第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(75)
「……それはいいけどよ……」
荒野は声を潜めて玉木に問い返す。
「いきなり、あんなに派手にぶち上げて……学校の方は、大丈夫なのか?」
「派手、といっても、今のところネットでしか広報していないし……」
玉木はチロリ、と舌を出した。
「……一部のマニアックな層ではそれなりに話題にはなっているし、早速幾つかのブログで紹介されたり、リンク貼られたりしているようだけど……。
そっちのほうの情報伝播とリアルのほうとでは、少し格差があるから、先生方の耳に入るまでは、まだいくばかの時間があるかと……」
そういえば、荒野や楓も、昨夜のことがなければ、気が付かなかった筈であり……。
「そっか……。
ネットって……興味がない情報に関しては、とことんスルーされるから……」
楓が、そういって頷く。
「そうそう。
ユーザーが興味を持ってアクセスするなり検索するなりしてくれなければ、そういう情報があるってことさえ、気づいてもらえない世界だから……」
「ゴスロリ」、とか「地元商店街」のサイトを、普段からわざわざチェックしている学校関係者が、どれほどいるかというと……。
「……まあ、実際には数日からせいぜい一週間くらい……君たちが、今日撮影する予定になっているカットモデルの件がばれるのと、だいだい同時ぐらいだと思うよ……」
と、玉木はいう。
「……そして、その何日かがあれば、ボランティア関係の人員を募集して、受け付ける準備が整ってしまうの……」
「あ! そうですね!
フレームは、昨夜のうちにだいだい出来ちゃったから……あとは、実際には使ってみて、デバックとか細かい調整とか……」
「そう。
そういうのは、実際に使って試験しないと、なんともいえない部分だから……募集が早くなればなるほど、システム開発的には、都合がいいの……」
茅と楓は、そんなことを話しはじめる。
「……そのへんのことは正直、なんだかよく分からないけど、放送部の連中にも発破かけておくよ……」
玉木はそういって、楽しそうに笑った。
昼休み、茅は同じクラスの楓や堺雅史を通じて今回の件に協力してくれることになったパソコン部、放送部の主だった人員をパソコン実習室に集めた。
給食を食べ終えて三人が実習室に向かうと、そこにではすでに人垣が出来ていて、その中心に斎藤遥がいて、パソコンを操作している。
「……あ。来た来た……」
楓たち三人が実習室に入ったことに気づいた斎藤遥は、三人を手招きする。斎藤遥の回りに集まっていた生徒たちが、三人に道をあける。
「今、ちょうど、ブログのアカウント取ったところ。
共同管理ができて、フリーなヤツ……。
さあ。放送部の中で、取材に参加する予定で、携帯持っている人! 登録するから、順番にメアドちょうだい……」
斎藤遥が、そう宣言する。
「……ブログって、思ったより簡単につくれるんだな……」
「登録するだけなら、簡単……。
更新しつづけるのが、難しいんであって……その点、おれたちは、人数いるから……」
集まっていた放送部員たちは、ぶつくさいいながら、素直に斉藤遙の言葉に従う。
「……はい。
これで、今メアドを登録した人たちは、携帯からこのメアドにメールを送信するだけで、自動的にこのブログを更新できるようになりました。
写真も、メールに貼付するだけで、ブログのほうに反映されます。
これで、皆さんの携帯は、取材のためのツールになりました。メールを打てば、皆さんの報告は、リアルタイムで全世界に向けて発信されます……」
斎藤遥がそういうと、放送部員たちの間に、軽いどよめきが起きる。
斎藤遥の説明が一通り終わると、有働勇作が、この周辺の地図を広げて、後を引き継いだ。
「……そういうことで、今日の放課後から、本格的に取材を開始します。
割り振りは……」
放送部員たちが、斎藤遥と有働勇作を中心にして打ち合わせをしている横では、パソコン部員たちも、楓と茅の二人を中心にして集まっていた。
「……今、インストールしているシステム、まだまだ未完成だけど、基本的な機能はだいたい使えるの……。
後は、使いながら、バグを取ったり機能を追加していくの……」
「……それはいいけど……」
堺雅史は、呆れたような驚いているような、複雑な表情をしている。
「これ……君たちが、組んだの? たった一晩で……」
「……改変して使用してもかまわない、というプログラムが、ネット上にあったの。それで、できるだけそれを使うようにしたの……」
「いや……それでも……。楓ちゃんも、だけど……。
茅ちゃん、プログラムの経験、昨日までなかったんだよね……」
「昨日、ネット上のドキュメントを参照して、覚えたの」
茅がさりげなくそう言い放つと、パソコン部の部員たちは、揃ってぽかんと口を開けたままになった。
「……今日の放課後、茅と楓は、用事があるからこっちには顔を出せないけど、このシステムはもう使えるから、これで仕事を割り振って、細かいパーツを分担して作っていくといいの……。
協同作業用のスケジュール管理システムも組み込んで置いたから、テストも兼ねて、それも使ってみて欲しいの……。
マニュアルは、このファイルで、分からないところとか改良点とかあったら、メモしておいて欲しいの……」
予鈴がなって、昼休みが残り少なくなった事を告げると、楓や茅、堺雅史は、自分の教室に帰って行った。
「……天才って……本当にいるもんだな……」
その背中をみながら、パソコン部の誰かが、ポツリといった。
放課後になると、茅と楓は一旦帰宅せず、まっすぐに美容院に向かった。撮影用の衣服も用意するから、制服姿のままでいい、と、玉木にいわれていた。
「沙羅双樹」という名の美容院は、真新しいマンションの一階部分が店舗になっており、窓がかなり大きく切られていて、採光が良く、同時に、店の中の様子がよく見える構造となっていた。
おかげで、茅と楓が到着した時、店の外からでも既に到着していた三人組の姿が丸見えだった。三人はポンチョを着せられて椅子に座らせられており、その周囲には、八人ほどの店員さんが立っていて、手や口を動かしている。
機械的、効率的に髪をカットしている、というよりも、いろいろ試しながら少し切っては、周囲の人間と意見交換をし、また切る、といった感じで……三人は心持ち緊張した表情で、堅くなって椅子に座っていた。
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つづき]
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