2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(119)

第五章 「友と敵」(119)

 その日は、いわば、学校帰りに慣れない仕事を長時間やらされた形で、茅はすでにイッパイイッパイだったし、荒野も、肉体的にはともかく、精神的には疲弊しきっていた。だから、帰宅してもろくな会話もせず、ざっとシャワーを浴び、二人してベッドに倒れ込むようにして潜り込み、そのまま眠りにつく。
 そして、いつもより深い深い眠りについて、窓からなされたノックで、荒野は目を醒ました。
 眼を醒ました途端、玄関からではなく窓からやってくる来訪者の存在に緊張しながら、荒野はベッドからそっと離れ、窓から直接自分の姿が確認できないように注意しながら、窓際まで素早く移動する。
 そして、注意深くカーテンを細めに空け、そこでテンと眼があって、一気に脱力した。
 テンは、窓枠のサッシに片手でぶら下がっていた。
「……おい、テン、お前なあ……」
 がっくりと肩を落とした荒野は、カーテンを全開にして、窓を開ける。
「用があるなら、玄関から来いって……朝っぱらからそんなところにぶら下がっているのを誰かに観られたら、絶対、不審に思われるだろう……」
「……い、いや……いつもの時間に出てこないから、どうしたのかなぁ……って……」
 なお文句を言いつのろうとする荒野から、何故か、テンは露骨に眼をそらしている。
「それよりも、その……かのうこうや……早いとこ、なにか着てくれないか?
 そのぶらぶら、見苦しい……」
 そういわれて、荒野は、初めて、自分が全裸であることに思いいたった。
 茅と一緒に寝るときは、いつもこういう恰好なので、荒野にとっては不自然な恰好ではない……の、だが……窓から入ってくる朝の空気は、肌に冷たかった。
 窓から侵入してきた冷気とテンと荒野のやりとりによって眼を醒ました茅も、初めのうちは眠そうに眼を擦っていたが、時刻を確認し、寝坊したことを自覚すると、途端にしゃんと背筋を伸ばし、軽い足を足音を残し、寝室にしている部屋から着替えに出て行った。
 荒野も、テンに「下で待っていろ」と言い捨てて、すぐに茅の後を追う。

 そんなこんなでもはや日課になっているランニングが始まる。
「朝から変な物、見せられた……セクハラ……」
「だから、あれは、お前が窓なんかノックするからだろうが……」
 併走しながら、ぶつくさいっているテンと、それに応じている荒野。
「……やっぱり、荒野、楽しそう……」
 どことなく、冷たい声でポツリという茅。
 笑いをかみ殺しているガク。
 おろおろと狼狽し、みんなの顔を見渡すが、結局はなにもいえないノリ。
 もともと奇妙な組み合わせはあったが、今朝はそれに加えて、全員挙動不審だった。
 橋を渡り、中州の河川敷に降りて、茅が自分で作ったメニューをこなしはじめると、三人は、ポケットから六節棍を取り出して、一対一とか一対二での組み手をはじめる。
 荒野は少し離れた場所でしばらく見物していたが、三人が一息ついたところを見計らって、
「その棍、もうボロボロだな……」
 と声をかけた。
「ああ。そう……」
 タオルで汗を拭いながら、ガクが答える。
「もう、ボロボロ。でも、今日、テンが新しいのくれるって……」
「うん。
 ノリ、明日からしばらく、真理さんと遠いところにいくから……その前に、間に合わせる……」
 テンも、ガクの言葉を裏付けた。
「材料は、トクツーさんがくれた。
 それ以外にもいろいろ、パワーアップ装備は考えているけど、まずは手持ちのものを新調しておかなくてはね……」
「ま……用心深いことはいいことだな……」
 荒野としては、とりあえず、当たり障りのないことをいっておく。
「しかし……そうか、ノリ。
 明日からしばらく真理さんについていくのか……。
 大丈夫か? ガクやテンと、長く離れたこと、ないんだろう?」
「かのうこうや……ひょっとして、ボクのこと、バカにしている?」
 荒野にそういわれたノリは、瞬時にむくれ顔になった。
「ボク、ひとりぼっちが寂しいとか……そんなお子様じゃない!」
「そうかそうか」
 荒野は楽しそうに頷いた。
「寂しくないのなら、一人でいろいろ見て回るのは、いい体験だ……。
 真理さんには迷惑かけるなよ……」
「かけないよ!」
 ノリは、さらにむっとした表情になる。
「しかし……ノリは、真理さんと一緒。
 テンは、なんか徳川と一緒になってごちゃごちゃやっているらしい……」
 荒野は、ガクのほうに視線をむける。
「ガク……お前、一人の時、なにやってんの?」
「本、読んでいる!」
 そういって、ガクは胸をはる。
「図書館から借りてくるのもあるし、羽生さんも、マンガ、いっぱい持っている!」
「ガク、読むの早いんだよ……」
 ノリが、ガクの言葉を補足した。
「制限いっぱい借りてきた本、一日で全部読んじゃう……」
「マンガは、ノリのほうが読むの早いじゃないか……」
 ガクは、照れたような顔をして反論した。
「字の本を読む時より、マンガを読む時のほうが時間がかかる、なんて、ガクくらいだよ……」
 テンが、そんなことをいいだすと、ガクは、少し狼狽えた。
「だ、だって……マンガ、読むの難しいじゃないか! 普通の本は、読む方向決まっているけど……マンガだと、読む順番、時々分からなくなるし……それに、台詞の部分と絵の部分、同時に読むなんて器用なこと、なかなかできないよ!」
 マンガに関しては……ガクは、かなり特殊……というか、異様に律儀な読み方をしているらしかった。
「あのなぁ……ガク……普通、マンガって、てきとーに読み飛ばしても大丈夫なようになっているんだが……」
 荒野とて、日本のマンガに親しむようになってから日が浅いのだが……三島百合香とか羽生譲とか、そっちに造詣の深い人々とつき合ううちに、それなりに読むようになってはいる。
 また、通勤や通学時に読み捨てにされる週刊マンガ雑誌の消費のされ方、などの周辺知識も、それなりに増えている。
「平均的な日本人はな……駅のキオスクで買った雑誌一冊を、五分から十分くらいで読み通して網棚に置いていくとか、降りた駅で捨てていったりするんだぞ……」
「う……嘘っ!」
 荒野がそう説明すると、ガクはかなりショックを受けた顔をした。
「嘘じゃない。
 日本のマンガって……特殊な例外を除いて、そういう読み捨てが前提のジャンクなポップカルチャーなんだそうだ……」
 荒野が、以前、三島から講釈された知識を披露すると、ガクは、眼を見開いた。
 ガクにとって……よほど、衝撃的な事実だったらしい。

[つづく]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのなな]
アダルトAOS エログはHなブログランキング アダルト専門ランキング アダルト総合検索 Goggle ADULT WALKER サーチデアダルト  01アダルト・ネット  アダルトの壺 オトナなび  アダルトランクタウン


Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ