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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(16)

第六章 「血と技」(16)

「……ガクは、先生の車で近くの病院に行くの。テンも、それに付き添い。二宮舎人は、楓とガクに巻き付いた鎖をとってから、こっちに来るの……」
 部屋の隅で電話をかけていた茅が、荒野の方に戻って来る。
「……荒野、もう十分に栄養、補給した?」
「う……うん……」
 荒野は、あっという間にケーキ一ダースと二リットル入りのスポールドリンクを空にして、ケーキの箱の中に入っていた紙ナプキンで口の回りを拭っている。
「……じゃあ、こっち……。
 口の中と目が、残っているの……」
 そういって茅は、三島が持ち込んだ救急箱を空けて脱脂綿を取り出し、ちぎって丸めたものを、ピンセットの先で摘まみ、徳川が買って来た喉の薬の瓶に浸す。
「荒野……あーん、して……」
「い、いいよ……もう、かなり調子よくなって来たから……」
「駄目。荒野、声、ガラガラ……」
 荒野は睨みつけてくる茅と、茅が手に持つピンセット(の先についた脱脂綿からしたたり落ちる、毒々しい色の液体との間に、等分に視線をさ迷わせ)、そして、観念して口を大きく開ける。

 良薬、かどうかはよく分からなかったが、その薬はひどく苦かった。

 続いて茅は、目薬を取り出して、荒野の両目にじゃぶじゃぶと、大量に流し込む。こっちは、もともとヒリヒリしていた所にかけられたので、相応の痛みは感じたもの、すっきりとした感じもする。
「後は……ちゃんとしたお医者さんに、診てもらうの……」
 そこまでやって茅は、ようやく荒野を解放した。

 玉木玉美、徳川篤朗、有働勇作は、最初のうちこそ茅と荒野のやり取りを興味深そうな顔をして見ていたが、そのうち三人で肩を寄せ合って、ごそごそとなにやら話し込み出した。
 荒野は、なにやらイヤな予感がしたが、制止しようにも、茅が離してくれない。
 ……最近の荒野のイヤな予感というのは、かなり高い確率で当たるのだが……。

「ところで……」
 ようやく茅から解放されると、徳川篤朗が、荒野の方をみて、にんまりと笑った。
「……あのガスの成分は調べておいた方がいいのだ。ぼく自身はそっちの知識はあまりないが、知り合いに詳しいのがいるので、その服を預からせて貰うのだ……」
 そういって、徳川は荒野が脱ぎ捨てたワイシャツと制服のスラックスが入っているビニール袋を指さす。雨にぐっしょりと濡れたそれらは、徳川が適当に買ってきたフリーサイズのスウェットスーツが入っていたビニール袋にまとめて入れていた。
「あ、ああ……」
 荒野は、とりあえず頷く。別に、拒否しなければならない理由は思いつかない。
 もともと、制服は新しいものを一揃え、調達するつもりだった。
「その手の成分分析なら……才賀の関係でも、できるんじゃないのか?」
「時間がかかりすぎるのだ。
 ぼくの伝手なら、一両日中に結果をだせるのだ……」
「まあ……その辺は、任せる……」
 正直、当面の危機が去った今、痕跡の分析、などということについて、荒野の関心は薄い。栄養補給を優先したのも、再三の襲撃に備えるためだった。

「では、次の問題……有働君から、学校でのことは一通り聞いたけど……。
 今後……君達、どうするの?」
 今度は、玉木だ。
「どうするって……おれは、できれば残りたいと思っているけど……こんな騒ぎが起こったんじゃ……」
 荒野は、珍しく、歯切れが悪い言い方をした。
「逆に、玉木に聞きたいけど……さっきのガスな。
 いろいろな幸運が重なって、今日はたまたま、たいした被害がでなかったけど……あれ、テロだぞ。
  今度のやつらは……無関係の人々を、平気で巻き込むっていうことで……」
 今日のは……警告も兼ねた、挨拶なのだろう。悪趣味な挨拶だとは思うが……あのガスが、もし、至死性のものだったら……。
「おれたちがこの土地から去れば、少なくとも、君たちには危害は及ばない……」
 自分の周囲数人単位、なら、なんとか身の安全を確保できるかもしれない……。
 しかし、学校やこの町すべてが標的になってくるとなると……いくら荒野たちが卓越した能力を持っている、としても……現実問題として、なす術はない。
「……でも……」
 有働は、ひっそりと静かな声で、荒野に反論する。
「それは……根本的な解決には、ならないのです……」
「分かっている……」
 荒野も頷く。
「でも、おれたちがここにいることで……無関係の人々に累が及ぶのは……どう考えても、間違っている……」
 荒野だって、悔しいし、口惜しい。
 せっかく……学校のほうは、なんとかなりそうだったのに……。
「なあ、玉木……例えば、今日みたいなことが……頻繁に、日常茶飯事にあったら……玉木たちも、困るんじゃないのか……」
「うん。困る」
 玉木は、あっけらかんと頷いた。
「でも、今日のって……別に、カッコいい荒野君が、望んで起こしたことではないでしょ?
 一族の人たち、あんなに一生懸命、被害の拡大を阻止してくれたし……」
「……一族は、忍だ……。
 自分たちの存在が公になりそうになったら、それを阻止する為に動く……」
 荒野は、答える。
 一族のものは総じて、そのように教育されている。でなければ、今までその存在を秘匿できたわけがない……。
「……でも……ガス弾を使った人たちは……そのロジックに縛られていない」
 玉木は、断定する。
「つまり……ガス弾を使った人たちは、カッコいい荒野君の側からみても……異質な行動原理で動いている……」
 ……三人で、話し合った結果、導いた結論なのだろう……。
 そして、それは、荒野自身の予測と……一致する。
「おれも……そう思う……」
 荒野は、深くため息をついて、玉木たちの推測が妥当なものであることを、認めた。
「学校でのやり口からみても……今回のは、一族のセオリーから、丸ごと、外れている……」
 学校での佐久間現象の出現のように……故意に、目撃者を増やすように仕向けるのは……従来の一族なら、決してやらなかった手口だった。
 一族の存在が明るみに出れば、いずれ、自分自身の足場を突き崩すことになる。だから、一族同士が争う時は、一般人には現場を押さえられないように留意する……。
 これは、一族が一族である限り、変わらない前提の筈だった。
「……つまり、今回の件を仕組んだ人たちは……カッコいい荒野君の一族と同等、ないしは、それ以上の能力を持ちながら……一族自体の存続には、あまり関心を払っていない……。
 あるいはもっと、はっきりと敵対する意志がある……」
「……ああ……」
 その部分も、荒野自身の予測と一致する。
 まったく、年端もいかない一般人の癖に……。
「でも……どうして、一族と同等の、ないしは、一族以上の能力、って分かるんだ?」
「だって……その人たち、洗脳が得意な筈の、佐久間って子を……逆に操って、学校を襲わせたんでしょ?」
 玉木の答えは、明快だった。
「それに、あの、ガス弾……最初は、ランチャーで打ち上げたのかと思ったのだが……映像をみると、実にもろい構造をしているのだ……」
「……ああ。
 このペットボトルを一回り大きくしたような……単なる、プラスチック容器だったよ……投げ易いように、取っ手が着いていたがな……」
「……あれだけの高さから落ちてきて、アーケドを突き破らなかったから、おかしいと思って録画を再生して確かめたのだ……」
 徳川は、荒野の返事に満足したように頷いた。
「……多分、大気中の成分と反応してああいうガスを発生する仕組みなのだ。そうすれば、総重量も押さえられるし、弁を開けた状態で投げられたのも、説明がつくのだ……。
 それに……」
 徳川は、荒野に追い打ちをかけるように、重々しく頷く。
「……いくらそうやって軽量化しているとはいっても、投げた時点での総重量は五キロ以上と推定できる……。
 それだけの質量を……国道の向こうから、ここまで投げる、というと……最短に見積もっても、五百メートル以上にはなるのだ……。
 そんな芸当を可能とするには……ガクと同じくらいか、それ以上の膂力が必要なのだ……」

[つづき]
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