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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(18)

第六章 「血と技」(18)

 玉木と徳川が必殺技がどーの合体ロボがこーのとかなり怪しい議論をしはじめ、それまであまりしゃべらなかった茅までもが、
「茅、そうしたら指令やるの」
 とかいってその怪しげな議論に参加しはじめる。
『……こりゃ、横道逸れ確実だな……』
 と判断を下した荒野は、困った顔をして事態を見守っている有働に、
「……ちょっと、電話してくる」
 と声をかけ、部屋の隅に向かう。

「……あー。先生、っすか?」
『……なんだ、荒野か。
 こっちは今忙しいんだ。急用じゃなければ後にしろ……』
「いや、ガクの様子、知りたいんですけど……」
『無事といえば無事だ。骨や腱、それに重要な動脈とかは切れてなかったし、命に別状はない。
 しかし、手術がどうにも厄介でな……医者のほうが、傷跡つけたくないから、できるだけ縫合はしたくないって抜かしてな……』
 三島の話を総合すると、ガクの手足に傷跡を残すことを嫌った外科医が、かなり細かい整形手術をこれから行う、といいだしたらしい。
『……ま、こっちは、付き添いのテンと一緒に、一晩か二晩は泊まりだな。
 テンのやつ、ガクの傍から離れようとしないから、もう少しして落ち着いたら、わたしが二人の着替えやなにかを取りに帰るつもりだ……。
 あ。それからな。
 もう一つのお荷物はどうするんだ?
 というか、どうしたら起きるんだ、こいつ……』
 三島の車に乗せたままだった、佐久間現象のことだ。
「そいつには……聞きたいこともあるんだけど……じばらく構っている余裕ないから、そのままにしておいて……。
 あと、首の所に刺さっている針も抜かないように。
 抜き方が悪いと、最悪半身不随になりかねないから……」
『誰が、こんな現代医学に喧嘩売っているような代物に好んで手を出すかね……』
「テンにも、佐久間の分は、抜かないでそのままにしておくようにいっておいてくれ。
 ガクの分は……そのままにしておけば、麻酔代わりになるはずだけど……」
『もう、抜いた。
 テンが、病院につくなり、さっさと抜いたよ。なかなかの名シーンだったぞ、あれは……』
 ガクは、暴れてみんなに迷惑をかけたことを、テンは、ガクの暴走を抑えきれなかったことを、それぞれに気に病んでいるらしい。
 三島の話によると、ベッドに横たわり、傷の痛みに耐えながら泣くガク、その体に縋ってyはあり泣き喚くテン……という光景が、五分ほど観測できたらしい。
「……テンはもともと涙もろいところあるけど、ガクも、中身はまだまだガキだからな……」
『ずいぶんと物騒なガキどもだな? ん?』
「同感。だけど……あれでもそれなりにいろいろ考えてはいるみたいだから、長い目でみてやってくれ……」
『わたしにいわせりゃ、お前さんもまだ十分ガキだっつーの。
 ガキがガキの心配していてどうする?』
 その他、学校であった出来事なども含め、細々としたことを話してから、三島との電話を切る。

 ちらりと後ろを振り返ると、「理想のご当地ヒーロー像とはなにか?」とかなんとか、まだまだ座が盛り上がっている最中だったので、荒野は三島に次いで楓にも電話をかける。
 これだけ時間を置いてもなにも仕掛けてこない、という点から考えてみれば、今日、これ以上の襲撃はなさそうなものだが……油断は、出来ない。
 呼び出すつもりはないが、いつでも動ける体勢は整えておくように、くらいのことは、いっておくつもりだった。
『か、加納様!』
 電話に出るなり、楓はかなり取り乱した口調だった。
『た、大変、なんです……香也様が……香也様が……』
「香也君がどうした!」
 思わず、荒野の語気が鋭くなる。
 荒野本人はあまり自覚していないが、香也を初めとする隣家の住人たちは……荒野にとって、もっとも「どうにか」なって欲しくない人々だ。
 荒野の後ろでわいのわいの盛り上がっていた連中も、雑談をぴたりと止め、いきなり大声を出した荒野のほうに注目する。
 まさか……まさか、とは、思うが……狩野家まで、標的に含まれていて……楓たちの留守を狙って……。
『こ、香也様がぁ……』
 楓は、泣きそうな声で先を続けた。
『……風邪、ひいちゃったみたいなんですぅ……』
「………………それは……大変だな。
 お大事に。
 風邪はウイルス性の疾患だからな。抗生物質は効かない。
 消化がよくて温かいものを食べさせ、水分もこまめに摂らせて、たっぷりと汗を流すこと。後は、じっと寝かせておく。
 症状がひどい場合は、その症状にあった薬を飲ませてもいいけど……風邪薬っていうのは対症療法でしかないから、できるだけ服用しない方がいい。
 汗を流して休養させて、自然に体の抵抗力が回復するのを待つのが一番だ……。
 おれたちも帰ったら、お見舞いに顔を出すよ……」

 楓との通話を切ると、荒野は静まりかえって自分に注目しているやつらのほうに振り返る。
「香也君、風邪ひいたって……」
 そう報告すると、一同はがっくりと肩を落とした。
「……こっちはテロ対策だとか、カッコいい荒野君たちの今後の身の振り方とか真剣に話し合っているのに……」
 ついさっきまで「地元ヒーロー」がどうのこうのと、白熱してた議論を行っていた自身のことを棚に上げ、玉木がぼやく。
「……おれも……なんか……。
 がっくり、疲れたわ……」
 まだようやく夕方に入りかけた時間であるとはいえ……荒野にとってこの日は、かなり長い一日だったのだが……今ので、駄目押しになった。
「……これ以上の詳しい話しは、明日以降にしよう……。
 おれ、帰って、寝たい……」
 荒野がそう切り出すと、
「……はーい!
 晩ご飯、みんなで食べよう、みんなで!」
 と、玉木が手をあげる。
「……絵描き君の家で!
 このまま解散、じゃあ、今日はちょっと、みんな、しんみりしちゃうし! 話すことまだまだあるし!
 材料とかこっちで用意して……わたし以外の人たちが、作るから!」
 わたしが作るから、とはいわないあたりが、玉木らしい……と、荒野は思った。

[つづき]
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