第六章 「血と技」(19)
徳川が呼んでくれたタクシーに乗って、荒野はマンションまで戻ることにした。茅は、残って話し合いを続ける、という。香也の容体も気にはなったが、後で加納家に集まって夕食を作るそうなので、その時にでも様子をみることにしよう……。
徳川たちにいったように、事実、荒野はかなり疲れていた。それも、肉体的な疲労というよりも、精神的な疲労のほうが大きい……。
『……さて……』
荒野は、今日の出来事を振り返ってみる。
一族にとって……あれは、どういう事件だったのか……。
『……秦野のおねーさんたちとか、学校を襲った若い衆を集めたのは、佐久間現象……』
これは、まず間違いないと思うのだが……実は、荒野がそのように予測しているだけで、しっかりと裏付けを取っているわけではない……。
若い連中は、口先三寸でどうにでも扇動できそうな気がする。お互いのことにあまり干渉しない気風のある野呂の者が多かったように見えるのも、そのせいだろう。
しかし……秦野の女たちと二宮舎人に関しては……。
『……個人的な接触、ということは……』
考えにくい。
特に二宮舎人は、「二宮が佐久間に借りを返すための、仕事だ」と明言している。尋ねてもいないのに、そんな嘘をいう理由が、二宮舎人の側にはない。
荒野が二宮に問い合わせれば、真偽のほどはすぐに確認できるからだ。
佐久間から二宮に、正式な依頼があった、ということは……佐久間は、現象の行動を知っていた、という可能性が高い。
積極的な加担なのか、それとも、もっと消極的な「やるんなら、かってにやれ」といった具合の黙認なのかまでは、分からないが……。
二宮とは違い、佐久間の主流に関するチャンネルを荒野は持っていないので、こちらの確認は、多少てこずるかもしれない。
いずれにせよ……佐久間が堂々と名乗って姿を表した、ということ……それに、それまで表舞台にでてこようとしなかった秦野の女たちが、でてきたこと……は、どちらも、かなり珍しい出来事だった。
『で……その佐久間現象の後ろには、ガス弾の連中が、いる……』
最後まで姿を表さなかったガス弾の連中と、わざわざ本人がこっちに出向いてきた佐久間現象とでは……感触に、差がある気がする。
どちらかというと、ガス弾の連中のやり口の方が、荒野の知っている「佐久間」らしい……。
『……いや……』
佐久間現象のほうが……むしろ、佐久間を自称しているだけの偽物、なのか……とも、思いはしたが……。
『……でも……』
そんな偽称をして、なんのメリットがあるのか?
とも、思ってしまう……。
あの身体能力から判断するなら、一族の関係者であることは、ほぼ確実であって……その上で、あえて一番謎の多い「佐久間」の姓を名乗ることに……なんの意味があるのか……。
佐久間現象の身柄は確保してあるので、その辺の事情については、後で本人を尋問すればいいか……と思い、荒野は佐久間現象に関する考察を中断する。
『後は……』
ガス弾の、連中だ。
多数か複数なのか、性別や年格好さえ、分からないが……。
『いや、二人……以上、か……』
ガス弾は、二発づつ、ほぼ同時に投擲されている。
最低でも、二人……徳川篤朗と検証した通り、ガクと同等か、もしくは以上の身体能力を保持している者が、いる。
それに、あのようなガス弾を用意できるのだから、おそらく、それなりの規模のバックアップ体制が背後にいること……の二点だけは、今の時点でも、確信が持てる……。
『……何が、目的だ?』
単純に考えれば……荒野たちへの、挨拶と挑戦状を兼ねた示威行為、なのだろうが……。
その割りには、佐久間現象を手駒に使ったり、ガスの選択も、即効性の毒ガスではなく、催涙ガスだったりと……純粋な攻撃、と言い切るには、手口が回りくどすぎる……。
『威力偵察……』
それが一番可能性がありそうだが……それにしても、ガスを使う、というのが、どうにも納得がいかない。ガスなんか使ったところで……荒野たちの本当の実力は、推し量ることなどできやしないのだ。
もちろん、薬物で荒野やガクたちを倒すことは、十分に可能なわけだが……そんなことをして、一体、誰になんの益があるというのだろう?
薬物でやられる時というのは、実力を発揮する前にぽっくり逝くだけで……単なる殺人でしか、ない。「偵察」の役割を果たさない……。
佐久間現象をけしかけて、荒野を足止めし、商店街にガス弾を降らせた者たちは……毒ガスではなく、催涙ガスをあえて使用した。
ガクとテンの抹殺、を、目的としていなかったことは確かなのだが……かといって、偵察でも、なさそうで……。
『……まさか!』
そこまで考えて、荒野は、あるシンプルな動機に思い当たる。
『……具体的にこれ、といった目的があったわけではなく……』
荒野たちへの対応を、あわてふためく様子を……面白半分に見ていただけ……だと、したら……。
『性質の悪い、興味本位の……悪戯……いやがらせ……』
ガス弾を使用した襲撃者は……荒野たちの立場や状況を理解した上で、明確に、荒野たちを苦境に立たせるように、しむけている……。
おそらくは……。
『そうしむけておいて……おれたちが、あわてふためく様子を……どこか遠くで見物して……高笑いでもしているのだろう』
困ったことに……その可能性が、荒野が思いつくなかで、一番整合性がある解答だった。
その能力から見て、敵は、荒野たちが便宜上、「姫」と呼んでいる類いの……茅や、テン、ガク、ノリの、同類だ。
しかも……善悪の区別はあまり教育されては、いなかったらしい……。
荒野は、今回のやり口全体に、子供によくみられるような、捕獲した昆虫の手足や羽根をもぎ取るような無邪気さな悪意を感じた。
そんなことを考えているうちに、タクシーはマンション前に到着し、自分たちの部屋に入った荒野は、ベッドに直行してそのままどさりと横になる。
荒野の持っているコネクションをフルに酷使して、一族の関係者から情報を収集する必要を感じていたが……今日は、一遍にいろいろなことが起こり過ぎた。
一休みして鋭気を養ってから、情報収集に取りかかることにしよう……と思って、瞼を閉じた途端……。
電話が、鳴った。
液晶を確認すると、涼治から、だった。
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