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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(122)

第五章 「友と敵」(122)

 翌朝、荒野と茅は、いつもの時間に起きてランニングに出かける。三人組も一緒だ。特にノリは、今日の朝、真理と一緒に出かけるというのに、ギリギリまで日課をかえるつもりはないようだ。
 空は、漠然とした不安を抱きはじめた荒野の心情を反映するようにどんよりと曇っていた。茅によると、「予報では、今日は降るといっていたの」とのことだ。
 例の商店街のイベントが、今週末から本格的に始動する、ということだったので、この天気はあまり歓迎されないだろう……と、荒野は、そんなことを思った。

 いつものように河川敷に降り、茅が自分のメニューをこなしはじめたのを確認してから、荒野は三人組に向き直り、尋ねた。
「……な。お前ら……」
 珍しく神妙な顔をしていた。
「その……自分が、だな……。
 そこに存在しているだけで、周りの人に迷惑をかけているのか知れないって、思ったことは……ないか?」
「……それ、ボクたちのこと?
 かのうこうや、ボクたちのこと、そんなに迷惑?」
 最初に反応したのは、ガクだった。軽く眉をひそめている。
「いいや。お前らのことではない。どちらかというと……。
 おれ自身のことだ……」
「なら、いいや……」
 ガクは、明らかに安堵の表情を浮かべた。
「んっとねぇ……じっちゃんが、よくいってた……。
 人間って……人類って、ここまで数が増えちゃったから……ただ、存在しているだけでも、地球の環境に重圧をかけているんだって……。
 人間全員が、ただ生きて呼吸しているだけで、今の環境を壊す原因になっている、迷惑な存在なんだって……」
 荒野が頷くのをみて、ガクが言いかけたことを、ノリが引きつぐ。
「戦争があるのも、人口がここまで増えたのも、環境を破壊するのも……人間が動物の一種で、動物というのは、遺伝子の根底に子孫を増やすようなプログラムが植えつけられているから……そういうのって全て、人間が、本能に突き動かされた結果だって……じっちゃん、いつも、いってた……」
「でも……」
 ノリの言葉を、さらにテンが引き継ぐ。
「じっちゃん……。
 そうやって、戦争したり、環境を破壊したりしても……本当の意味で迷惑を被るのは、人間自身なんだって、そう、いってた……。
 地球の環境は、これまでにも何度も激変している。それこそ、人間がもたらす環境破壊なんて、問題にならないほどの変化を、何度も経験している。
 今の環境や生態系を壊すことで、一番損をするのは、人間自身なんだって……」
「だからね……じっちゃん、誰かに迷惑をかけたと思ったら、すぐに改めろ。
 それは、巡りめぐって自分自身に返ってくるから、って、教えてくれた」
 ガクがいう。
「それから……迷惑をかけていると思っても、相手にとってはたいして負担になっていない場合も多い、ともいってた……」
 ノリが、ガクの結論に補足する。

「……なんというか……」
 荒野は、複雑な顔をして、首をゆっくり左右に振った。
「お前らを育てたじっちゃんって人は……妙に哲学的というか、教養のある人だったんだな……」
 口には出さないが、心の中で「……そして、かなりの変人……」とつけ加える。
 年端もいかない、それも、島から一歩も出たことがない、子供たちにそんなことを言い聞かせていたのだとすれば……これはもう、かなりの「変人」だったのだろう……。
 愛すべき変人、だったのだとは思うが……。

 ともあれ、三人の話しを聞いて、荒野の心はそことはなく軽くなった。
 マンションに帰り、茅と朝食を摂ってから、掃除や洗濯に勤しむ。
 茅は、もう少ししたらプールに行くといっていたから、それにつき合うつもりだった。ノリはすぐにでも真理と出発するといっていたが、ガクとテンも、先週に引き続いてプールに同行するという。
『午前中は、そっちで潰れるとしても……』
 午後には、商店街のほうに寄ってみるかな……と、荒野は思った。

 一通りの家事を済ませ、家を出る前に雨が降り始めた。
「……仕方がない。歩いていくか……」
 そう、独りごちる。
 この間は羽生譲に車で送ってもらったが、歩きで行くとなると、市立のプールまではそれなりに距離がある。
 荒野の場合、距離は別に苦にはならないのだが、雨の中、濡れていく、という部分は、正直あまり気に入らなかった。
 茅が、ガクとテンの携帯に、「雨が降ったから、早めに家を出る」というメールを出して、予定よりも少し早く家をでることにした。
 家を出る支度をしている所に、飯島舞花からメールが入った。
「今週もプールに行くのなら、一緒に行こう」
 という内容だった。当然、栗田精一も同行する、とのことだった。
 水泳部に所属する二人は、冬の間の部活は、陸上トレーニングのみになっていたから、泳ぐ機会は多ければ多いほどいい、という。
 荒野たちが通う学校のプールは、野外に設置された普通のプールで、温水でも全天候型でもないのだった。

「……そうか、ノリちゃんは、真理さんと一緒に出発したのか……」
「うん。朝ご飯の前に……遠いところだから、途中で食べるんだって……」
 全員で傘を差しながら、ぞろぞろと歩いていく。その途中で、飯島舞花とガクがなにやら話し込んでいる。
「ガクちゃんやテンちゃんも……もう、こっちの生活に慣れた?」
「うん。かなり」
 テンが、頷いた。
「トクツーさんはいろいろ教えてくれるし、図書館に行けばいくらでも本は貸してくれるし……いいところだよね、ここ……」
「テンは、勉強熱心だからなあ……」
 ガクは、テンの言葉につけ加える。
「テン……家にいるときも、暇さえあればコンピュータ弄っているし……」
「そういうガクちゃんは、暇な時、なにをしているんだ?」
 飯島舞花がそう尋ねると、ガクは、
「寝てる!」
 と、即答した。

[つづき]
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