2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(111)

第五章 「友と敵」(111)

「それでは、ぼくらはこれで……」
「今日は、三人の様子を確認しに来ただけですし……」
「ぼくらは大勢でいることが多いから、どうも、三人っきりでいるというのも落ち着かないもので……」
 そういって秦野三人衆の姿が小さくなるのを見送った後、テンは荒野に問いかける。
「……なあ、かのうこうや?」
「なんだよ?」
「あの人たちって、集団で行動することが多いんだよな?」
「うん。人数の多さも、秦野の大きな武器だ」
「じゃあさ、ボクらの島にこっそりと荷物を運び込んでいたのって……あの人たちの仲間なんじゃない?」
 荒野はテンの顔をまじまじと見つめる。
「確証はないけど……おれも、そうなんじゃないかって推測はしていた……」
 孤島とか道もろくにない廃村に、定期的に、少なくない荷物を届ける……しかも、そこに住んでいる、茅や三人組にさえ気づかれない間に……となると、そんな真似が出来るのは一族の関係者くらいしか、思いつかない。
 ただ運び込む、というだけではなく、「こっそりと、気づかれずに運び込み、荷物だけを置いて撤退する」となると……やはり、一般人の運送業者、ではないだろう……。
 特に三人組みは、一族の者と比較しても敏感な感覚器官を持っている。その三人に気づかれずに……ということになると、一族の者の中でも、可能なものは限られてくる……。
 そして、そうした集団作業を六主家の中で最も得意とするのが、秦野……なのだ。
「……そのへんのことは、除去法でいけば、なんとなく予想つくけど……」
 テンの表情は、複雑だった。
「そうすると、あの人たち……じっちゃんと一緒に、ボクたちを育ててくれた人たち、ってことに、なるんじゃないのかな……」
 今度は、荒野の表情が微妙なものになった。
「そういう観点で考えたことはなかったけど……筋からいえば、そういうことになるな……。
 いや……そうすると、お前らだけではない……茅も、そうだ……」
 荒野は複雑な気持ちになる。
 野呂良太、二宮荒神、シルヴィ・姉、佐久間源吉に、この三人組……そして、今度は秦野……。
 荒野がこの土地で待ちの一手に徹しているのは、他にやりようがないからだが……それでも、こうして相手の出方を待っているだけで、一族の者たちが向こうからやってきて、情報のピースが少しづつ、集まってくる……。
 これは……どこまでが偶然で、どこまでが仕組まれたことなのか……。
「ボクたち……ボクたちと、じっちゃんだけが仲間だと思っていたけど……」
 テンは、そういって、じわり、と涙ぐむ。
「ボクたち……ボクたちだけではなかった……ちゃんと、じっちゃんと一緒に、育ててくれた人たちが、いたんだ……」
 テンがぼたぼたととどめなく涙を流しはじめたので、横に立っていた荒野はぎょっとする。
 子供とはいえ……横に立っている女性がいきなり泣き出した、などという経験は……荒野には、なかった。当然、手際よいあしらい方も、しらない。
「……お、おい……」
 荒野はおろおろと狼狽して、左右をきょろきょろと見渡す。
 茅は、秦野と三人のやりとりもどこ吹く風で、自分のトレーニングを行っている。
「あー! かのうこうや、テンを泣かしてるー!」
 ガクがそう叫んで、荒野を指さす。
「ああ。ああ。またテンが……」
 脇を手で押さえながら、ノリがこっちに小走りで向かってきた。
「気にしなくていいよ、かのうこうや……テン、涙腺が緩いっていうか……。
 昔から、なにかの弾みで、いきなりひょろっと泣きはじめるだ……」
 そういいながらもノリは、軽く顔をしかめている。
 先ほど受けた打撃の痛みが、まだ引いていないらしい。
「そりゃ、いいけど……おい、ノリ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ。
 さっきの……肋でもいってるんじゃないのか? ちょっと見せてみろ……」
 荒野は、テンに駆け寄ろうとするノリの手首を捕まえて、自分のほうに振り向かせた。
 泣きすぎても健康には支障はないが、骨折や打撲は初期治療を誤れば、治りがそれだけ遅くなる場合がある。今、助けが必要なのは、テンよりもノリのほうだ……と、荒野は判断する。
「……う……あ……あ……」
 いきなり腕を掴まれて、荒野と真っ正面から向き合って顔を合わせたノリは、かーっと赤面しはじめる。
「なにノリを襲っているのかー! かのうこうやー!」
 ガクが、頭っから荒野の背中に体当たりした。
 不意をつかれた荒野は、ノリの上に覆い被さる形で地面に倒れ込む。ノリと顔を激突させる寸前で地面に手をつき、危うくそれを免れる。
「……だから! ノリを襲うなって! かのうこうや!」
 ガクが、げしげしと荒野の背中を踏みつける。
 至近距離に近づいたノリの眼が、じわり、と潤みはじめる。
「……ガク、てめえ……」
 荒野は、ガクの攻撃に耐えながら、ノリの体に乗りかかるまいと、腕に力を揉めている。ガクの攻撃が上から来ているので、自分が避ければノリがとばっちりを食う形になり、動くに動けない。
「……お前が攻撃やめれば、ノリの上からどけるんだってーの!」
 流石に耐えきれず、荒野は大声を上げた。
 すると、「ひっ!」とノリが小さな悲鳴を上げた。
「……な、泣くな、ノリ!
 これはあれ、不可抗力だ! 決して悪気があるわけでは……」
 荒野が言いつのると、
「なにー! かのうこうや! テンだけでは飽きたらず、今度はノリまで泣かせるのか!」
 ガクはさらに怒り狂って、以前以上の力を込めて、荒野の背中を蹴る。
 ガクはただの子供ではない。三人の中で最も筋力がある、子供だ。膂力は、一族の中でもトップクラスと言っていいだろう。
 その力を持って遠慮なく蹴りつけられている荒野は、身動きが取れない。

 どこか遠くで、テンが「あー、あー」と子供のような泣き声を上げている。
 荒野の下では、ノリが、「ひく、ひっく……」と嗚咽を漏らしはじめている。

 荒野がその窮地から脱出するまで、それから十五分ほどの時間が必要だった。

 マンションに帰る途上、荒野が茅に向かって「どうして助けくてくれなかった?」と尋ねると、茅は、「荒野……楽しそうだったの……」といって、ぷい、と顔を横に向けた。
 その日、登校する時まで、茅は一言も口をきいてくれなかった。

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのろく]
Pink!Pink!Pink! エログー(Hなブログランキング) blogRanking 人気blog エログ杯 エログ・ブログranking blogoole アダルトブログranking アダルトランナー YOMI FIND アダルト

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ