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第五章 「友と敵」(123)
行き帰りの冷たい雨がいささか煩わしかったものの、以前に来たときよりは同行する人数が少なく、また、この悪天候のせいで、プールを利用している人の数も若干少なくなっていることもあり、今回は、泳ぐこと自体をゆっくりと楽しむことができた。以前はなにかと忙しない印象が強かったが、今回はこれといったイベントやトラブルがあったわけでもないのに、以前と同じ二時間があっという間に過ぎ去る。
「……そういや、飯島たちは商店街には行くのか?」
帰り道、荒野は飯島舞花にそう尋ねる。
全員、同じ方向に帰るので、来たと時とまったく同じ顔ぶれである。
「うーん……。
この雨だからなあ……」
珍しく、舞花は言葉を濁す。
「予報で、今日は雨だっていってたから、買い物は、昨日のうちにやっておいたし……まあ、気が向けば、行くよ……」
……ひょっとして、この前、半ば無理矢理玉木に仮装した写真を撮られたのがトラウマになっているのかも知れない……と思いつつも、荒野は思い切って確かめてみた。
「飯島……この間、美容院で撮った写真……ポストカードにして商店街で配られているって……」
『……知っているか?』と聞こうとして、舞花に掌で口を塞がれた。
いきなり傘を放り出して荒野に組み付いた舞花を見て、他の同行者たちが眼を丸くしている。
舞花のそうした挙動に慣れているのか、栗田精一だけが冷静に舞花の傘を拾って、背伸びして舞花にさしかけていた。
「……しぃー、しぃー、しぃー……」
舞花は、荒野の耳元で、こそこそと小声で囁く。
「……せっかく、セイッチの耳に入れまいと苦労しているのに……それを、台無しにするんじゃない!」
小声であれなんであれ、舞花の声には気迫が籠もっている。
荒野が、舞花に口を塞がれたままコクコクと頷くと、舞花はようやく手を離してくれた。
「いや……まあ、あれだ。
こういう天気だし、必要もないのに外をぶらつくよりは……うちで勉強でもしような、セイッチ!」
無理に元気な声を出して、栗田の背中をかなり強く叩いてから、栗田が持っていた傘を強引にもぎ取る。
その舞花の背後、舞花からは見えない位置から、
『……なにかと大変だなぁ……そちらも……』
と、荒野は、栗田に向かって、視線で語った。
舞花にいやというほど背中を強打されながらも、栗田は荒野の視線の意味を理解し、そっと片眼を瞑ってみせる。
『もう……慣れました。こういうときは、適当に調子を合わせておかないと、さらにややっこしいので……』
栗田のリアクションを言語化すれば、そういう感じだろう。
男二人は、無言のまま、互いの心中を察し合い、頷き合う。
『ごく普通のカップル、というのも……』
荒野は、漠然とそんなことを思った。
『あれでなかなか、大変なんだな……』
マンションの前で、昼を食べてから玉木たちの手伝いに商店街に向かうというガクとテンと別れ、エレベーターで、別フロアの舞花たちとも別れた。
自分たちの部屋に帰り、二人っきりになった荒野は、
「今日、これからどうする?」
と、茅に確認する。
「午後から、学校に行ってみようと思うの。
パソコン部の人たちが集まっているというから、そちらを覗いてみたいの……」
という答えが返ってきた。
『……学校休みなのに、それ返上で頑張っているのか……』
と、荒野は感心した。
「じゃあ……おれもそっちに合流しようかな……。
あ。
この前みたいに、差し入れすることを考えておけばよかったな……。
材料、なんも買ってないや……」
「ご飯は? いっぱい炊けば、おむすびくらいなら……」
「ああ。そういや、この間、美容室の時のも、確かにうまかったな……。
炊飯器と鍋とで同時に炊けば、それなりの量、作れるか……」
「そっちは茅がやるから……」
米を磨ぐ準備をしようとする荒野の肩を、茅が叩く。
「……荒野は、先に、これを持っていって……」
茅はそういって、テーブルの上に揃えて置いてあった、プログラム関係の技術書の山を指さした。
昨夜、茅はページを一通りめくって、書いてある内容を丸暗記したものだった。
幾つかの方法を検討した結果、ネット書店の段ボールに詰め込んで持ち運ぶのが一番面倒がなさそうだ、という事になった。雨で段ボールが駄目になることも考えられたので、一冊一冊ビニール袋に入れてから段ボールに詰め込み、皿にビニール紐で縛って、持ちやすいように取っ手をつけた。
紙の束、であるから、茅にはかなり重たいだろうが、荒野にとってはどうということもない。傘を差しながら学校まで運ぶ、という前提があったから、重量よりも持ちやすさや、せっかくの本を濡らさないための工夫のほうが、問題だった。
一般人として徒歩で移動しても、ご飯が炊ける間に、一往復は余裕でできるだろう。本を置いてくるついでに、実質何人ぐらい集まっているのかも、確認しておきたかった。
制服に着替えた荒野は、荷造りしたばかりの本の箱を軽々と持ち上げ、もう一方の手に傘を持ち、
「じゃあ、先に行ってくる」
と茅に声をかけてから、マンションを出る。
外は相変わらず、陰鬱な天候で、雨が止む気配はまるでなかった。
『……今日いっぱいは、止まないな……』
傘を傾けて上空の雲の厚さを図り、荒野は、そう思う。
秋口に日本についた荒野は、今までの所、天候には恵まれていて、あまり雨に悩まされた、という記憶がない。
夏場には、かなり蒸す、とは聞いているし、確かに、荒野が知る外地と比較しても、水には不自由しない土地だ……とは、思う。
消毒液の匂いを気にしなければ、水道水をそのまま飲める……という国は、意外に少ないのだった。
荒野は、そんなとりとめのない事を思いながら、学校へと急いだ。
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つづき]
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