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第六章 「血と技」(23)
「この期に及んで……戦うつもりは、ない。
無駄だからな……」
荒野の言葉と周囲の状況から、自分が置かれた立場を理解した佐久間現象は、構えを解き、自然体で立って、目を閉じた。
「戦わずに……逃げる!」
佐久間現象の姿が、かき消える。
以前、佐久間源吉や茅が、この部屋で使用した、他者の感覚系に干渉する術だ……と、悟った荒野は……。
「茅!」
叫んだ。
以前、茅は、荒野たちの目の前で、テーブルを消した。あの時は、三人組や三島百合香が同席していて、その場にいた全員に知覚を欺いたのだ。
茅が複数の人間の知覚系に干渉することが可能であるならば……その逆も、出来る筈だ……。
「無駄……なの……」
茅が、ぽつりといった。
同時に、荒野の左脇をすり抜けようとしていた佐久間現象が、唐突に姿を現す。
荒野が無造作に佐久間現象の足首を払うと、佐久間現象は前のめりに倒れた。
佐久間現象は自分の姿は荒野たちには知覚できない……ということを前提とし、無防備に荒野の脇を通ろうとしていた所に、足を払われたので……完全に不意をつかれた形であり、その時の佐久間現象の転び方は、いかにも無様だった。
腹ばいになった佐久間現象の背中に、荒野は足をのせて、動きを封じる。
「……な、な……なんだよ、これ!」
佐久間現象は、自分の術が破られた、ということが、俄には信じられないようで、目に見えて動揺していた。
「お前らの中に……佐久間の術を修練したヤツ、いない筈じゃあないのかよ!」
「習っては、いないの……」
佐久間現象の疑問に、茅は、気怠げに答える。
「佐久間源吉の技を一度見たことがあるので、真似をしてみただけなの……」
「なっ!
……はっ!」
茅の答えが、佐久間現象にさらなる動揺をもたらす。
「一度……たった一度、見ただけ、だと?
そんな……何年も修練してようやく使えるようになる技を……見よう見真似、だと……」
「荒野……」
茅は、酷薄な声で荒野にある提案をした。
「こいつ……うるさい……。
茅がこいつの頭の中を読むから、荒野、何でも質問して……」
「そ、そんなことまで……」
屈辱的な扱いのせいなのか、それとも、恐怖のせいなのか……佐久間現象は、荒野に踏まれながら、ガタガタ震えだした。
「で、できるわけないだろう……。そんな、佐久間の中でも数えるほどしか使えない高等技術を……体系的な知識もなにも教えられていないのが使おうとしたって……」
「知識とは、教えられるものではなくて、自分で学ぶもの。
体系とは、他者から供与されるものではなくて、自らの知で構築するもの。
源吉の技を目撃できた、という契機さえあれば、後はその経験を何度も頭の中で繰り返し、観察し……法則性を見いだし、応用すればいいだけのこと……。
その程度のこともまともに出来ないなんて……」
……佐久間は、たいしたことない……。
そういって……うっそりと、茅が嘲う。
佐久間現象が、何かに耐えきれなくなったように跳ね起き、叫び声を上げて玄関の方に突進する。
しかし、その途上に……楓と、孫子がいた。
楓は、紐で繋いだ六角で、すれ違いざまに、佐久間現象の顔を殴打する。
鼻血を流しながら横に泳いだ佐久間現象のみぞおちに、孫子が、ライフルの銃床をしたたかに打ち付け、もといたソファの方に押し戻す。
結局……佐久間現象は、もともと座っていたソファに、どっかりと腰を降ろした。
「……ありえねー……」
だらだらと鼻血を流しながら、どこか放心した態の佐久間現象が、呟く。
目から、生気が消えていた。
「……プロトタイプにして、失敗作……」
茅が淡々とした口調でしゃべりはじめると、佐久間現象はぎょっとした顔をして、茅の顔に視線を固定する。
「他の一族に比べ、佐久間の身体能力は著しく劣る。
その短所を改善し、なおかつ、佐久間の知力を保全する……そういうコンセプトで、合成された存在。
しかし、身体能力は強化されたものの、肝心の知力が佐久間の水準に及ばなかったため……数年前から、一般人として育てられる……」
茅の顔を見つめる佐久間現象の顔は、泣き笑いの表情で歪んでいる。
「自称、佐久間現象、とは、そういう存在……。
おそらくは、佐久間の一員として認められる前に失敗作の烙印を押され、一部の記憶を封印され、一般人社会に放逐され……平和に、暮らしていた……。
……その現象の記憶を、わざわざ封印から解き放ち、もともとあったコンプレックスを刺激し、荒野を襲撃するよう、し向けた存在がいる。
荒野は、手駒には用はない。
佐久間現象と名乗る手駒よ。
荒野に、お前の使用者についての情報を提供しなさい。
さもなくば……」
……茅が、さらに深く、読むの……。
茅は、能面のような顔で、そう締めくくった。
「……こ、これが……」
佐久間現象は、頭をのけぞらせて、笑う。
おそらくは、自嘲。
「失敗作と、成功作の差かよ!
おれは……おれは……一体、何の為に産まれてきたんだよぉ!」
自嘲、ではあるが……同時に、悲痛な叫び、でもあった。
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つづき]
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