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彼女はくノ一! 第五話 (104)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(104)

 なんだか遠くの方で大勢の人の声が聞こえてきたので、香也は目を醒ました。
 いつの間にか、自分の部屋に寝ている。しかも、パジャマに着替えていた。
 ぼーっと熱っぽい頭で思い返してみる。
 昼食後の痴態……の後あたりから、記憶があやふやだった。
 上体を起こすと、額に乗っていたタオルが、布団の上に落ちる。それを手にとると、湿っていて……左右をみると、枕元の傍に水の張った洗面器、なども置いてあった……。
 まるで、風邪でもひいているみたいな……と、思った途端、意識と視界が、ぐらりと揺れる。
 そういえば、さっきからやけに熱っぽいし……どうやら、あんな所で寝てしまったせいで、自分は風邪をひいたらしい……と、香也はようやく自覚する。

「あー……」
 いつの間にか、楓が部屋に入ってきていた。いつの間にか、というより、香也の頭がぼんやりとしていて、楓が入ってくるのに気づかなかっただけ、らしい。楓の背後には、孫子の姿も見える。
「もう、起きあがって大丈夫なんですか? 香也様?
 ……なんなら、お食事こっちに運んできますけど……」
「……んー……」
 香也は、熱っぽい頭で自分の容体を確認する。たしかに、かなり頭が熱っぽくてぼーっとするけど、別に起きあがれないほど重体なわけでもない……。
「……それくらい、大丈夫……」
 香也はそういって、布団から出て立ち上がる。立ち上がった途端、前後によろめいて、慌てて楓が香也の体を支えた。
 気づけば、楓も孫子も、香也の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「なんか、さっきから、大勢の人の声が聞こえるけど……」
 香也は、照れ隠しにそんなことを口走る。実際に、居間の方から、話し声が聞こえる。
「ええ。
 今日は、いろいろなことがありまして……。
 みなさんが、集まっていらっしゃいます……」
 楓は香也の体を支えながら、そう答えた。いつの間にか背後に来ていた孫子が、さり気なく香也の肩にどてらをかける。普段、羽生譲が愛用しているものらしかった。
「……んー……。
 どうも、ありがとう……」
 香也が、どちらともなくそういうと、二人は照れたような顔をして、視線をそらした。
 着替えさせて、自分の部屋まで運んでくれたのも、この二人なのだろうな……と、香也は、今さらながらに気づく。
 昼食後の、あの出来事については……とりあえず、今は、頭も回らないことだし、あまり深くは考えないことにしよう……と、香也は思った。
 今になって思い返してみると、かなりとんでもないことをしでかしてしまったような気もするし……。

「……お。来た来た。絵描きさん、風邪引いたんだって?」
 二人に両脇から支えられるようにして居間に入ると、何故かエプロン姿の飯島舞花が、声をかけてきた。
 舞花だけではなく、加納荒野と加納茅はもちろんのこと、栗田精一、柏あんな、堺雅史、玉木珠美、有働勇作、徳川篤朗、徳川浅黄、それに、香也は名前は知らなかったが、見覚えのある、多分、一年の女生徒、などもいて、賑やかに談笑している。何故か、ここにいる筈のテンとガクの姿が、見えなかった。
 家具調炬燵の上には、ガスコンロと土鍋が二台、準備されており、その周囲に所狭しと材料を盛った皿が並んでいる。どうやら、今夜は鍋らしい、と、思った。
 それはいいのだが……この人数。
「……んー……」
 香也は、例によって、呻った。
「……なんか、あった?」
 それまで、それそれに他愛ないことを話し合っていた人々は、その香也の一言でピタリ、と、静まりかえり、顔を見合わせる。
 そして、全員の視線が、加納荒野に集中した。
「……なんか、あったんだ。
 そう。今日一日で、いろいろなことが……」
 珍しく真剣な面持ちで、荒野は重々しく口を開く。
「でもまあ、すぐに説明しきれることでもないし……食べながら、ゆっくり話すよ……」
 荒野の声は、香也の声と同じくらいに擦れていた。
 荒野がそういうと、一斉に静まりかえった面々が一様にほっとした表情をする。
 割と……深刻なことが、起こったのかな……と、香也はようやく察した。
「……うぉーっす……。どうだ。ちゃんと教えた通りに下拵えできたか?」
 玄関の方から、場違いに明るい声が聞こえてきて、どかどかと三島百合香の小さな体が居間に入ってくる。
「ばっちりっす。たぶん、これでいいと思いますけど……。
 ちゃんこって、家庭でもできるんですねえ……」
 やはり明るい声で三島に答えたのは、エプロン姿の飯島舞花だった。
「鍋だからな。下拵えさえ丁寧にしておけば、そうそう失敗はしないって……。ん。この色は、ちゃんと鶏ガラベースだな……」
 鍋の中を覗き込んで、三島は大げさに頷いてみせた。
「……ほれ、ガキども。なにを静まりかえっている!
 今さら嘆いた所で過ぎたことは書き換わらないぞ。ん?
 それよりは、食うモンたらふく食って、明日に備えろ。
 特に荒野とそこの糸目! お前らは今後体力勝負だったり風邪引いたりしているんだから、なおさら食え。食欲がなくても食え。食って、今日よりは良い明日を作れってーの!」
 三島の発破が功を奏したのか、その後は、賑やかな食事になった。

 食べながら香也は、その日が荒野たちにとっていかに大変な日であったのかを、聞かされることになる。テンとガクの姿がみえない理由も……この時に、知った。
 途中で羽生譲が帰ってきて、話しが前後したが、その場にいた人々がそれぞれの視線と立場から語る「今日の出来事」は、聞いていてとても臨場感があった。

「ガクのやつの経過は順調だ。
 ってか、基本的に、傷口塞ぐだけだからな。プロテクタの破片とかが若干肌に突き刺さってたんで、それを取り除くのに多少、手間取ったくらいで……」
 三島の話によると、病院に運び込まれるなり、医者の目の前で、制止する間もなく、テンがガクの手足から器用に突き刺さった破片を指で摘みだしたので、医者は止血と消毒に専念することが出来、結果的に術式の時間が大幅に短縮された、という。
「後は、傷口がふさがるのを待つだけなんだが……ガクのやつは、頭も打っているからな。検査もしておいた方がいいってこって、最低一晩泊まるって。テンも、その付き添い。わたしは、そっちにいてもすることがないから、ヤツラの着替えだけ置いて帰ってきた……」
 徳川篤朗は、「プロテクタの材質は、もっと改良の余地が……」とかなんとか、ぶつくさいっていたが、そちらの話しは誰も聞いていない。

「そういえば、飯島先輩……」
 柏あんなが、飯島舞花に話しをむける。
「加納先輩のこと……知ってました?」
「知っていたっていうか……詳しく聞いたことはないけど、何となくわかってはいた……」
 飯島舞花は、平然とそう答えた。
「だって、ほら。
 おにーさん、隠そうとしていただろ? そういうのを無理にほじくり返して聞くのも悪いかナーって、思って、今ままで聞かなかったんだけど……。
 そーかー。そういう感じでばれちゃったのかー……。
 学校の連中の反応のほうが、心配だなあ……」
 舞花の返答を聞いた柏あんなは、かなり複雑な表情をしている。

「……学校の方の対策は……」
 有働勇作が、口を挟んだ。
「……一応、ぼくらの方でも、いろいろ考えてはいます……。
 明日も、今日の目撃者を中心に、例のボランティアの説明会、という名目で、徐々に情報の公開をしていくつもりですし……。
 それで、無責任な風評が広まるのを、いくらかでも防げればいいんですが……」

「……はー……」
 一通りの話しを聞いた羽生譲は、感心したようなため息をついた。当然のことながら、羽生譲にとっては初耳の話が多い。
「……ニンジャの頭領の跡継ぎも、いろいろと大変だなぁ……カッコいいこーや君……。
 でも……ま、前向きに行こうな。
 影でいろいろいうヤツは絶対にいるだろうけど、何にも悪いことをやってないんなら、堂々としてろよ!
 うちも、爺ちゃんの代までテキ屋の親分なんて家業してたから良くわかるけど、そういうヤツらこっちがなにしてたってあることないこというんだから、気にすることないぞ!」

「……そちらの加納荒野さんも、もちろん、興味深いっすけど……」
 香也が顔だけは知っていた一年生女子は、斉藤遙と名乗った。
 堺雅史や楓と同じパソコン部員で、玉木珠美いわく「使える子」で、今後、付き合いが増えそうだから、誘ったという。
「……わたしとしては、こっちの狩野荒野君の関係のが……。
 あの……三人さん……ぶっちゃけ、どういうご関係ですか?」
 斉藤遙の言葉に誘われて、全員の視線が、香也に集中する。
 香也の左右には楓と孫子が侍っており、左右から、箸で煮上がった食べ物を交互に差し出されている状態だったから、ほとんど面識のない斉藤遙がそう尋ねたくなるのは、道理というものだ。

「……んー……」
 香也は、いつもより長く呻った。
 昼間の「あの出来事」があるし……今も、左右の頬に楓と孫子の視線を、痛いほど、感じている。
 炬燵に入って鍋物を食べているにもかかわらず……香也は、冷や汗を流した。
「……同居人?」
 結局、いかにも自信なさそうな声で、そう答えるのにとどまる。
 左右で、楓と孫子が、同時にがっくりとうなだれていた。
「……ま、こういう関係だ……」
 飯島舞花が、斉藤遙にしたり顔で解説する。
「はあ……なんか、よく分からないけど、分かったような気がします……」
 斉藤遙は、曖昧に頷く。
 柏あんなは、少し険しい目つきで香也を睨んでいる。
 女性の敵、とでも思われているのかも知れない……と、香也は思った。

[つづき]
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