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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(120)

第五章 「友と敵」(120)

 登校中、玉木珠美と飯島舞花がいつもより多少うるさかったことを除けば、荒野にとってのその日は、極めて平穏な一日だった。
 何事もなく一日に受けるべき授業をすべて済ませ、調理実習室に向かう。
 今日は、部活がある日だった。無断欠席しても特に咎められることはないのだが……最近、料理研究部の部活がある日には、部活動がはじまって二時間もすると、飢えた野獣のような運動部員たちが集まってくるようになっていた。
 料理研の部員は荒野以外、全員女生徒であり、汗まみれになって今にも襲いかかって来そうな運動部員たちの相手を彼女らだけに押し付けるのも気が引けるので、荒野は極力部活を休まないようにしている。

 調理実習室にいくと、料理研の部員たちがひとつのテーブルの取り囲んでなにやら話し込んでいた。
「……どうしたの?」
 荒野が声をかけると、
「あ。加納君……」
 と、顔をあげ、一人の女生徒が代表して説明してくれた。
 運動部にできた料理を提供するかわりに、食材の差し入れを受け入れる……ということを、料理研は少し前から実施していたが、また材料がブッキングしたらしい……。
「……今度は、蜜柑か……」
 段ボールに三つ分か四つ分くらいの蜜柑が、テーブルに山となっていた。ビニール袋や紙袋に入ったものも多い。
「みんな、家で余ったのをそのまま持ってくるから……」
 この間は、餅だった。
 ようするに、家で食べ切れない分を、腐れたり痛んだりするよりは……と持参してくるのだろう。
 だから、季節物の食材は、ブッキングしやすい。
「で……こんなにいっぱい、どうしようかって……。
 蜜柑って、おこたで生で食べるのが普通だから、料理ってみんなそんなに思いつかなくて……」
「……そうだな……」
 荒野は、少し考えた。
「ジェラート……なんてどう?
 運動部のやつら、どうせ、汗だくになってここにくるから、冬でも冷たいもの、喜ぶと思うけど……。
 ミキサーと生クリームくらいは、あったよね……。
 牛乳と、後、氷くらいあった方がいいか……おれ、今、ちょっと走って買ってくるよ……」
 ジェラートの調理法は簡単だ。材料のピュレ作り、クリームとか牛乳と混ぜて冷やし、固まりかけたところで、何度か取り出して撹拌する。
 そのままでももちろん食べられるが、場合によっては氷と一緒にミキサーにかけてもいい。そうすると、飲みやすくなる……。
 本格的に作るとなると、時間をかけて冷やさなくてはならないが、今回はそういう余裕もなさそうだ。ピュレと買ってきた氷や牛乳と一緒にミキサーにかけて砕けば、それらしいものができるだろう。
 荒野はうろ覚えのピュレの作り方をメモにとって他の部員たちに渡し、自分は学校から一番近いコンビニまで買い物にでかけた。

 即興に近い形で作った割には、出来上がったジェラートは、運動部員たちには好評だった。
 適度な甘みがあり、冷たく、喉を潤す。激しい運動の後には最適だ……と、ジェラートを口にした運動部員たちは口を揃えた。
「加納君加納君……」
 そうして集まった運動部員たちの一人、荒野と同じクラスで野球部に所属する嘉島が、ジェラートの入った紙コップを片手に、荒野を手招きした。
 嘉島は、まず自分の携帯の液晶に写ったある映像を荒野にみせ、近寄った荒野の耳に口を寄せて、そっと囁く。
「……これ、君……なんだろうな……。
 美容院で、お客さんにこういうポストカード、配っているって……姉から聞いたんだけど……」
 聞くところによると、嘉島の姉は大学生であり、今日、たまたま立ち寄った美容院で……このポストカードを手渡されたのだという。
 嘉島姉は、一目見て、それが嘉島の話にでてくる風変わりな外見をした、嘉島のクラスメイトだと確信した。
 ケーキ屋の店頭でみられるネコミミ少年の顔、だったのだ。
「ああ。
 ……これ……確かに、おれ……」
 荒野は心持ち青ざめた顔をして、頷いた。
「でも……カットモデルやったの、昨日なのに……対応が、早いなあ……」
「今はねぇ……デジタルデータさえあれば、家庭用のプリンタでも、かなり画質のいいプリントができるんだよ……」
 荒野の反応をみて、嘉島はため息をついた。
 ひょっとすると、荒野に同情しているのかもしれない……。
「それよりも、加納君……その、姉の話によると……。
 その美容院、お客さんとか予約を入れた人に、片っ端からこのポストカードを配っているそうだから……君……いや、君たち……また、ここいらで、顔が知られることになるよ……」
 嘉島の話しによると、ポストカードは、昨夜、カットモデルをやった者、全員の分、用意されているという……。
「……姉と同年配の人たちの間では、割と噂になっているというし……。
 姉は早い時間にいったから、まだ飛び入りで大丈夫だったけど……帰る頃には、二週間だか三週間先まで、予約が埋まってしまったって話で……」
 そのポストカード欲しさに、普段、その美容院を利用していない人たちまでが、いっせいに予約をいれたらしい……。
 なんのことはない。
 荒野たちが、カットモデルをするだけで……その美容院は、強力な販促アイテムを手に入れられたようなものだった……。

『カットモデルだけで……これか……』
 帰り道、荒野は少し憂鬱な気分になった。
『……これで……あの仮装の映像まで公開されたら……いったい、どうなるんだろう……』
 少し憂鬱な気分になりながらも、荒野は商店街に足をむける。
 昨夜は、結局、さしいれのおにぎりを食べて済ましてしまったので、今晩はちゃんとした食事にありつきたかったし、また、週末でもあるので、少し余分に買って買い置きの備蓄食量を増やしてもおきたかった。
 商店街のあちこちに、あの格好をした孫子のポスターが貼られている。
 くすんだ色合いの寂れかかった商店街に貼られるには不釣り合いなポスターだ……と、荒野は思ったが、そのポスターに印刷された告知によると、明日から二週間は、コンテストにエントリーした人達のPR期間であり、その間、近郊から、ポスターの中の孫子と似たり寄ったりの格好をした少女たちが大挙してこの商店街に押し寄せてくる、という。
 玉木や羽生の話によると、そうした少女たち目当ての男性客も大挙して押し寄せ、特に週末などはかなりの人手が予測される……ということだった。

 すでに顔見知りになっている商店街の人々は、常連客である荒野には、愛想がよく、たいてい、いくらか余計に商品を包んでくれるのだが、この日は、いつも
にもましてにこやかに荒野を迎え、おまけをつけてくれるのも、普段よりずっと気前がよかった。
 荒野には、商店街の人たちの考えていることが手にとるように分かった。
 年末時の空前の盛況を再現されることを望み、また期待してもいる。
『……本当に、そんなにうまくいくんだろうか?』
 と、荒野は思った。

 マンションに帰って、着替え、米を研ぎ、夕食の下ごしらえを始めたところで、茅が帰宅した。茅は、下校時刻ぎりぎりまで楓やパソコン部の部員たちに混じって、いろいろやってきたらしい。
 茅は荒野と一緒に夕食の支度をしながら、かなり詳細な作業内容まで説明してくれたが、ソフト開発についての予備知識を持たない荒野にとっては、チンプンカンプンな内容だった。

 いつもより早めに二人で夕食を食べ終えると、茅はもはや習慣となりつつある食後の紅茶をいれてくれ、その後、昨日、今日と二日連続で届いたネット書店からの荷物を解きはじめる。
 荒野は、帰りに寄った時の商店街の人たちの態度が少し気になったので、自分のパソコンを立ち上げて商店街のサイトを開いて見た。
 サイトのトップページに『イベント情報』のバナーがあるのは一昨日みた通りだったが、そのバナーの横に「new」という蛍光色の文字が点滅しているのを見つけた時、荒野はかなりイヤな予感に襲われた。

 荒野は深呼吸して、気を落ち着かせてから、そのバナーをクリックする。

[つづき]
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