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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(21)

第六章 「血と技」(21)

 部屋に誰かが入ってくる気配で目が醒めた。
「……茅?」
「そう」
 茅の返事を確認して、身を起こす。
 茅は制服姿で、窓の外はすっかり暗くなっている。今まで眠れた……ということは、あれから情勢に大きな変化はなかったのだろう。
「先生からの伝言。
 ガクは、心配いらないって……」
「……そうか……」
 荒野はベッドに腰掛ける。一度寝たせいか、頭と体はすっきりとしている。
 これから、謎の襲撃者の調査とか、今後の対策を考えたりとか……やるべきことが山積みになっている。さて、どこから手をつけるか……と、思案していると……。
 不意に、茅に、頭を抱きすくめられた。
「荒野……不安?」
 語調は疑問形だったが、実際には、茅はかなり的確に荒野の心理を読み取っている……と、感じた。荒野が茅の感情を読む以上に、茅は荒野の感情を子細に読む。
「……少し……」
 嘘をついて強がっても、茅に通じない……と、なんとなく悟った荒野は、素直にそう呟く。
「でも……荒野……。
 もう、一人じゃないの……」
 茅の体は雨に濡れていて、抱きすくめられると、濡れた服が荒野に押しつけられる。それでも……荒野は、茅のぬくもりを感じた。
「茅がいるし……それ以外にも、みんな、荒野の味方なの……」
「……茅……体、冷えているよ……。早く着替えなけりゃ……」
 こう答える、声がつまりがちになる。
「……ん……荒野。一緒にシャワー浴びよ。
 そしたら、二人でお隣に行くの。みんな、待っているの」
 荒野は茅に手を引かれて浴室に向かい、そこで二人で服を脱いで手早くシャワーを浴びる。その途中で、茅に涼治との電話でのやりとりを伝えた。
 茅は荒野の話しを頷きながら聞きいた後、
「……これから、みんなお隣りに集まるから……」
 と答えた。
 シャワーを浴び終え、着替えたところに、インターフォンが鳴る。
 ドアを開けると、三島百合香が有働勇作を従えて立っていた。有働勇作は、佐久間現象を背負っていた。
「こんなもん、いつまでも人の車んなかにつっこんだままにしうておくなってーの……」
 三島百合香は、不平混じりの言葉の割には、顔は笑っている。
「……そんなもん、いってくれればおれが取りに行ったのに……。
 悪いな、有働君。とりあえず、中に入ってくれ。
 茅、お茶を……」
「わたしの分はいいぞ、荒野。
 これからちょっと病院にいって、ガクとテンの着替え置いてくるから……」
 そういって三島百合香は、さっさと踵を返して去っていく。
「……有働君だけでも、どうぞ……」
「ええ。お邪魔します……。
 あの、この人は……」
「ああ。そこのソファにでも置いておいてくれ。
 と、そうだな。お隣りに行く前に……あの二人を呼んでおくか……明日のことも、確認しておきたいし……」
 有働が佐久間現象の体をソファに降ろし、荒野が楓に連絡する。茅は、お湯を沸かしながらテンに電話をかけているようだった。

「……茅、お茶、楓と才賀の分も追加」
「荒野……テンとガクも、明日、行くって。
 二人とも、六主家の人たちに会いたいといっていたの」
 ほぼ同時に電話を切り、そう伝え合う。
「……どうしたんです?」
 佐久間現象の体を降ろして身軽になった有働が、怪訝な表情をした。
「例のガス弾のヤツ、一族の方でもいろいろ反響があるみたいでね。
 六主家のやつらが、明日、おれたちと話し合いたいって、打診があった……」
「……偉い人たちが、ですか?」
「そうはっきりとはいわれなかったけど……多分ね。
 どうやら、例のガスのヤツら、一族の方でも持てあまし気味だったらしい……って、これは、あくまでおれの推測なんだが……。
 ついでに、そいつの引き渡しも打診されたよ……」
 と、荒野は佐久間現象を指さす。
「はぁ……そちらも、いろいろと複雑そうですねえ……」
 有働は、あまり納得していないような表情で、曖昧に言葉を濁した。六主家がどうのこうの、というあたりに、実感が伴わないのだろう……と、荒野は推測する。
 昨日今日、その実在を知った一般人としては、当然の反応だと思った。
「ま、そっちの方は、おれの領分だから……って、茅! その針、抜いちゃ駄目!」
 佐久間現象の背後に回り、無造作にうなじに手を伸ばしかけた茅を、荒野は慌てて制止する。
「……こいつ……。
 荒野を、苦しめたの……」
 その時の茅の表情をみて、荒野の背筋に悪寒が走る。有働も、茅の様子に気を呑まれたのか、体を硬くして棒立ちになっている。
「……針の扱いは、一度見たから解るの……。
 こいつ、起こして……意識のある状態で……自分のしてきたことを、後悔、させるの……」
 やばい……と、荒野は、思った……。いや、本能的に、悟った。
 このまま茅のしたいようにさせておくと……ほぼ確実に、取り返しのつかないことになる……。
「やめるんだ、茅!」
 荒野は、強い語調で茅の動きを制止した。
「確かに、そいつには聞きたいことは山ほどある。そろそろ起こす時期だとは、おれも思う。
 だけど……もうしばらく待つんだ。せめて、楓と才賀が来るまで!
 こいつは、佐久間だ! 意識を取り戻したらどんなことをしかけてくるのか、見当もつかない。万全の状態で、挑みたいし……それに茅は、おれたちの中で一番、佐久間の手口を心得ている! だから、今回は、後ろに控えていて、万が一の事態に備えて貰いたい!」
 荒野が早口にまくし立てると、茅は、不承不承、佐久間現象の背後から離れ、荒野の背後に移動した。
 ちょうどその時、インターフォンが鳴り響き、楓と孫子の来意を告げた。インターフォンの音を聞いた時、棒を呑んだように硬直していた有働が、ようやく太い息をついて、体の硬直を解いた。
「茅さん……あんな面も、あったんだ……」
 ぼつり、と、有働が呟く。
 それは……恐怖よりも、むしろ、恐怖の時間が過ぎ去ったことへの安堵を、色濃く含んだ呟きだった。つい今し方までの茅を、有働は明らかに恐怖していた。

 そして……荒野も、有働とほぼ同じ気持ちだった。

[つづき]
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