼくらは、君達に敵対する意志もない……。
 荒野君は知っているかと思うが、ぼくらは、単独行動を好まない性質でね……この人数が、ぎりぎりの小人数なんだ……」
「……いえ、このタイミングでわざわざ挨拶に来てくださるとは想定していなかったので、つい、警戒してしまっただけです……」
 そういって、荒野はため息をついた。
 完全にその言葉を信用した訳ではなかったが……相手が悪い。この相手が荒野たちに害意や悪意を持っていたら……荒野たちは、ひとたまりもないだろう……。
 だから、とりあえず荒野は、「敵対する意志はない」という言葉を信じる以外、選択肢はなかった。

「……わざわざ出向いてくださったんだから、紹介しておこう……。
 この人たちが、昨日の夜、ちらりと話した……六主家のひとつ、秦野の兄さんたちだ……」
 荒野は、目の前にいる、がっしりとした体つきの三人の青年を、茅と三人組にそう紹介する。
「……君達からみて右側から、太郎、次郎、三郎だ……。
 もっとも、最初のうちは、見分けがつかないだろうから、なにか用がある時は、太郎、あるいは、秦野、と呼びかけてくれればいい……」
 真ん中の青年……次郎が、そう挨拶した。
 確かに、三人は、体格といい、顔つきといい、雰囲気といい……とてもよく似ていた。
 よほど見慣れなければ、見分けはつきそうもなかった。
「ここまで出向いてきたのは他でもない。
 荒野君が守るという噂の姫様方を、こちらでも一目、確かめておきたくてね……」
 太郎がいう。
「いやはや、皆さん、写真よりもよっぽど可愛いじゃないか……」
 次郎がいう。
「もっともそちらの三人は、可愛いだけの存在じゃあないようだけど……」
 三郎がいう。
「まず、第一に、おれが守っているのは茅だけで、あとの三人は、おまけだ……」
 荒野はよどみなく答えはじめる。
 秦野の怖さは綿密な連携と物量戦にある。近場に仲間がいない、という言葉を信じるのなら、今、この場で即座に危機に陥る、という可能性は少ない。
 だから、焦る必要はない……。
「……次に、茅だって、他の三人に負けず劣らず、やっかいな存在に育ちつつある。
 最後に、少なくとも、茅に関しては、写真写りが悪いということはない……兄さん方が使った盗撮屋の腕が悪かっただけだと思います……」
 そういって荒野は、秦野の三人組に愛想よく笑いかける。
 後ろの方でガクが、
「おまけだって。ボクら三人、おまけだって……」
 と嘆いて、他の二人が慰めている気配があったが、荒野は気にしない。
「……なんなら、写真館のご隠居にお願いして、この間の写真を焼き増ししてもらいますか?」
 と続けてみる。
 すると、秦野の三人衆は、微妙に怯んだ顔をした。
「……いや……実をいうとだねぇ……」
「我々は、ここに来る前に涼治老の所に挨拶にいったのだが……」
「そこで散々、そこの髪の長い子……茅ちゃんの写真やビデオをみせられて、正直、食傷気味なのだよ……。
 いくら可愛い、といっても、あれだけ見せつけられると、ちょっとねぇ……」
『……じじ馬鹿の、勝利……か……』
 げんなりとそう思いかけてから、荒野は、あることに気づいてハッとする。
『……するってぇと、なにか?
 ……おれ、じじいと同じレベル、なの?』
 荒野の顔が微妙にひきつったのにも気づかぬ風で、秦野三人衆は言葉を継いだ。
「そういうことで、我々は……」
「目下の所、その茅ちゃんよりは……」
「そっちの、三人のほうに興味がある……」
『……そんな所だろうな……』
 と、荒野は思った。
 日曜日の検査結果が、ぼちぼち出回る頃だろうとは踏んでいたし……真っ先に、小細工なしに正面から食いついて来たのが、秦野……というのも、なんとなく、面白かった。
「おい、そこのおまけ三人衆!
 秦野の兄さん方は、お前らとのお手合わせをご所望のようだ!
 お前ら、どうする?」
「おまけおまけ連発するなぁ!」
 案の定、一番単純なガクが、荒野の挑発に乗ってきた。
 ノリは、おろおろと困惑した顔をして、温厚なほほ笑みを浮かべている秦野三人衆の顔をみ、今にも秦野のほうに躍りかかって行きそうなガクを取り押さえている。
 テンは、面白そうな顔をして、荒野と秦野三人衆を等分にみる。
「……まあ、いいじゃないか、ノリ……」
 テンは、ノリの方を叩いた。
「ガクも、かのうこうやも、それに、このおじさんたちもやる気になっているようだし……ここはひとつ、挑発に乗って上げようよ……。
 ちょうど、人数的にも、三人対三人でちょうどいいし……それに、ガク、こうなったらなんらかの形で決着つけないと収まりがつかないと思う……」
 そういいながら、テンが自分の分の六節棍を取り出すと、ノリとテンも、それに従う。
「秦野のおじさんたち……おじさんたちは大人だし、ボクら、これ、使わせてみて、いいかな?」
「……これでもまだ、お兄さんと呼ばれたい年齢なんだけどね、ぼくらは……」
 太郎が、秦野の三人を代表して、苦笑いを浮かべながら、テンに答える。
「問答無用でかかってきたのなら、ともかく……そうやって、あらかじめ断りを入れられると……大人としては、君たちに素手で対抗するしかないなぁ……。
 君……テン君、だったけ?
 頭が、いいんだね……」
 太郎は、好青年然とした笑顔を浮かべたまま、三人組にこう叫んだ。
「いいよ! 好きにしたまえ!
 ぼくらは、君たちの希望どおり、今回は武器を使わない!」
 それが、合図となった。
 ガク、テン、ノリの三人は、がっしりとした体格の秦野三人衆に、一斉に躍りかかる。

[つづく]
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