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彼女はくノ一! 第五話 (80)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(80)

 真理とノリ抜きの朝食を終え、居間でお茶を飲んでいると、珍しく香也の携帯が鳴った。
 年末に真理に携帯を買ってもらったものの、知り合いが少ない香也の使用頻度はさほど多くはない。この場にいる人々と、それに、樋口明日樹や荒野との連絡用に使われるくらのものだった。
 当然、携帯のアドレス帳に記憶されているデータ量もたかが知れている。液晶画面を確認しても、アドレス帳に登録していない相手から、ということしか分からなかった。
「……もしもし?」
 とりあえず、出てみる。
『あ。狩野君ですか? 朝早くすみません。有働勇作です』
 有働勇作は、学年が下の香也に対しても丁寧な言葉遣いをする。
『……今日のスケッチなんですが……何時頃から来られますか?』
 そういえば、「今日、行く」ということは約束していたが、詳しい日時は相談していなかった。
「……んー……。
 ぼくのほうは、午前中からでもいいですけど……」
 香也は、反射的にそう答える。
 特になにか用事があるわけでもないし、早くはじめれば、描き上げるまでの時間もそれだけ短縮できる、という計算もあった。
『そうですか。それじゃあ……。
 今からそちらに迎えに行っても、いいでしょうか? 何カ所か案内したいし……。
 もう、朝ご飯は?』
 香也が、「朝食は済ませた。今すぐでも構わない」と答えると、有働は「今日はよろしくお願いします」といって通話を切る。
 通話を切ってあたりを見渡すと、香也以外の住人は、掃除や洗濯、食器の片付けなどを分担してはじめており、その場に居辛くなった香也は、飲みかけの湯飲みを抱えて自分の部屋に移動することにした。
 有働が迎えに来るまで、そこに居るつもりだった。

 それから十五分もしないうちに、有働勇作が香也を迎えに来た。
「え? もう行くんですか?」
 玄関に出迎えた楓が、そんな声をあげる。
「もっと遅い時間だと思ってました!」
 まだ、九時前、だった。
 学校が休みであることを考えると、出かけるのには早い時間である。
 楓は、香也の部屋に香也を呼びに行き、「すぐに支度しますから、ほんの少し待っててください」といって、自分の部屋にとって返す。
 上着を着てスケッチブックを抱えた香也が外に出ると、自転車のサドルに軽く腰掛けた有働勇作が挨拶もそこそこに、「お休みの所、どうもすいません」と頭を下げた。
 香也も挨拶もかえし、「早速……」と、有働がポケットから取り出したA4のプリントアウトを取り出す。
 そこにはこの付近の地図がプリントアウトされており、蛍光色のサインペンで、所々、印が付けられていた。有働の話しによると、その印のついた場所が、この付近の「不法ゴミの溜まり場」であるらしい。
「あ。狩野君……自転車は、ないんですか?」
 香也は首を振った。
 香也は自転車に乗れないわけではないのだが、極端なインドア派でもあり、この二~三年、まるでペダルを踏んでいない。庭に二台ほど、放置されたままの自転車があるにはあるが、錆だらけであり、一度オーバーホールでもしなければ、とても使い物にならないだろう。
「……そうですか……。
 まあ、今日は、この天気ですから……自転車よりも傘の方が必要だとは思いますが……」
 香也の説明を聞くと、有働は頷いて、それから空を見上げた。
「あ……振ってきた……」
 ちょうどその時、ポツリ、と、大粒の雨が有働の顔に落ち、いくらもしないうちに、本降りの雨となった。
 香也は玄関に待避し、有働は自分の自転車を狩野家の庭に置かせて貰ってから、玄関に入ってきて、ショルダーバックから折りたたみの傘を取り出した。
「どうします、狩野君?
 もう少し、降り出すのが遅かったら良かったんですけど……急ぐ要件でもありませんし、今日は、中止にしておきますか?」
 有働は、香也の顔を見て、そんなことをいいだす。
 香也は、
「……んー……」
 といって、しばらく考えてみたが、結局、
「早く片づけたいから……」
 と、そのまま決行することにした。
 香也がそう返事をした時、支度を終えた楓が、ばたばたと玄関にやってきた。

 楓が傘を持ち、香也がゴミの山をスケッチする中、有働は、
「こんな天気の中、どうもすいませんねー……」
 と、しきりにすまながった。有働の性格、というのあったが、この季節に降られると、風も冷たいし、たしかに、体の芯から寒くなる。
 雲が厚いのか、昼間なのに、ずいぶんと暗かった。
 そんな中で、香也は、シャーペンを動かす。
 あくまで感じを掴むためのものなので、最低限の、ごく簡単な線しか描いていないのだが……香也は、目の前の情景に、ある種の迫力を感じ取っており、動かす手が止まらない状態になっていた。
 薄暗い中、自分の住む場所、よく通る道のすぐ近くに……このような混沌とした場所がある、ということを、香也は今まで知らないでいた。
 車輪がとれた三輪車の残骸、かつてはタンスだったらしい木片、布の塊、スプリングが丸見えになったベッドマット、積み上げられたタイヤ、ラジカセ、扉にシールが貼ってある冷蔵庫、雨に濡れるが儘になっているぬいぐるみ……。
 かつて人に必要とされ、使用され、今は誰からも顧みられなくなった物体の数々……の存在感が、香也を圧倒する。
 降りしきる雨と、周囲の薄暗さが、その場所に遺棄された物たちの心情を代弁しているような気持ちにもなって……そういう意味では、この悪天候でさえも、香也の絵とモチベーションを上げる働きをした。

 香也は、有働がかける声にも、手にかかる横殴りの雨にも反応せず、何枚も何枚もスケッチをとり続けた。
 香也がスケッチをしている間、有働も、持参したデジカメで写真を撮っている。
 時折、手を止めた香也が、「それ、貸して」と有働からデジカメを受け取り、一枚とか二枚、写真を撮る。
 どうやら、後で本番の絵を描くときのための参考にする写真らしい。

 二時間半ほどの時間をかけて、三カ所ほどを周り、有働が、
「もう、お昼ですし、この天気ですので、今日はここまでにしておきましょう……」
 といったので、その日のスケッチは終わりとなった。
 香也自身は、まだ物足りないような気分もかなりあったが、一旦手を止めてみると、確かに手はかじかみ、体はどうしようもなく冷えている。
 有働と楓に即されて、香也は自宅に戻った。

[つづき]
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