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彼女はくノ一! 第五話 (69)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(69)

 当面の仕事ととして、荒野や茅、楓、孫子たちは、明日の美容院のモデル、玉木はその前後に必要な手配、有働は周辺地域の下調べがあり、香也の出番は、少し後になりそうだった。
「……こちらから声をかけておいて、お待たせする、というのもなんですが……」
 と、有働は大きな体を小さくして香也に恐縮して見せたが、香也にとっては、「なんでもいいから描いて」といわれるよりは、「しかじかのものを、このように」とかいう具体的な指示があったほうが、よほどやりやすい。
 香也は、今回の件にかかわることで、自分が、「どうにでも解釈できる、抽象的な指示が嫌い」であることに、初めて気づいた。そうした「絵にしにくいもの」は、どうやら香也にとっては鬼門であるらしい……。

 打ち合わせが済み、部外者が出て行った後、そんなことをぼんやりと考えながら香也が筆を走らせていると、
「……なんか、おおげさなことになってきているね……」
 と、樋口明日樹が声をかけてくる。
「玉木や有働君あたりは妙に自信ありげだったけど、本当にあんなこと、できるのかなぁ……」
 樋口は、玉木たちのボランティア活動の成否に関しては、未だに懐疑的である。
 荒野も指摘していたように、トラックを一台動かしてゴミを処理するだけで、十万円前後の金銭が必要となる。それを常時動かす、ということになれば……あっと言う間に、必要な予算はン千万とか億の単位に突入してしまうだろう……。
 それをすべて寄付で賄うのを前提とするのは……どう考えても、無謀に思える。
「……んー……」
 香也は、意識の大半を目前の絵に集中させながら、あまり考えないで反射的に返事をしている。
「……できるかどうかは、わからないけど……そういうの考えるの、計画した人たちだし……ぼくは、頼まれた絵を描くだけ……」
 そうした香也の無関心振りをみて、明日樹は、自分が玉木たちの計画を意外に真剣に考えていたことを、自覚する。
 明日樹は性格の根本で生真面目な所ありすぎて、香也の関心事は、かなり狭いものだった。
 明日樹はそれ以上の会話をあきらめ、自分の絵に専念する。
 気づけば、もう二月に入っていた。明日樹がこうして部活に参加できる期間も、残り少なくなっている。香也ほど、絵にこだわりはなかったが、後で思い返した時、悔いが残るような活動も、したくはない……。

 美術室を出た後、楓と茅は、二人でパソコン実習室へ向かう。
 珍しく図書室には向かわず、楓の後について来た茅は、楓に作ってもらいたいソフトがあるという。
 今後、ボランティアが本格的に立ち上がる前に、「大人数での使用を前提とした、スケジュール管理ソフト」が欲しい、というのが、茅の要望だった。
 今日はパソコン部の部活がある日であり、堺たち幽霊部員ではない生徒たちはそこに集合している筈だった。楓は、早速パソコン部の生徒たちに対して、玉木ちのボランティア活動に協力するよう、相談してみるつもりだった。
 パソコン部の部員たちが積極的に協力してくれるかどうかは、今の時点ではなんともいえなかったが、学校のサイトの管理を実質的に行っているのはパソコン部であり、その学校のサーバで各種データの公開を予定している以上、早めに「しかじかの活動を予定しています」という断りをいれておいた方が、将来的にも話しが通じやすくなる。
 この間の孫子の囲碁勝負の際、ネットワークやスクリプトライターとしての楓の知識と技量はパソコン部内でも知れ渡っており、そのおかげで楓は、新参者でありながら、他のパソコン部員たちに一目置かれる存在になっていた。また、プログラミングの技能という点においては、他のパソコン部員たちが全員でかかっても楓一人の処理能力にはかなわなかったので、仮にパソコン部員全員が今回の件に積極的に参加してこなくとも、サーバへのデータアップロードの許可さえ取り付けておけば、特に問題にはならない筈だった。

 楓と茅が二人で実習室に入ると、中にいたパソコン部員あちの間で軽いざわめきが起こる。
 部員である楓が入ってくるのは、別に驚くには値しない。いつもより一時間ほど遅れてきた、ということが、滅多に部活をさぼらない楓にしてみれば、珍しいといえばえいたが……そもそも、在籍しているだけで部活動に顔を見せない幽霊部員のほうが多いのだ。楓が多少遅刻したからといっても、「なにか外せない用事でもあったのだろう」と思うくらいで、咎める者はいなかった。
 ざわめきを作った原因は、楓と一緒に入ってきた茅にある。

 楓や茅と同じクラスの部員もいるし、なんだかんだで楓や香也の周辺にいる人々と仲良くしている堺雅史は、別に驚かないが……一見極端に口数が少ない謎めいた美少女、その実、たまになにかいったかと思えば、かなり電波すれすれの、トンデモかつ頓狂な発言をしがちな加納茅は、整った容姿と時折見せる非常識な振る舞いのミスマッチさとで、この頃には何かと注目を浴びる存在となっていた。
 業者テストで全国区レベルの点数をたたき出す頭脳、それでいて、体育の時間などでもそこそこの活躍をする。クラスにも文芸部にも、それなりに顔見知りはできているが、親しい、というほどの友人はいないように見える。強いていえば、登下校をともにする楓が一番親しいように見えるが……楓の茅に対する態度は、端から見ても少し距離を感じさせるうやうやしさがあり、「親しい友人」という間柄とは、少しニュアンスが違って見えた……。
 要するに、この学校に通う生徒たちにとって、茅とは、「頭脳明晰成績優秀容姿端麗、で、なおかつ、未だに実態や性格が把握しきれない謎めいた美少女転校生」という存在として、把握されている。
 陰ではその特徴的な語尾から「なのなのちゃん」などと呼ばれ親しまれており、直接茅と関わりのない連中の中には、「実は、未来人」説、「実は、妖怪が化けている」説、「実は、宇宙人が化けている」説などの風説を面白半分、かつ、無責任にやりとりなする連中も、決して少なくはない。

「……その、加納さん……珍しいね……」
 他の部員たちの無言の圧力を受け、堺雅史が茅に声をかける。
 堺は、決して茅と話す事に慣れているわけではない。が、楓たちの集団と行動をともにすることが多い関係上、相対的に、他の部員たちよりは、茅と接する機会が多い。
「あの……堺君……」
 茅がなにか答える前に、楓が堺に向かって、そう声をかけた。
「少し、学校のパソコンを使わせて貰いたい用事ができそうなんですけど……」
 そういって、楓は、玉木たちから配られた、何枚かのコピー用紙を何枚かホッチキスで止めた束を、堺に手渡した。
「それ、昨日までの話しででた案をまとめたものなんで、データが少し古いんですけど……」
 玉木と有働がまとめた、ボランティア関係の企画案がプリントアウトされていた。こういう資料造りに関しては、放送部員はマメだった。
 楓がそのプリントには記されていない、今日の会議で出た話などを補足しながら説明するうちに、パソコン部員たちが堺や楓、茅の周辺に寄ってくる。
「なに? また放送部が変なことはじめるの?」
「……でも、今度はなんか真面目っぽい……」
「いいんじゃねーの……どうせ抵抗したってこの間みたいにいいように使われるのがオチだから、最初から積極的に関わって楽しんだほうが得だと思うぜ……」
 パソコン部の反応は、おおむねそんな感じだった。

[つづき]
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