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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(117)

第五章 「友と敵」(117)

 翌朝のランニングは昨日と違って一族の誰かが乱入して荒野たちに挑戦くる……などということもなく、無事に始まり、終わった。
 実は荒野は、
『……毎朝、一族のうちの誰かがおれたちに挑戦してくるのが日課になってしまったら、どうしよう……』
 とか心配をしていたのだが、現在の所、それは杞憂に終わったようだ。
 昨日、秦野の三人に、こちらの三人をぶつけたのが功を奏したのか、それとも、涼治の薦める検査に協力するなどして、公開できるデータを全て公開しているから、今の時点ではわざわざ直に確認にくる必要もない、と、思っているのか、判断できないのだが……。
 とりあえず、平穏であることは、いいことだ……。
 と、荒野は、心底そう思った。

 いつもの通りランニングから帰り、茅と一緒にシャワーを浴び、制服に着替えて鞄を持って外に出ると、ぼちぼちいつもの連中が集まっている。
 全員集合し、ぞろぞろと学校に向かうと、飯島舞花が笑いながら、昨日、商店街のサイトをチェックしたら、「イベント情報!」というけばけばしいバナーがあり、そこをクリックしたら、ウィンドウ一面に「例の恰好」をした才賀孫子が大写しになっていて驚いた、と、報告してきた。
 当の孫子によると、人集めのイベントとして、二月前半の二週間を「バレンタイン・セール期間」として、商店街をあげて「ゴシック・ロリータ・コンテスト」を執り行う、という。
「……なんで、バレンタインで、ゴシック・ロリータなんだよ……」
 半ばあきれ顔の荒野がそう呟くと、
「バレンタインにチョコレート、土用の日に鰻……どちらもこじつけなら、こちらでもこじつけですわ……」
 孫子は、澄まして答える。
 荒野は、内心で「こいつ……どさぐさに紛れて、自分の趣味、ごり押ししたな……」とは思ったが、口に出してはなにも言わなかった。
 同行していた他の連中も、全員、なにかいいたそうな顔はしていたのだが、そのことについてはあえてなにもコメントしなかった。
 懸命な判断といえる。

「あ。そうだ。鋼蔵のおっさんには、ちゃんと許可とってるのか?」
 荒野としては、そっちのほうが気になった。
 鋼蔵と孫子の立場を考えれば、ここまで大ぴらに顔出しするのは、まずいんじゃないだろうか……。
「もちろん!」
 孫子は、即答する。
「別に、あの恰好で暴れよう、っていうわけではなし、それに、玉木さん経由でも伯父様に対して説得工作が行われ……商店街の方々を助ける人助けとして、あのファッションを役立てるのだ……と、いうことを、よーく理解してくださいましたわ……」
 ……玉木……口八丁手八丁で、丸め込んだな……と、荒野は思った。
 もちろん、普通なら、年端もいかない玉木にいいように手玉に取られる鋼蔵ではないのだが……以前、玉木は、「孫子の友人」と名乗っている。
 どうやら以前から、同年配の友人が極端に少なかったらしい孫子の「自称・友人」に懇願されて、鋼蔵から折れてくれた……というあたりが真相だろう……と、荒野は推測する。
 鋼蔵は、孫子には、かなり甘い。
 手元に置いておくと際限なく甘やかしてしまいそうだから……というのが、孫子を現在の住所に下宿させている最大の理由である。

 それから、その玉木珠美が荒野たちに合流してきて、商店街のゴシック・ロリータ・コンテストとか、学校対策などの話しになった。
 玉木の話によれば、まだネット上での広報してしかいないコンテストのことが学校側に知られるまでに、まだ数日の猶予があろう……ということで、その理屈は荒野にも納得できるのだが、同時に、偶然に任せる部分が多く、ずいぶんと杜撰な見積もりだな、と思う部分もあった。
 とはいえ、……なんとか人を集めたい、という商店街の希望と、趣味が高じた孫子自身の希望とが一致し、ノーギャラで協力している今回の件が……仮に、学校側にばれたとしても……せいぜい職員室に呼び出されて注意を受けるくらいで、本格的な処分を受けることはないのではないか、という気もする。
 注意をする側も……強いていえば、「孫子が目立った」ということくらいしか、攻撃材料がないのだ。
「学生らしくない」程度のことはいわれるかも知れないが……人に迷惑をかけているわけではないし……逆に、協力した商店街には喜ばれている状態で、無理矢理、孫子一人になんらかの処分を下したら……かえって、学校側の姿勢に対する周辺地域の反発が大きくなる……と、予想できた。
 だから、学校側は、今回の件については、仮に気づいたとしても「見て見ぬふり」を決め込む可能性が大きく、そうでなかったとしても、孫子が職員室に呼び出され、「あまり派手にやるな」と小言をいわれる程度で終わる公算が、大きい……。

 荒野がそんなことを考える間に、玉木と楓、茅の三人は、ボランティア関係の段取りを話しはじめている。
 茅と楓が、不特定多数の参加希望者に、効率的に仕事を割り振るシステムの骨組みが、だいたい出来上がった、と伝えると、玉木は「放送部のほうにも発破をかける」と楽しそうに頷いた。
 早速、昼休みに、コンピュータ実習室で、放送部有志とコンピュータ部有志による合同打ち合わせを行うことになった。今日の放課後、荒野、茅、楓の三人は、美容院に行く約束になっていたため、今日集まるとすれば、タイミング的に昼休みくらいしか空いていない。
 緊急招集に慣れている放送部は、玉木が声をかければいつでも集合してくれる、と、玉木は無意味に胸を張ってみせた。パソコン部のほうは、休み時間にでも堺雅史に相談すれば、昼休みまでには集合の連絡が伝わる筈だった。

「ちょっと……」
 休み時間になって、樋口明日樹が珍しく荒野に声をかけてくる。
 同じクラスではあるが、樋口明日樹は、普段、荒野や孫子とは、それほど頻繁に話したりはしていなかった。かといって、邪険にされているわけでもないのだが……。
 朝の登校時のように、多人数でわいわいやっている時ならともかく、教室内で荒野や孫子のように「目立つ」生徒に声をかけるのは躊躇われる……と、明日樹は感じているらしい。
 この国に来てからこっち、そのように距離を作られることは珍しくはなかったので、荒野はそうした明日樹の態度を特に気にとめてはいなかった。
「今朝話していたようなこと、なんだけど……」
 樋口明日樹は、妙におどおどした口調で、荒野に話しはじめる。
「あんだけ大げさな話しになっているとは……思わなかった……ので、その……出来れば、狩野君のほうは……巻き込まないでくれるかな?」
 荒野は、ほんの数秒、考える。
 彼女は、心配している。
 樋口明日樹は、大衆に埋没することとを美徳とする典型的な日本人だ。そして、明日樹は、「狩野香也」に対しても、その「普通の人々」であってくれ……と、願っている……。
 彼女の気性を考慮すれば、実に自然な発想だとは思うのだが……。
「……残念だけど、それを決めるのはおれじゃあないよ……」
 荒野としては、そういって肩をすくめるしかない。
「それは、香也君自身が選択することだし……。
 どうしても、というのなら、香也君を直接、説得してくれないかな……。
 おれから彼にどうこうしろ、って説得するのは……なんか、違っているよ……」

[つづき]
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