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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(110)

第五章 「友と敵」(110)

 真っ先に突っ込んでいったガクは、真ん中の秦野の懐に、やすやすと入り込むことに成功した。
 そして、
「……荒神の真似ー!」
 と叫びながら、下からすくい上るように、自分よりずっと大きな体格の持ち主である秦野を、軽々と真上に放り上げ……ようと、した。

 実際、ガクとは半メートル近い身長差がある秦野の体は、いったん軽々と浮かびかけたのだが……放り投げられた秦野のほうも、素直に投げられるばかりではない。
 ガクの頭上に浮かび上がった所で、咄嗟に、ガクの襟首を掴んだ。
 がくん、という衝撃と共に、遥か上空へ飛ぶ筈だった秦野の体が止まり、ガクの上に落ちる。
 そのまま秦野は、体格差を生かして、そのままガクの体を上から覆いかぶさるように押さえ込みはじめる。

「……ガクの馬鹿!」
 思わず、テンが悪態をつく。
 いくら力に自信があるとは言っても……体格差があることは、最初から明白なのだから……組みあったら、不利だということぐらい……分かりそうなものだが……。

 実際、ガクは、まともな抵抗をする前に、その秦野に、体を持ち上げれる。地に足がついてない状態で、なおかつ、背中を下にして密着していては……いかに筋力があっても、それを相手に伝達するのが難しくなる。
 結果、秦野は、一人を犠牲にすることで、三人の中で一番の力持ちであるガクを、完全に拘束することに、成功した。
「……危ない危ない……」
 ガクを肩に担いだ秦野が、のんびりとした口調で、いった。
「……君……ガク君っていったっけ?
 資料の通り、力持ちなんだねぇ……」
 その秦野の肩にかつぎ上げられ、両腕ごと胴体にがっしりと腕を回され、拘束されたガクは、「馬鹿! 離せ!」とか喚きながら、じたばたと両足をばたつかせている。ガクの背中がその秦野の後頭部に密着している、いわゆるバックブリーカーにも似た状態なので、ガクが足をばたつかせてみても、ガクを拘束している秦野にダメージはない。

「ガク……間抜けだ……」
 その光景をみたノリが、茫然と呟く。そんなことを呟きながらもノリは、流れるような動作で、素早くガクを肩に抱えた秦野の後ろに回り込む。
 ノリは、三人の中で一番、早くて、速い。つまり、三人の中で一番、動作や反射神経が機敏で、足も速い。
 そして、三人は、基本的な身体能力だけを取り出せば、成長途上の現時点でさえ、一族の平均値を遥かに上回っていた。三人の中で一番、ということは、ごく一部の例外を除き、一族の大多数の者よりも抜きん出ている、ということを意味する。
 事実、ガクを抱えていない二人の秦野は、軽快なノリのフットワークを捕らえきれず、大きく体を泳がせる。
 体勢が崩れた二人の秦野の足元を、テンが、一本の棒状に連結した六節棍で的確に薙ぎ払っていく。

 ガクほど短慮ではないテンは、体格差のある相手に対しては、距離をおいて対応する。多少、筋力や反射速度に勝っていたとしても、組みつかれたら、始末が悪い……ということは、今現在、ガクが身をもって示してくれていた。

 ガクを抱えた秦野の背後に迫ったノリは、一足に、その秦野の頭上まで跳躍し、落下する勢いをそのまま利用して、ガクの胴体を掴んでいる秦野の腕を目がけて、真っ直ぐに六節棍の切っ先を振り下ろす。
 しかし、ガクを抱えた秦野は、背後にいるノリの動きを予測したように、ほんの少し、肩に乗せていた、ガクの体の位置を、ずらす。
 それだけの動作で、ノリが振り下ろす六節棍のちょうどその先に、ガクの頭部が位置するようになる。
「……やべぇ!」
 驚きに目を見開いているガクと、今まさに棍を振り下ろそうとしているノリとの目線が、瞬間、まともにかち合う。

 二人とも……経験から、ここまで勢いをつけて振り下ろした動作は、瞬時に別の方向へはそらすことができない……と、判断している。

 ノリは身をよじってなんとか棍の軌道を逸らそうと試みるが、あまり効果はなかった。
 ノリの速度と筋力、それに、体重を付加した落下速度、が、加われば、ガクの頭部などは簡単にはじけて、石榴のように真っ赤になるだろう……。
 ノリは冷静にそう予測し、ノリより冷静なテンが、ノリとガクの窮状を救った。
 一目見て二人の状態を把握したテンは、下から棍で、ノリの脇腹を無造作に払う。
 ノリの体は脇に吹っ飛び、結果としてガクの頭部が破砕されることだけは免れた。しかし、テンの打撃を脇でまともに受け止めたノリは、顔をしかめている。
 ガクが致命傷を受けるよりは、はるかに増しだが……勢いがついたノリの体を逸らすには、相応のエネルギーが必要となる。
 テンの棍によってノリが受けたダメージも、決して軽いものではなかった……。
「なにやっているんだよ! 二人とも!」
 普段は温厚なテンが、叫ぶ。
「昨日……かのうこうやが、秦野の特徴として、綿密な連携をあげていたの聞いたばかりじゃないか!
 少しは用心しろよ!」

「やれやれ……テン君は、本当に頭がいいな……」
「それに……順応性も、他の二人に比べて、高い……」
 テンに足を払われ、地面に転がっていた二人の秦野が、決して機敏とは言えない動作で起き上がりながら、交互にそんなことを言いはじめる。
「そうだな……ひとつ、教えておくと……」
「我々秦野は、海外ではレギオンとか呼ばれることがあってね……」
「三人の人間を相手にする、というよりも、体が三つに別れている一体の生物を相手にしている……と、そう思った方がいい……」
「君達は、運がいい……生きたまま、我らがレギオンと呼ばれる理由を、知ることが出来るのだから……」
 決して俊敏とはいえない動作で歩いて来る二人の男を前にして、テンとノリは、恐怖さえ覚えた。
 彼ら、一人一人は……たいした能力を持っていない。筋力も反射速度も……三人とは比べ物にならないくらいに、弱い。
 一対一なら、油断さえしなければ、ガク、テン、ノリ、誰か一人だけであっても、遅れをとるとは思わない……。
 しかし……「三人の人間」と、「三人分の手足と感覚器官を持った、一体の生物」とを相手にするのとでは、まるで勝手が違う……。

「……降参!」
 テンが、手にしていた棍を放し、両手を上げて万歳をした。
 ノリも、慌ててそれにならう。
「負ける気はしないけど、勝てる気もしない。
 これ以上やっても、双方に損害がでる消耗戦になるだけで……そんな潰しあいに、意味ないし……それ以上に、不経済だよ……」
「テン君……君は、決断力も、あるんだね……」
 ガクを担いでいた秦野が、ガクの体を地面に降ろし、そういって快活に笑った。
「君達は……ぼくらより、よっぽど凄い素質を持っている……。
 けど……それを十全に生かす術を、教えられていない……。
 荒野君は、そのことを教えたくて、ぼくらと君達がぶつかるように仕向けたのではないかな?」
「……そういうこと、気軽にばらさないでください……」
 少し離れた場所で、成り行きを見守っていた荒野は、憮然とした表情で答えた。
「こいつら、今まで井の中の蛙できたから……ここいらで痛い目にあっておいたほうが、先々のためなんです……」
「ああ……。
 だが……ぼくたちの方も、得るところはあった……。
 彼らの実態を、この体で確かめることができたからね……」
 秦野の一人が、前に進み出て、三人の顔をみわたして、そういう。
「君達三人は……術は教えられているが、術者ではないんだね……。
 卓越した能力を持ちながら……どちらかというと、一般人的な価値観で、動いている……」
「ええ……こいつらは、甘いんです……」
 その言葉を受けて、荒野はうなずく。
「でも……こつら三人も、茅も……あっと言う間に、成長しますよ……」
「……わかっている。
 子供が成長するのは、早いからねぇ……」
 その秦野は、にやりと笑った。
「あの小さかった荒野君が、今では立派なリーダーになっているし……」
 荒野は……なにも、言い返せなかった。
 内心で、
『……これだから、ガキの頃からの知り合いは苦手なんだ……』
 とか、思いながら。

[つづき]
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