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第六章 「血と技」(17)
「……今後、おれたちがとり得る方針を大別すると……」
荒野は、指折り数えて見せる。
「……このまま、この町を出て行く。
そうすれば、少なくともこの町の人には累は及ばない……」
「……でも……それでは、加納君たちの立場は、なんも変わらないのです……。一方的につけ狙われるだけなのです……」
「……そうそう。逃げているだけだもん……」
有働勇作が、指摘し、玉木珠美も賛同した。
「……次に、現時点では正体がはっきりしない襲撃者を、積極的に狩り出し、追い詰め、おれたちに手出しを出せないようにする……。
これは、選択肢としてはありだが、現実的には不可能だ……戦力が、少なすぎる……」
「質問!」
玉木が、片手をあげる。
「……まず、襲撃者って……正体不明なの? さっきいろいろ、トクツー君と推測並べていたけど……」
「……状況証拠かみて、ガクやテンたちと同等、あるいはそれ以上の能力はありそうだ、というあたりは確かなようだけど……それ以外のことは、推測になっちまうな……」
「……捕まえに、いけない?」
「……そいつらの総戦力が判明していない今の段階では……やらない方が、賢明。
返り討ちにあう可能性、大……。
焦って直に追うよりは、一族の情報網に頼った方がいいかな、と、思っている……」
いつ、再度の襲撃があるか予測できない現状では……荒野たちから手を出さない方が、いい……。
「……結局……守るものが、多すぎる、っていうことなんだね……」
玉木が、顎に手をあてて考え込む。
「無差別テロの場合……実際の被害よりも……心理的なプレッシャーの方が、深刻な場合が多いです……」
有働が、頷いた。
「あと……実際に取り締まるとなると……多くのマンパワーが無駄に消尽させられる。それに、そうした取り締まりをきつくすればするほど、普通の流通網や情報網の健全な流通に支障をきたす。
正常な社会インフラが、機能しなくなる……」
もちろん、表向きはただの学生でしかかない荒野たちには、捜査権もなにもない。
何万人という人間の中から数人の候補者を絞り込むことさえ、事実上、不可能だった……。
「……だから、ここの人たちに迷惑をかけないですむ、一番いい方法は……おれたちがここから離れることだと思うんだけど……」
「……荒野……」
それまで黙って聞いていた茅が、片手をあげる。
「……確実、ではないけど……そいつらを、おびき出す方法が……あることにはあるの……」
そういって茅は、「その方法」について、滔々と説明をしだす。
と……有働は目を丸くし、玉木は途中からげたげた笑い出し、徳川はにやにや笑って聞いていた。
荒野は……頭を、抱えた。
「……か、茅……それ、成功率、かなり低いぞ……」
第一……すごく、恥ずかしいと思う……。
「成功率は低いけど……襲撃者の標的を固定する方法は……これしかないの……。
大丈夫。
ガク、正義の味方になりたがっているし……テンも、ガクの暴走を許したことで、かなり落ち込んでいるの……」
ガクもテンも、汚名挽回の機会を歓迎するだろう……ということは、理解できるのだが……。
「……いいじゃない。
この際だ。ダメモトでやっちゃおうよ、カッコいい荒野君!
ご当地ヒーロー、最近はやっているんだしさ!
あ。あの二人の場合、ヒロインか……」
「それに、二人の危機になると助けにくる、謎のくノ一……。
楓の正体は、最後の最後まで伏せておくの……」
「ゴスロリ・スナイパーもな……」
茅と玉木は、顔を見合わせて笑い合った。
「……幸い、今日のあれで、戦闘シーンの素材には事欠かなくなったし……」
荒野は、頭を抱える。
どこからそういう発想が……と、思いかけて、荒野は、茅が、戦隊物のファンであったことを思い出す。
ご当地ヒロイン番組をでっちあげ、ネットで配信し……「次号予告」という形で、正体不明の敵を挑発する……なんてイージーな手に……敵が、乗ってくるのだろうか……。
「……くくく……」
徳川篤朗が、不気味な笑い方をした。
「……それではぼくは、敵が予想しえないような新兵器を次々とつくってやるのだ……」
そういえば、こいつも姪御さんに付き合って、見ているんだよな、確か……。
と、荒野はぼんやりと思う。
「……そうそう。トクツー君は、開発要員だな。博士だ博士。
で、新兵器をおもむろに出す時は、こういうんだ……」
「「……こんなこともあろうかと……」」
玉木と徳川の声が、ハモる。
「……あのなー、お前ら……」
荒野は眉間のあたりを指で揉みながら、二人に突っ込む。
「……ここまで来ると……もう、遊びじゃ済まされないんだぞ……」
下手すると……死人が、出る。
今日だって、無関係の人間に負傷者をだしていないのが、奇跡のようなものだ。
「……こっちだって真剣だよ、カッコいい荒野君……」
玉木は、意外に真剣な表情で荒野を見据える。
「……いいかい?
もう、今日みたいなことは……あってもらっては、困るんだ……。
でも、苦情をいたくとも、だれに言えばいいのか……その相手が、わからない。姿をみせない……。
言いたいことはいっぱいあるのに、宛て先がわからない。
そういうやつらに、的確にメッセージを伝え、引っ張り出する方法が……なにか別にあるとでも?」
玉木にそういわれてしまうと……荒野は、言葉に詰まる。
玉木が、商店街に来る人達の安全を、真剣に考えているのは、本当だ。今日の挙動をみていれば、いやでもわかる……。
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