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彼女はくノ一! 第五話 (77)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(77)

 途中、才賀孫子と飯島舞花が、かなり大きなボールに、比喩ではなく「山盛り」にしたおにぎりの差し入れに来たり、そのまま飯島舞花が玉木にとっつかまって半ば無理矢理モデルの仲間入りになったりしたのだが、それ以外にこれといった障害も起こらず、一連の撮影作業はスムーズに進行した。
 どうやら玉木珠美は、はじめっから舞花も巻き込むつもりで、「差し入れ要請」のメールを送信したらしい。
 才賀孫子については、本人によれば「……もう、十分に撮影していただきました……」とのことだった。
 その背後で貸衣装だかコスプレ受注生産業者だかの会社の人たちがうんうんと頷いていたから、楓たちの知らないところで、過去、なにかしらの攻防があったのだろう。

 その攻防は、今、飯島舞花の身の上に起こっていて、更衣室代わりにしている奥の部屋から、ともすれば半裸のままでも逃げ出そうとする飯島舞花を、たまたま周囲にいた数人がかりで奥に押し戻す、ということが何度か繰り返されて、撮影の手伝いに来ていた放送部の男子生徒たちの眼を楽しませていた。
 なにかの遊びと思ったのか、舞花の押し戻し作業に三人組が加わりはじめると、とたんに舞花の脱走成功確率が極端に減少した。
 それまでは、体の大きさと普段の部活で鍛えた体力に物をいわせて、組み付いてきた女性たちをまとわりつかせながら、ずりずると前に進むことも可能だったのが、三人組の誰か一人が舞花の腰に組み付いて押すと、途端に押し戻される。
 そうした経緯を経て、不承不承、飯島舞花も即席モデル業として協力することを承諾した。
「……玉木……うらむぞぉ……」
 時折、弱々しくそんなことをいって、玉木珠美のほうを横目で睨んだりするのだが、もちろん、その程度のことで玉木がひるむわけもなく、
「……どうせなら、柏さんところの姉妹もひっくくってくれば良かったなぁ……。
 妹さんのほうはともかく、おねーさんのほうは結構乗り気になってくれそうな気もするし……。
 あ。後、もう一人の狩野香也君も呼んできて、スケッチでも描かせて置くんだった……」
 とかなんとか、ひとしきり身勝手なことを、ぶつくさと呟いている。

「ここには……この三人の子たちとか、今の背の高い子とか……いろいろな体型のモデルさんがいて、しかも全員、ロハで使えるなんて……」
 貸衣装だかコスプレ受注生産業者だかの会社の人は、そういってうっとりとした表情を浮かべていた。
 何パターンかのゴスロリ系の衣装を撮影し終えた後、今度は、モデル全員で、アニメだかゲームだかマンガだかのキャラクターのコスプレをさせられた。
 撮影に協力している人たちはプロ意識を持って接してくれるので、特に問題はないのだが、原色バリバリだったり意味不明に露出度が高かったりするコスチュームをとっかえひっかえ着替えて撮影している様子は、店の外からも丸見えであり、学校や職場、あるいは買い物の帰り道、犬の散歩などなどでたまたま通りかかった人たちが足を止めて、窓越しに美容院の中で繰り広げられている光景を、眼をみひらいて擬死している……ということも少なくはなかった。
 もともと、さほど人通りの多くはない道だったことと……たまたま足を止めた人がいても、すぐに、見てはいけない物をなにかの弾みでみてしまった……といった表情で視線をそらし、足早に美容院の前から去っていくので、人垣ができる、ということもなかった。
『……だけど……』
 明日あたりには、学校とかこの近辺では、確実に噂にはなるだろうな……と、楓はそう思った。

 三人は喜々として次々と着替えては楽しんでいた。茅の表情は、例によって読みにくかった。その他のモデルたちは、撮影用に笑顔を作ろうと努力はしていたが、その笑顔は微妙に強ばっていた。

 そんなこんなで、日付が変わる前に、どうにか衣装会社が用意したコスチュームも底を尽き、撮影作業が終わった。
 撮影作業に従事した人々は、誰もが、疲労と高揚が入り交じった顔をしている。
 が、明日は平日であり、学生たちにも社会人たちにも、かえるべき日常があるので……お開き、ということになった。
 早急に後片付けをし、その夜は解散、ということになった。

「……うぃーっす……」
 翌朝、いつものように登校途中に合流してきた玉木珠美は、その場にいた全員の中で一番憔悴しているように見えた。
「昨日の件……ほんっとうに恨むからな……玉木……あんな恥ずかしい恰好させて……」
 普段よりも数段元気のない声で、飯島舞花はそんなことをぶつくさいう。
 飯島舞花は、玉木珠美に次いで、疲労の色が濃かった。
「昨日の? なに、まーねー?
 昨日、玉木さんと、なんかあったの?」
「なんでもない! なにもない!」
 栗田精一がそう問いかけると、舞花は、この少女には珍しく高圧的な声を出した。
「……あっらー……」
 玉木珠美が面白そうな顔をして、栗田と舞花の顔を見比べる。
「……今さら、隠しても……すぐばれるのに……。
 栗田君、栗田君……これ。
 後で、このアドレスに接続してみなさい。面白いものが観られるから……可愛い彼女の……」
 玉木は、飯島舞花に口を塞がれて、最後まで言い切ることができなかった。
「なんでもない。なんでもない……。
 ほっっとうに、なんでもない……」
 掌で口を塞がれ、もがもが何かいおうとしている玉木は無視し、舞花は栗田に言い切った。
「なんでもないからなぁ……っと。
 その紙、没収……」
 何事か、と玉木を羽交い締めにしている舞花を見上げている栗田の手元から、舞花は、玉木が栗田に手渡した、URLアドレスが記された紙切れを奪い取り、即座にびりびりに破いて、その場に捨てた。

 週明けには、自分たちのポスターが町のあちこちに貼られることになる、とは、この時点では夢にも思っていない、飯島舞花だった。

[つづき]
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