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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(20)

第六章 「血と技」(20)

『荒野か? 今日はいろいろとあったようだな』
 電話をとるなり、荒野が返事をする前に、涼治は話し出した。
『その件も含めて……佐久間の長が、お前にお詫びをしたいそうだ……』
「……へぇ……」
 荒野の返事は醒めている。
「で、交換条件は、なに?」
 一族の者の前にも、「滅多に姿を現さない」のが佐久間の身上であり……しかもその頂点が……荒野のような若造に、自分から頭を下げに来る……と、盲目的に信じられるほど、荒野は素直ではない。
『急くな。
 わたしは、先方の言い分を伝えているだけだ……』
 涼治の声には、苦笑いが混じっている。
『いいか。まず、先方の申し出を伝えるぞ。
 先方は、明日の夜、お前たちとの会食をご所望だそうだ……。
 できればその席で、佐久間現象の身柄も申し受けたい、と申しておる……』
 荒野は、素早く考えを巡らせる。
 ……佐久間の頂点が、現象の身柄を? やはり、現象は佐久間の主流ではなかった、ということか? 現象は、なんらかの理由で佐久間主流のコントロールを離れた存在だった? ……いや、そんなことは後でじっくり考えろ。今は……。
「……その招待、こっちの人数は、増えてもいいかな?」
『……声が、かなり擦れているな……。
 会食は、ホテルの一室を使うそうだ。人数が増えるなら、早めにわしに伝えておけ。要求を出しているのは向こうさんだからな。多少の融通は、効かせてくれるだろう……。
 それに、他にもゲストがいるそうだし……』
 荒野は素早く勘定する。
 自分、茅、楓……テンと、もし動けるようなら、ガクも。孫子も、本人が希望すれば、同行させてもいい。
 涼治が「ゲスト」という言い方をするのなら……他の六主家の、中枢に近い人間も、同席するのだろう……。
 普通の佐久間でさえ、滅多に姿を現さないというのに……今回は、佐久間の長が、直々に出向いて、自分のような若造に会いに来るというのだ……。
 荒野の脳裏に、物見高い一族中枢の者たちの顔が、去来する。
 やつら……と、荒野は思った……他人事だと思って、面白がっているな……。
「うん。急な話だからね。なるべく早く、こちらの人数を伝えるよ……」
『では、会食自体は、出席という返事で構わないのだな?』
「会うこと自体はね。
 でも、佐久間の申し出を呑み込んだ、とは、まだいっていない……」
『それで十分だ。
 わしも、セッティングまでしか請け負っていないのでな。
 それに、向こうさんも、お前がそうそう甘いとは思ってはいないだろう……』
 会食を明日の夜、に、設定したのは……それだけの猶予を与えるから、それまでに現象から絞れるだけの情報を搾り取っておけ、という期限を切られた、という解釈も可能である。
 それまでは、佐久間現象を自由に扱ってよい、と。
 それ以降は……もし、交渉が決裂したら、佐久間主流は、力づくでも現象を取り戻すつもりだろう。
「ま。それまでに、せいぜい過大な交換条件を考えておくよ……」
『ふむ。ひさびさに面白い見せ物になりそうだな、これは……。
 楽しみだ……』
 口ぶりからすると……涼治も、当然のように同席するようだ。
 やはり……六主家にとって、荒野が預かっている子供たちは、かなり重要な存在であるらしい……と、荒野は思う。
「……なあ、じじい……。
 まだ、姫の真相について、口を割る気になんねーか……」
 荒野は故意に、ぞんざいな口の利き方をする。疲れていて、態度にまで神経を使う余裕がなくなってきている、というのもあったが。
「……状況証拠的には、もう、十分って感じがするけど……。
 それに、一族キラーみたいなのまでが現れたんだ……そっちも、そろそろ足元に火がついているように見えるけど……」
 ガス弾を使ったやつら……の、能力と精神構造は、手口をみればある程度推察がつく。平均的な能力を持つ一族の者が相手にするには……荷が勝ちすぎる筈だった。
 荒野が預かっている子供たちをうまくぶつければ……あるいは、いい勝負になるかも知れないが。
 荒野としては、無関係の人々を平気で巻き添えにするような連中を野放しにするよりは、一族の力を借りてでも、狩りだして無力化したい気分だった。
『その件は……わしの一存では、なんともいえんな……。話しの流れによっては、明日、なにがしかのことはいえるのかもしれないが……。
 それから、ガス弾を使用した連中については、我々の方でも、目下、探索中だ……』
 一族の包囲網を欺いて、これだけの時間が経ってもまだみつかっていないのなら……完全に、姿をくらました、ということなのだろう。あの場には……テンとガクには、いつものように、決して少なくはない、一族の監視者が、距離を置いて張りついていた筈なのだ。
 だとすれば、あるいは……涼治か、それとも他の六主家の誰かが、やつらを匿っているのか……だ。
「知ってのとおり、こっちは圧倒的に手不足でさ。ろくな手がかりもない所で、大がかりな捜査網構築するの、無理だから……。
 やつら、放置しておいても、われたち全員にとっていいことなんか一つもないんだから、出来るだけ速やかにとっつかまえてほしいね……。
 個人的な、希望としては……」
 ついつい、荒野はかなり率直に、「個人的な、希望」をしゃべってしまう。
 交渉の材料に使えないような事柄に関しては、荒野は驚くほど素直に自分の感情を露わにする。
『その点については、出来るだけ期待に応えられるよう、手配をしておこう……』
 答えた涼治の声は、笑いを含んでいる。
 涼治の声に込められたニュアンスを感じ取った荒野は、「なんかおれ……じじいにおねだりしちゃったのか……」と、軽い自己嫌悪を感じた。
「要件はそれだけかな? 悪いけど、おれ、今日は疲れているから……。
 他に要件がなければ、そろそろ、切りたいんだけど……」
『そうか、疲れているか……要件、では、ないんだが……』
 涼治は、珍しく口ごもる。
『その……子供たちは、元気か?』
「ああ。元気だよ。
 茅も、テンも、ガクも……ノリは、今、遠出をしている。ガクは、もう知っている筈だけど、ちょいとした怪我をした。先生の話では、たいしたことないって。それに、テンもガクも、今回の件には、かなりショックを受けている。でも……そういうのも、必要なんだ。大丈夫、やつらなら、そんなショックもすぐに乗り越えて、明日あたりはいつものように笑っているよ……」
『そうか……お前がそういうのなら、大丈夫なのだろう。
 お前も疲れたのなら……今日は、もう休め……』
「いや、少し休んだら、友達と、夕食を一緒にする約束なんだけど……。
 うん。まあ。
 今は、少し眠るよ……。
 ……お休み」

 荒野は通話を切って、瞼を閉じる。

[つづき]
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